妖魔大決戦

左藤 友大

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第五幕

襲撃(二)

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全身真っ赤な男は正輝の正体を熱く語った。
正輝は、300年前、正確には359年前に鬼神を倒した聖戦士 外神 真太郎の子孫だと明かした。
他の妖怪達は正輝の正体を知っているかのように全く驚きはしなかった。
聞いたこともない名前だけど正輝も彼らと同じそんなに驚くこともなかった。
それはなぜなのか。
祖父 有蔵から聞いたからだ。
「はあ・・・」
正輝は普通の表情でそれしか答えられなかった。
あまりのリアクションの薄さに太郎丸は鋭くツッコミを入れた。
「うおい!!反応薄っ!少しはびっくりせいや!」
自分のリアクションの薄さに正輝は何とも思わなかった。
「いや・・・。その話、爺ちゃんから聞いた事があるから・・・」
全身真っ赤な男の真剣な表情は自然に和らいだ。
「ほお。知っていたのか?」
「最近聞いた話だけどね。359年前、人間に悪さをした鬼神がいてその男の子が鬼神を倒したって・・・。名前は今初めて聞いたけど・・。僕は知らなかったけど爺ちゃんはお婆ちゃんから聞いたって」
「ほおほお。では、お前さんの婆さんも、外神真太郎の子孫だったのか」
正輝は小さく頷く。
「そう・・・なるのかな?」
亀姫は川丸に訊いた。
「川丸。あなたは彼に話さなかったの?真太郎のこと」
川丸は頷く。
「うん。ていうか、気づかなかった。まさか、正輝さんが真太郎の子孫だったなんて知らなかったから」
「ともかく」
全身真っ赤な男は言った。
「話が早くてよかった。そう。その爺さんのいうとおり、359年前、外神真太郎は鬼神を倒しこの日本の英雄となった。彼はとても勇敢で強くなにより正義感は人一倍強かった。こうして、お前さん達人間が普通に暮らせるのは、鬼神を倒した外神真太郎のおかげだ」
正輝は小首を傾げた。
「でも、外神真太郎だなんて聞いたこともないし歴史にも載っていなかったような・・」
亀姫は落ち着いた声で正輝に教えた。
「そうよ。外神真太郎は今でも歴史の裏に潜む人物。日本中の人間が彼を知らないのは無理もないわ。聖戦士の伝説はとても少なく失いやすい。彼や聖戦士伝説の存在を知っているのは、私達、妖怪と神々だけ」
「神々?」
全身真っ赤な男は答えた。
「日本の神々のことだ。聖戦士を誕生させたのは造化三伸の一人 天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)だからな」
「あめの・・・?」
「天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)。宇宙で一番初めに生まれた神にして天地開闢(てんちかいびゃく)、つまり宇宙の始まりにして天地に代表される世界最初の神。いわば、創造神だ。わしらもあまり詳しくはないが、あの天照大御神が現れるずっと前に君臨した最高神だと聞く。聖戦士は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)によって生まれたといわれている。最初の聖戦士が生まれたのは─」
話を続けようとする真っ赤な男に貉が口を挟む。
「猩々のおっさん。今は、長々と話している場合じゃ」
猩々と名乗る全身真っ赤な男は話を止めた。
「おお。そうだった。すまんすまん」
猩々。聞いた事がある名前だと思った正輝は記憶を辿る。
すると、正輝はあっ!と大きな声を出した。
「猩々って、あの麒麟獅子舞に出てくる!」
はっはっはと笑う猩々。やっと気づいてくれた事が嬉しかったのだろう。
「そうだ。その猩々だ」
猩々は笑った後、話を切り替えるように正輝にこれからの事を教えた。
「正輝。わしらは今からお前さんをある場所へ連れて行く」
「ある場所?」
「烏天狗の里だ。そこにお前さんが必要となる聖剣がある」
聖剣。克己の母親から聞いた事があるのを思い出す。
鬼神を倒した少年は後に新しい聖戦士が現れるまで聖剣を大山に住む烏天狗に預けたのだ。
つまり、猩々達は先代聖戦士 外神真太郎の子孫である正輝に聖剣を渡そうとしているのだ。なぜ、自分が外神真太郎の子孫だから聖剣を持たなくちゃいけないのか。彼らの真の目的とは何なのか?
