[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜

日向はび

文字の大きさ
上 下
23 / 23

23 それから

しおりを挟む
 数日後、ルーラとグレンは2人でかつてきた丘にやってきていた。

 2人、といっても、護衛や侍女も一緒だが。
 そこで2人は幼い頃に約束をした場所に立っていた。

 風が2人の間を抜けていく。ルーラの長い髪をさらっていくのをグレンはじっと見つめる。

「いい、天気ですね。グレン様」
「ああ」

 2人の間には沈黙が流れているが、それは奇妙に心地よいものだった。

「今回は、君に苦労をかけた」
「いいえ。私はすべきことをしたまでです」
「本当に?」

 グレンがすぐさま聞き返す。

「確かにルーラはすべきことをした。けれど、自分の幸福を得るためにも動いたと言っていただろう」
「……はい」

 沈んだ声にグレンは首をふる。

「責めてるわけじゃない。逆だ」
「逆?」
「俺は、その言葉の意味を取り違えてないと思っていいのだよな」

 さっとルーラは顔を赤くした。思わず顔をそむければ、グレンがその赤くなった顔を追いかけるように目の前に立った。

「今回のことでわかったことがある」
「……なんでしょう」
「俺は、きみが好きだ」

 ルーラは目を見開いた。

「ちゃんと、言葉にしたことはなかった。伝わっていると思っていたし、実際伝わっていただろう」
「っ」

 ルーラはコクコクと頷いた。

 知っていた。愛してくれていることを。だからこそ苦しかった。
 
「俺は約束を忘れていないし、君も覚えているだろう?」

 再びルーラは頷く。
 言葉が出なかった。

「その約束が君を縛っているのではと思ったこともあったし、それはいけないと思うこともあった」
「それは……」
「だが、君が俺を得るために動いたと、その気持ちがあったというなら……。俺も俺の気持ちに素直になろうと思う」

 グレンが穏やかに微笑んだ。

「君が好きだ」

「君を誰よりも愛している」

「君を俺のものにしたい」


 いいか?

 そう聞かれてルーラの目から涙が流れた。
 ああ、伝えてくれた。
 ならば、己もそれに返さねばならない。

 ルーラは漏れそうになる嗚咽を耐えて、笑った。

「好き。好きです。だから……私のものになってください」

 真っ赤になって言い切った。そのまま恥ずかしさに俯く。
 そこへグレンの手が伸ばされる。
 近づいてくる気配に、たまらなくなって目を閉じた。
 柔らかい何かが、額に当たる。
 言葉は、風に紛れるように静かに紡がれた。




「――――――」

 










 大陸を分断する山脈に隣接する西の国には、とても美しい国王と王妃がいるという。
 彼らはどんな困難も2人で乗り越えた。どんな苦しみも2人で背負った。
 彼らは聡明で、優しく民に愛され、そして多くの革新的な政策で国を導いた。
 
 国王の名はグレン。
 王妃の名は、ルーラという。





 
しおりを挟む
感想 12

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

らっしー
2022.08.16 らっしー

楽しかったです!
こちらも一気読み!
サクサク読める長さで最高です(笑)

長いと一気に読み切れず、内容をわすれておさらいが必要なので、ちょうどいいですw

キレイな終わり方だと思いますが、番外編でその後の2人の様子やレティシアのその後も知りたかったなーと欲も出ますね。

解除
菜崎 智亜
2022.07.30 菜崎 智亜

素敵なお話をありがとうございます。
序盤のルーラの苦悩には、胸が締め付けられそうでした。

しかし、お話が短い!もっともっと読みたかったです。

日向はび
2022.07.31 日向はび

感想ありがとうございます!
感情が伝わるような作品を目指しているので、ルーラの気持ちが伝わったのでしたら、とっても嬉しいです。

なかなか長い作品を書くのが難しくて(> <)
いずれ長編書きたいと思います。
ありがとうございました!

解除
みー
2022.07.28 みー

とても面白かった〜。最後まで一気に読みました😍

日向はび
2022.07.28 日向はび

ありがとうございます!
楽しんでいただけたようで、とても嬉しいです!!!

解除

あなたにおすすめの小説

私の婚約者は、妹を選ぶ。

❄️冬は つとめて
恋愛
【本編完結】私の婚約者は、妹に会うために家に訪れる。 【ほか】続きです。

「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

茉丗 薫
恋愛
わたくしの愛おしい婚約者には、一つだけ欠点があるのです。 どうやら彼、『きみ』が大好きすぎるそうですの。 わたくしとのデートでも、そのことばかり話すのですわ。 美辞麗句を並べ立てて。 もしや、卵の黄身のことでして? そう存じ上げておりましたけど……どうやら、違うようですわね。 わたくしの愛は、永遠に報われないのですわ。 それならば、いっそ――愛し合うお二人を結びつけて差し上げましょう。 そして、わたくしはどこかでひっそりと暮らそうかと存じますわ。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ※作者より※ 受験や高校入学の準備で忙しくなりそうなので、先に予告しておきます。 予告なしに更新停止する場合がございます。 その場合、いずれ(おそらく四月中には)更新再開いたします。 必ずです、誓います。 期間に関してはは確約できませんが……。 よろしくお願いします。

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

【完結】私の嘘に気付かず勝ち誇る、可哀想な令嬢

横居花琉
恋愛
ブリトニーはナディアに張り合ってきた。 このままでは婚約者を作ろうとしても面倒なことになると考えたナディアは一つだけ誤解させるようなことをブリトニーに伝えた。 その結果、ブリトニーは勝ち誇るようにナディアの気になっていた人との婚約が決まったことを伝えた。 その相手はナディアが好きでもない、どうでもいい相手だった。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。

華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。 王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。 王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。

木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。 その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。 ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。 彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。 その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。 流石に、エルーナもその態度は頭にきた。 今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。 ※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

【完結】本当に私と結婚したいの?

横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。 王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。 困ったセシリアは王妃に相談することにした。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。