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20 王女の話
しおりを挟むレティシアは可愛かった。
生まれた時からそうだった。
生まれながらのストロベリーブロンドは珍しくも美しかったし、可愛らしさを強調してくれた。
幼い頃から誰よりも美しいとたたえらえた。
各国の者が美しいと褒め称え、誰も彼も魅了した。
多くの国費を使って贅を尽くし、多くの貴族令嬢に自身のような贅沢を推奨した。
他国からの求婚がくれば、適当に貢がせて捨ててやることさえレティシアにはできた。
国王がそれを止めてもお構い無しだった。
カルサンドラの国王から手紙が届いたのは、そんな時だった。大国であるカルサンドラの国王を魅了したのだ。
レティシアは自分が特別に美しいのだと自覚した。
最初は有頂天になった。喜び、父王にも自慢した。しかし父王は頭を抱え、母は涙した。
レティシアはその時はなにもわからなかったが、後日、カルサンドラ王国国王との婚姻について話された時、愕然とした。
「どうして? いままでも断ってきたし、断ればいいじゃない」
レティシアは政治に疎かった。この国の情勢になど興味がなかった。何度勉強しても、興味がない以上頭には入らず、王女でありながら戦争の危機すら気づいていなかった。
カルサンドラの申し出を断ればどうなるのか。わかっていなかった。
隣国のアルバストを巻き込もう。そう言いだしたのはどこかの侯爵だった。
レティシアに心酔している男だ。レティシアのためならなんでもする男だった。今、父王は貴族たちに押されていて、強く出れないと侯爵は言った。
ならば貴族たちが同意すれば、王を黙らせることができると思った。
レティシアに従う者たちを誘惑し、土地をやると根拠のないことをうそぶいて、彼らにアスバストへ連絡を取らせた。
色よい返事がきて、レティシアはほくそ笑んだ。
そしてアスバストにきた日。噂に聞いた王子の美しさに一目で惚れ込んだ。あんな豚のようなカルサンドラの王に嫁ぐなんていや。
私はこの美しい王子と結婚するのよ。それが美しい私に一番似合う幸せだわ。
レティシアは何一つ疑っていなかった。
「グレン殿下。どうかお怒りをお鎮めになって。我が国の貴族が失礼をいたしました。でも、わたくしのために皆心を砕いてくれたのです」
レティシアは自分自身の強みをよく知っている。グレンの腕に自らのしなやかな手をからめ、豊満な胸をグレンの体に押し付ける。下から遠慮がちに見上げ、瞳を潤ませる。
男なら、誰であっても揺らぐであろう姿を惜しげもなく見せる。
レティシアはグレンが自分を愛していると疑わなかった。
なぜなら、誰であってもどんな男も自分の虜になったからだ。婚約者がいようが、妻がいようが関係ない。男は皆自分に夢中になるのだ。
そう信じ、すがりつくレティシアをグレンは冷たく見放した。
「あなたはご自分の立場がわかっておられないようだ」
「え?」
予想と違う反応に、レティシアは呆けた声をだした。
「貴国は我が国を騙そうとなされた。その結果、我が国に危機を招くところであった。それを見逃せと申される」
「わ、わたくしに免じて、ね?」
可愛らしく首を傾けるが、そんなものに今心を揺らがせる者はこの場にはいない。
ここでようやく空気を察知してレティシアは焦った。自分が出れば仕方ないと言ってくれると思った。
だってあの女を、愛していないと言ったではないか。私を選ぶとそう言った。
ならば私をここで守るべきだ。そうすべきだ。
「で、殿下はわたくしを愛していらっしゃるでしょう? 愛する者を助けてくださるでしょう?」
必死な様子に、ルーラの眉がひそめられた。それは少しの同情を帯びていたが、グレンはレティシアに同情することはなかった。
「いいえ。王女殿下」
「え……?」
「これは政略結婚です。愛はそこにはない。いつか、見つけられる日がくるかもしれないと考えておりましたが……。それももうないことです」
その機会は永遠に失われたのだ。
調査するまでもなく、交渉は決裂したのだ。
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