[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜

日向はび

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17 会議

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 貴族会議を行う部屋は、今は来客であるエルマル王国の者たちを迎えるために、一際豪華に美しく整えられていた。
 その部屋の窓際で、グレンは無心で城の庭を眺める。
 すでに気持ちは会議へと向いているのに、ぼんやりと揺れている心を感じ取ってもいた。
 覚悟など決めたところで、グレンの憂いは晴れない。
 なんと弱いことかと、グレンは自嘲気味に笑う。

「殿下」

 声をかけてきたのはハードヴァード公爵だった。
 ルーラの父で、いままでと同様に今回の会議に出席してくれる。

「公爵……よくきてくれた」
「は……」

 彼もまた、憂いを帯びた目をしている。
 グレンは意図的にそれを思考から追いやって、再び窓の外へと視線をうつす。窓に公爵の顔が歪んで写っている。それはガラスの歪みか、公爵の表情か。

「公爵」
「いかがいたしましたか」
「この会議が最後になると思う」
 
 そう告げれば、窓に写る公爵は一瞬傷ついたような顔をして、それから真剣な表情に変わった。
 怪訝に思って首をかしげ、公爵本人に顔を向ける。

「どうした、公爵、何か……」
 
「殿下、私は国のためならなんでも良いと思えるほど、お人好しではなかったようです」
 
「それは……」

 ルーラについてか。と尋ねる前に、公爵が口を開く。
 
「どうか殿下、私には今その言葉を言わないでください。そして会議が終わった時には……」

 そこまでいって、使節団が部屋に入ってきた。公爵はさっと頭を下げると、使節団と共に椅子に着く。
 公爵の不思議な言動はグレンを大いに乱した。
 だが、それも使節団が席に着く姿を見ていると落ち着いてくる。
 己は王子で、これから国の行く末を決める大事な会議があり、そこでこれまで先延ばしにしていたことを詫びて、会議を進めなくてはいけないのだ。

 グレンもまた宰相の隣に腰掛けた。
 
 今回の会議のほとんどは、グレンに一任されているといっても過言ではない。結果を王は聞くだろうが、そこは信頼されているのだろう。「うまくいったら報告を聞く」とだけ言われている。
 宰相が静かに口上をのべる。それを皆が真剣な顔で聞いている。
 いままでは、グレンはどこか遠くで起きていることのように感じていたが、今はそうではない。

 会議は滞りなく行われた。
 話題はすぐに前回の続きになる。問題点をどう解消するか、それについて双方の国がだした結論を話し、折り合いをつけることになる。
 その前に、とグレンは会議を遮った。
 宰相が隣で期待の高まった表情をしているのを気配で感じる。他の貴族も「ようやくか」という顔をしていた。
 グレンは静かに深呼吸をする。
 これで全てが滞りなくすすむ。

「長らく、時間をもらってしまいすまなかった。レティシア王女との婚約の件だが……」
 
「お待ちください」

 重厚な扉が開くのとほぼ同時に、玲瓏な声が響いた。
 部屋にいた全ての者の視線が一気に扉へと向かう。

「どうして……」

 グレンは小さく呟く。

 扉を開けて入ってきたのは、ルーラだった。

 
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