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1章

3親友が雇い主になったわけで

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 何度か遊びに来たことのあるカウロアド伯爵のお屋敷は、それはそれは見事なもので、子爵のうちとは比べ物にならないくらい大きかった。そりゃ伯爵位を持ってる人はそんなに多くないし、当たり前っちゃ当たり前なんだけど、身分差感じちゃう。

「本当にいいの?」

 不安になって聞くあたしをフレデリカが優しい顔で見返してきた。

「いいの。だって、私のために怒ってくれてたレナが大変な目にあってるのに、何もしないなんてできないもん。だから、うちでいいなら、ぜひ」

 うーん。優しい子。

「でも、フレデリカだって今大変なんじゃ……あのクソ野郎のせいとはいえ、いろいろやってることにされちゃって」
「もうっ、口が悪いんだから」

 そう言いながら嬉しそうにフレデリカが笑う。だって本当にあいつクソ野郎なんだもの。でも確かに、フレデリカならそんなふうには絶対言えないだろうし、あたしくらいしか、もしかしたらフレデリカの味方してあいつを罵る奴はいないのかも。
 そう思うと本当身分てやだなぁって思う。イーサンは公爵家の人間だから、仕方ないんだけどさ。

「今はね、たしかに私が悪者になってしまっているの……。でもお父様も私がそんなことしないってわかってくださって、今必死に誤解を解くために奔走してくださっているから。私も弱音を吐いてはいられないわ」
「いいお父さんだね」

 思わずそんな言葉が口から出て、フレデリカの表情が曇る。

「あ! ごめん! 悪気があったわけじゃ、ほら、あのうちの親が最悪なのは今に始まったことじゃないっていうか。慣れてるし!」

 必死に弁解するけど、フレデリカの表情は悲しそうで。
 ああ、本当に悪いこと言っちゃったよ、この口は。

「と、とにかく、働き口見つかってよかったよ! 一時はどうなるかと思ったもんさー」
「レナならいつまでもいてくれていいのよ。むしろ働かなくたっていいのに……」
「そういうわけにも行かないよ。あたし何も今返せるものないしさ。働かざるもの食うべからずっていうやつよ」
「また誰かの格言? レナって私の知らない言葉いっぱい知ってるわよね」

 おっと、前世の言葉です。うまい具合に翻訳されているのかよくわからないけど、こっちの言葉でしゃべってみるとニュアンスとかも変わったりするから、あっちの言葉を多用するとわけわかんなくなる。
 あたしは苦笑いを返した。
 
 今日から、伯爵のお屋敷で働くことになったって言うね。そういうわけです。
 つまり親友が雇い主になっちゃった。今まで通りでいいよって言われてるけど、身の回りのお世話とかもさせてくれるらしい。まあ子爵の娘が上の階級のご令嬢の侍女をやるのは珍しいわけじゃないし、いいよね。
 侍女長さんに連れられて、私は割り振られた部屋に行く。それなりにいい部屋だった。申し分なし。
 で、荷物をおいて、ドレスを着る。侍女っていうのはメイドとはちょっと違うから、メイド服みたいな制服はないんだって、こっちの世界に来てから知ったというか、こっちの世界ではそうらしいっていうか。だからまぁ、昔のヨーロッパがどうだったとかはわかんない。
 もらったドレスはフレデリカの普段着を譲ってもらった。
 似合う似合うって言うけどさ。あたしの赤毛に深緑のドレスは確かに悪くないけどさ。ドレスってちょっと苦手だったりするんだよね。もう何年もこの体にいるのに。

「ね、レナ。こっちでお茶しましょ」
「え、そんなのいいの?」
「いいのいいの」

 フレデリカは嬉しそうだった。
 だからまぁいいか。ってそんな感じでお気楽にあたしはフレデリカの向かいに座って、お茶菓子をつまんだ。

 


 
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