それよりも、この大山に烏天狗がいるというのは本当だった。大山の言い伝えは正しかったのだ。
「どうして僕が聖剣を?」
正輝は猩々に訊ねた。
「お前さんは、わしらと一緒に奴らと戦うからだ」
「戦う?」
「そう。悪霊軍団とな」
すると、正輝の頭の中からあの大きな鉤爪を持った怪物を思い出した。
あの怪物の事も悪霊と言っていた。
「ま、まさか、あの怪物みたいな奴と戦うの?僕が?」
猩々は頷く。
「そうだ」
「冗談でしょ?」
「冗談ではない。その為にお前さんを大山に来させたのだ」
猩々が全く冗談を言っていない事が分かる。
本気で正輝をあの恐ろしい悪霊と戦わせる気だった。
でかくて鋭く大きな鉤爪を持つあの悪霊。しかも、軍団というとあの悪霊みたいな凶暴な怪物が何体もいること。
正輝は笑えなかった。むしろ、身の毛がよだつ。森の木々を軽々に倒し恐竜並みの体を持つあの悪霊みたいな怪物と戦うなんて勝てる気もしなかった。
「本気であの恐竜並みの怪物と戦うの?む、無理だよ!」
正輝は戦う事に拒否した。あんなのと戦うなんて絶対、勝ち目はないと決めつける。
さっきまでの愛菜を捜す勇気と一つ目小僧を助けた勇気はどこへいったのやら。
拒否る正輝に猩々は
「いや。お前さんならやれる」
「でも、僕、本物の剣を触ったことないし・・・戦ったこともないし」
すると、川丸が明るい表情で
「大丈夫。チャンバラごっこみたいにやればいいですよ!」
戦う事に拒否する正輝を鼓舞したつもりだったのだろうか太朗丸は軽くツッコミを入れた。
「それは無茶すぎないか?」
亀姫と貉が同感しているかのように頷く。
猩々は何とか参戦してくれないかと頼みこむ。
「別にお前さん一人で戦えとは言わん。わしら全国妖怪も一緒に戦うつもりだ。わしら妖怪を引っ張る心強いリーダーもおる」
「だったら、そのリーダーに頼めば」
「それは無理だ。今回の敵は、わしら妖怪だけでは勝てん厄介な連中なのだ。その悪霊軍団にはわしらとは比較にならない強者がいるのだ。その強者と対等に戦えるのは、300年前に鬼神を倒した外神真太郎の子孫 お前さんしかいないのだ。お前さんは、この世の中で最も数少ない聖戦士の後継者に選ばれた人間なのだ。外神真太郎もそうだった。もしかすると、このままでは日本は滅ぶかもしれない。その滅びから日本と世界を救えるのは七代目 聖戦士であるお前さんだけしかいないのだ。頼む。日本を世界を救う為にもわしらと共に戦ってくれぬか」
頭を下げる猩々に正輝は迷う。
戦うのは嫌だけど、悪霊軍団に日本が滅ぼされるのも嫌だ。
騙したうえに日本を守る為、一緒に戦ってくれないかと頼むなんてあまりにも都合が良すぎやしないかと思う。
でも、猩々が言ったように正輝と一緒に戦いたいという気持ちは亀姫達も同じだった。妖怪達は既に悪霊軍団と戦う覚悟はできているようだ。
しかし、正輝は不安で仕方がなかった。本物の剣を使った戦いなんて生れてこの方、一度もやった事もないし全く経験ゼロだ。小さい頃に遊んだヒーローごっことは違う。正真正銘、日本の未来を賭けた本物の戦いだ。
戦争と言ってもいいぐらいだ。
それに、彼らか見ればそんなに待つ時間がないみたいにも見える。
「もし、日本が、世界が滅んだらどうなるの?」
素朴な疑問に猩々は答える。
「わしら妖怪もお前さんも世界中の人間もこの世から消えるだろう」
正輝は思った。戦うなんて絶対無理。あの怪物みたいな悪霊、しかもたくさん戦うなんてあまりにもシビアするぎる。でも、もし悪霊軍団が日本を滅ぼしたら真理子はどうなる?有蔵は?克己は?由夏は?・・・・愛菜は?
きっと、殺されるだろう。それだけではない。世界中の人間が淘汰される。
ここで、戦う事を断り逃げたらもう妖怪達の勝ち目はない。そして、自分のせいで日本は滅び全人類は絶滅するだろう。
「草壁正輝。お前さんはこの滅びゆく日本と世界の運命を握るキーマンなのだ。お前さんがいるだけで悪霊軍団に勝てる可能性がとても高いのだ。わしらにとってお前さんが頼みの綱なのだ。頼む。力を貸してくれ」
猩々に続いて亀姫達も頭を下げて正輝に頼み込んだ。
みんな、正輝の事を頼りにしているのだ。正輝が、この日本を世界を救ってくれることを。
猩々達の強いお願いに正輝が出した答えは─
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