[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜

日向はび

文字の大きさ
上 下
2 / 23

2 ダンス

しおりを挟む
 やがてダンスの時間がやってきた。
 長引いた会議が終わったのか、その頃にちょうどグレンが会場にやってきた。
 
 鮮やかな栗色の髪。瞳は青く澄み渡っている。背筋はピンと伸びて、顔は精悍で勇ましく、穏やかさを内包しながらも次期国王としての威厳をすでに携えていた。その表情は険しく、柳眉は顰められていても、彼の美しさは損なわれていない。
 
 喜色をみせたのはレティシアである。彼女は駆け寄るようにグレンに近づく。何事かを話したあと、グレンの手がゆっくりと持ち上がった。
 レティシア王女が差し出された手をとる。
 そっと近づく2人を見ていられなくて、ルーラは目線を静かに下げた。
 殿下とのダンスは王女が最初に踊る。当然といえば当然だ。しかしルーラとしては今までは自分が一番はじめに踊っていたという事実を思い起こすばかりであった。

 下げた視線を再び上げたのは、グレンが誰かと踊っているという珍しい光景を、見ておかないともったいない。などと思ったからかもしれない。
 美しい音色が奏でられる中、優雅にグレンは踊っている。そしてレティシアも。さすが王女というのは、不敬だろうか、ルーラは美しく踊るレティシアを見ながら思った。

「さすが王女様ですわ、すてきなダンス……」

 ルーラの飲み込んだ言葉を、側にいた令嬢の1人がうっとりとつぶやく。同意するように他の令嬢たちも頷くが、一部の令嬢たちの表情はなんとも言えないものだった。
 先程の一連のやり取りを見ていたからだろう。レティシアの癇癪のような叫びも、当然まだ記憶には新しい。

「会議が長引いて、あの場面に殿下や宰相様がいらっしゃらなかったのが、残念でなりませんわ」

 棘のある言葉を扇に隠して囁く伯爵令嬢に、ルーラは思わず笑ってしまった。

「ミランダさんたら」
「だって、ルーラさんもそう思いますでしょ? あの金切り声ときたら、さすがの宰相も驚いて婚約なんて言い出さないのではないかと思います」

 冷めた目でミランダはため息を吐き出す。
 伯爵令嬢ミランダとは、グレンの婚約者の座を巡って対立したこともあるような関係だった。しかしレティシアが来てからというもの、ミランダは「あの王女に差し上げるくらいなら、ぜひルーラ様が殿下と婚約してください」と言うまでに至っている。
 それもこれも、陛下、殿下、宰相、と今回の対談で大きな発言力を持つ者がいない場所で、さんざんルーラたち婚約候補者たちを、レティシアが貶すからだ。そういうことがあってから、ふたりはルーラさん、ミランダさん。と呼び合う関係になっている。
 
 ――令嬢たちの結束が高まったと言う意味では、彼女が来た意味もあったのかしら。

 などと思うルーラだった。



しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

私の婚約者は、妹を選ぶ。

❄️冬は つとめて
恋愛
【本編完結】私の婚約者は、妹に会うために家に訪れる。 【ほか】続きです。

「きみ」を愛する王太子殿下、婚約者のわたくしは邪魔者として潔く退場しますわ

茉丗 薫
恋愛
わたくしの愛おしい婚約者には、一つだけ欠点があるのです。 どうやら彼、『きみ』が大好きすぎるそうですの。 わたくしとのデートでも、そのことばかり話すのですわ。 美辞麗句を並べ立てて。 もしや、卵の黄身のことでして? そう存じ上げておりましたけど……どうやら、違うようですわね。 わたくしの愛は、永遠に報われないのですわ。 それならば、いっそ――愛し合うお二人を結びつけて差し上げましょう。 そして、わたくしはどこかでひっそりと暮らそうかと存じますわ。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ※作者より※ 受験や高校入学の準備で忙しくなりそうなので、先に予告しておきます。 予告なしに更新停止する場合がございます。 その場合、いずれ(おそらく四月中には)更新再開いたします。 必ずです、誓います。 期間に関してはは確約できませんが……。 よろしくお願いします。

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

【完結】私の嘘に気付かず勝ち誇る、可哀想な令嬢

横居花琉
恋愛
ブリトニーはナディアに張り合ってきた。 このままでは婚約者を作ろうとしても面倒なことになると考えたナディアは一つだけ誤解させるようなことをブリトニーに伝えた。 その結果、ブリトニーは勝ち誇るようにナディアの気になっていた人との婚約が決まったことを伝えた。 その相手はナディアが好きでもない、どうでもいい相手だった。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。

華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。 王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。 王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。

木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。 その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。 ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。 彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。 その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。 流石に、エルーナもその態度は頭にきた。 今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。 ※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

【完結】本当に私と結婚したいの?

横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。 王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。 困ったセシリアは王妃に相談することにした。

処理中です...