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1章

2 やっちまいました

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「くそおやじ」

 そう言ったら思いっきり殴られた。

「くそばばあ」

 そう言ったらやっぱり殴られた。
 あたしの人生はそんな感じで、いつも誰かに殴られていた。だからあたしも殴った。
 気に入らない奴は殴って、黙らせて、それでもうるさい奴は仲間と一緒にけちょんけちょんにしてやった。
 それで大概なんとかなった。
 そりゃ学校では大目玉食らうし、警察には怒られるし、親は、まぁいないようなもんだったけど学校によびだされても蹴るような人たちだったし。
 ともかく散々な目には会うけど、でもそれでも気持ちはすっきりした。
 殴ればどうにかなるってそう思うようになるのに、時間はかからなかった。


 でもそれって、こっちの世界じゃ違うんだよね。
 転生ってやつなのか、喧嘩中に角材で殴られて、気づいたら子供の姿になってこんな堅苦しい世界にいた。

 
 レナ・ハワード。それが今のあたしの名前だ。
 アードライン子爵家の娘。兄や姉がいるから、この家じゃそんなに価値はない。せいぜい政略結婚に使うかどうかってところだろう。あたしがこの体に入った時には、すでにこの家じゃいないもの扱いされていた。病弱で、内向的だったって話。
 レナがあたしになってからは、乱暴すぎて手に負えないって、やっぱり腫れ物扱い。
 結局この家には居場所がない。
 あたしには合わない世界だ。
 そんな中で出会ったフレデリカは、伯爵令嬢なのに親しげで、乱暴なあたしのことを少しも嫌がらないでそばにいてくれる親友。
 あたしの大好きな人。
 この世界にきて、唯一よかったことといえば、フレデリカがいてくれたことなんじゃないかなって思う。
 だから、後悔はしてない。


 
 
 「こんのっ!!!!!!!」

 続きはどうやら言葉にならなかったらしい。
 冷めた目で"レナ"の父親を見つめて、あたしは目を細める。
 そりゃそうだ。イーサンは公爵の息子だ。それに子爵の娘が手をあげたんだから、お家没落真っ逆さま。
 しかもあの阿呆なイーサンの父親のことだ。多分情状酌量の余地もない。この世界じゃ執行猶予もないしね。だからこの哀れな子爵にできることは多分一つ。

「お前は勘当だ! 二度と、二度とうちの敷居はまたがせん! 王都からも出て行け!」
「はーい」

 せいせいするってもんよ。こんな堅苦しい家で、堅苦しい格好をして、堅苦しい社交界にでる生活なんてもうまっぴら。
 あたしは前世みたいに自由に生きたい。
 とはいえ、イーサンを殴ってしまった手前、もう自由はないかもしれないけども。

「やっちゃったなー」

 後悔はないけど、やらかした感はある。そんな感じ。


 その日のうちに、私は家を追い出された。
 当然だ。どこにいくこともできない。温情もないから金もない。服だって、多分使用人のお下がりをわざわざ与えられた。ドレスを売って金にすることもできないようにっていうことなんだろう。
 勘当してもやり足りない。餓死しろってか。
 どうしたもんかなぁ。街に行ってとりあえず仕事探さないと。王都からも出て行けって言われたけど、さすがにそれには強制力ないし。時給のいいところで働きたいなぁ。
 あたし、前世でバイトくらいしかしたことないんだけど、なんとかなるんだろうか。

「レナ!」

 大好きな声がして振り返る。
 綺麗な馬車の前で、フレデリカが泣きそうな顔をして立っていた。

 
 
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