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愛しているのに

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「お姉様」

 しばらくの謹慎を言い渡された私は、のろのろと部屋に戻る廊下を歩いていました。
 そんな私の後姿に声がかかる。
 今は、会いたくない人です。けれど無視はできません。そうしたら、父に叱られてしまうからです。

「はい。なんでしょう、セレスティア」

 クリスティアとセレスティア。名前がよく似ているのはどうしてなのか、お父様はセレスティアが産まれた時はまだ、私とこの妹が仲良くできると思っていたのでしょうか。

「アルフォンス様とのご婚約、破棄されたって本当?」
「どうして……」

 そのことを知っているうのだろう。お父様が話た? そんなことはないと思うけれど、ではなぜ?

「あら、やっぱりそうなのね。公爵様からお手紙が届いたと聞いていたのだけど、とうとう婚約破棄されたんじゃないかって、屋敷中で噂になってますわ」

 なるほど。この屋敷の使用人は、私のことを遠巻きにする。それはセレスティアがそのように命じたからだったけれど、    いつのまにか、それが当たり前になってしまいました。
 それにしても、鎌をかけられて、望み通りに答えてしまった私は愚か者です。とうの昔から、そんなことはわかってしましたけれど、本当に、私は何をしても愚かで、どうしようもない。
 セレスティアのように愛くるしく微笑むことができないだけで、こんなにも私は私を嫌いになってしまった。

「そう……。だとしても、セレスティア、噂を肯定しないでくださいね。お父様が困ってしまうわ。まだ、確定したわけではないのだから」

 そう言えば、さっとセレスティアの顔色が変わりました。

「わかっているわよ。そんなこと。でも婚約は必ず破棄されるのでしょうね。だって、お姉様と婚約するより、私との婚約をアルフォンス様は望んでいらっしゃるのでしょうし」
「え?」

 思わず顔を上げた私を、セレスティアが珍しいものでも見たような顔で見返してきました。けれどすぐに楽しそうに微笑んだ。

「以前から親しくさせていただいてますのよ」

 それは婚約破棄をつげられたとき以上の衝撃でした。
 まさか、まさかそんなことになっていたのは思いもよらなかったのです。

「そういうことですから。それじゃあ私、いまからアルフォンス様とお茶をしにいく約束をしていますの。では」

 そんなトドメを指すように言葉を突きつけて、セレスティアは去って行きました。そういえば、いつもより派手なドレスだった。きっとアルフォンス様に見せるためね。

 後ろ姿を追って、思うのは、どうして、ということ。
 いいえ。婚約破棄されたのだもの仕方がないわ。でも、だけど、どうしてセレスティアなのかしら。どうしてあの子を選んでしまうの? それでは本当に私のこの表情の変わらない顔を、そして愛想のない私を疎んでいたようではないですか。
 私とセレスティアはどちらもお父様に似ていて、顔つきがよく似ているもの。
 似た顔で、けれど表情は雲泥の差。そして性格も。

 外見ではなく、内面の問題。そう突きつけられたようだわ。
 そうね。きっとそれでアルフォンス様はセレスティアをお選びになったということなのね。

 ああ、どうして、こんな呪いがあるのかしら。
 私は泣き崩れそうになりながら、必死で自室を目指しました。
 人前でなければ、泣けるのだから。

 たどり着いた部屋で、私は鍵をかけて閉じこもりました。謹慎をいいわたされているのだから、おかしい行動ではないはず。
 1人になった。
 そう実感した瞬間。
 視界が揺れました。
 
 ああ。
 
 ああっ。
 
 ああっ!

 涙が、熱い涙が頬を伝う。それがなんと煩わしいことか。
 胸が苦しい。息ができない。それがどうしてこうも辛いのか。

 どうして! どうしてなの!?

 どうして私は呪われているの?

 どうしてお母様は呪われていたのか?

 どうしてお祖父様は呪われてしまったの?

「………愛しています」

「愛していますっ」

「愛してします!」


 どうしてこの言葉を紡げないの?
 どうして彼の前で言葉にできないの?
 どうして………。

「アルフォンス様…………」
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