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2章

23 女々しい自分が嫌い

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 夢をみた。大好きな人がそばにいて、幸せに笑っている。
 子供がいて、抱きしめて、愛してるって小っ恥ずかしいこと言って、あたしに叩かれて、でも幸せそうに笑ってる、彼の姿を見た。
 
 目が覚めて絶望した。
 だって、そんな未来はこないのだから。

 涙が出てる気がした。最近あたしは泣いてばっかだ。
 女々しい。女々しくて、嫌だ。
 こんなのあたしじゃない。
 あたしは強い女で、誰にも負けない。
 男にだって、負けない強さがある。全力でやれば、そのへんの男なんて紙っぺらみたいなものよ。あたしは強いから。
 だから、泣いたりしないし、泣いてるのは、気のせいだ。

 廊下を走るあたしを、いろんな人が見てるのがわかった。


 そういえば、昔。ずっと昔、好きな人がいた。
 髪をそめて、ピアスをあけて、爪にネイルをして、派手な格好をした。
 彼が好きだと言ったから。
 でも、本当は違った。
 あたしが頑張ってる姿をみて、本当は笑っていた。
 それを知った時、あたしは。

 殴った。

 
「ただ今回は殴れないっ!」

 叫びながらあたしは廊下を走った。
 こういうとき、そっとしておいてほしい。のに。

「レナ!」

 なんで追いかけてくるかな!?

「まって、レナ! 違うっ話聞いてっ、って脚はやいな!」

 あったりまえでしょ! こちとら逃げるのには慣れてるんじゃい! 警察から逃げたりしまくったからな! え? 体がちがう!? 細かいこと気にすんな! 走り方さえマスターすればこんなもんよ!
 だから追いかけてくんな!

「なんでほっといてくれないの!?」

 思わず叫ぶ。周りが聞いてるとかどうでもよくて、とにかくアルクスに届くように叫んだ。むこうもなにか言ってるけど、ちょっと早く走りすぎて聞こえない。
 あと自分の呼吸の音がすごい。

 こんなことになるとは思わなかった。
 まさかの追いかけっこ。子供か! しかも城で……。
 こっちはドレスだから不利でしょうよ。
 廊下を突っ切って階段をおりて、大広間をさらに突っ切る。衛兵がなんか言ってるがしらん! とにかくあたしは走ることに専念した。
 ああ、でも仕事は放棄できない。一度庭にでて、ほとぼりがさめたら仕事場に……。
 戻ったらまたアルクスにあっちゃうんだよなぁぁ!
 いろんな意味で泣きそうになりながら玄関に差し掛かった時だった。よく見知った顔を見つけて、あたしは足を止めた。
 周囲には常時警戒中の衛兵と、数人の使用人たち。
 それから。

「フレデリカ……とミゲルさん」
「レナ? どうしたの? そんなに息を切らして……」
「レナ嬢? 何かあったのですか?」

 2人に心配そうにされているが、あたしは言葉がでない。とりあえず言えることはこのタイミングでフレデリカってちょっとかなりやばいんじゃないかってこと。

「ええと、ええとっ」
「殿下は? アルクス殿下はどちらにいらっしゃるのかしら」

 言われてハッとする。もしかして、もしかして婚約の話をしに来たのでは?
 ならばさらにひどい有様だ。後ろから追っかけ来てるアルクスがここに辿り着いたら……。

「レナ!…………とフレデリカ?」

 来ちゃったよ…………。

 観念するときっていうか、今こそ現実を殿下に見せる時じゃない?
 ゆっくりとフレデリカに近づく。そして優しく、努めてやさしく手をとった。

「フレデリカ。あのね。例の話をしに来たんだよね」
「あ、ええ。その婚約について……」

 なるほど、もう隠す必要もないのか。
 あたしは笑顔を作る。案外普通に作れた。祝福ちゃんとできそう。


「フレデリカ、幸せになってね…………殿下と……」

「え!?」

「え?」

 驚愕の声を上げたのは、なぜかミゲルさんだった。
 驚いて顔をあげると、すごい顔してるミゲルさんと目があう。

「誰が、誰と、なんですって?」
「え」

 え、知らないの? そんなことってある?

「えっと、フレデリカと殿下が……」

 口をポカンと開けたミゲルさんと目が合いまくってる。すごい顔ですよ。見たことない顔してますって。と思いきや、目の前のフレデリカが噴き出した。
 と思いきや、今度は後ろでアルクスが動く気配がした。驚いて振り向くと、なぜか膝に手を置いて脱力している。
 んん??

「あ、あのね、レナ」

 笑いを堪えながら、フレデリカが言う。

「う? うん」
「婚約のお話はね、私と殿下ではないのよ」
「へ?」
「アルクス殿下」

 今度はアルクスにフレデリカが話しかける。手からすり抜けて行ったフレデリカの細い手を追いかける暇もなく、フレデリカはドレスの端をもって頭を下げた。

「この度、兼ねてよりお話しておりました、婚約式を執り行うこととなりました。改めてご報告させていただきます」

 報告?

「ああ……」

 アルクスの脱力しきった声が聞こえる。

「ああ、うん。おめでとう。フレデリカ、ミゲル」
「うん?」
「ふふっ。つまりね、レナ。わたし、ミゲル様と婚約することになったの」
「はえ!?」

 思わずミゲルさんの顔を凝視する。

「ご挨拶の時申し上げていませんでしたね。アードラー公爵の息子で、ミゲル・ゴートン・ウィンテルと申します」

 公爵……公爵!?



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