1 / 3
1
しおりを挟む「私達の婚約をなかったことにするって、お父様が言うの」
泣き出しそうな顔で少女は言った。
ブロンドの髪を花の飾りできれいに結い上げた姿は可憐で、妖精のようである。
そんな彼女泣き顔を誰が見たいと思うだろうか。
「どうしてそんなはなしになったんだい?」
美しい庭におかれたテーブルの上で少女はうなだれる。
「わからないの。どうしてか、突然……嫌って言ったの。私はマルクと結婚するのって」
でも、と少女は言葉をつまらせる。
「そんなはなし、ぼくは父から聞いてないけどな」
「そうでしょう? だから本当に唐突で……私嫌になってしまって、それでマルクのところに逃げてきたのよ」
「とつぜんで、母様はおどろいただろう」
少女はクスクスと笑った。
「そうなの。びっくりしていらっしゃったわ。マルクがどこにいるかって伺ったら、わからないって仰るから探してしまったわ」
「そんなこと言って……ぼくがいつもここにいることをセラナは知ってるだろう?」
「ふふっ。そうよ」
少女――セラナは笑みを深くする。
手元のお茶を口に含んで、それからまた顔色をかなしげにゆがめた。
「お父様ったら、どうしてそんなことを言ったのかしら」
「すこし時間をおいたほうがいいかもしれないね。帰ってすぐ理由を聞いても教えてくれないかも」
「どうして?」
純粋な顔でセラナが尋ねる。
「なんとなく。セラナのお父様はきびしい人だし、なにかお怒りなのかもしれないよ。怒りがおさまるまで待ったほうがいい」
「そう……そうね。そうするわ」
セレナは純粋だ。子供のように無邪気だ。16になっても子供のように自由に生きている。
けれどマルクとの婚約は政略的な婚約でもあって、問題ないはずだとセレナは信じている。
「さぁ、もうそろそろ時間も遅いし、おやしきにお帰り」
「ええ、もう? いつも時間が早く進むわ」
「楽しいときはそんなものだよ」
愛するマルクの笑顔に、セレナも笑顔になる。
「それじゃあまたねマルク!」
「うん。またね」
走っていくセレナは等々に振り返った。なにか奇妙な感じがしたのだ。
けれど振りえれば、変わらずマルクが手を振っていた。幼い顔立ちは昔のままで、それになんとなくほっとしてまた走り出す。
幼い子どものように。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
結婚式一時間前なのに婚約破棄された令嬢の周りはザマァにまみれて追放される
甘い秋空
恋愛
結婚式一時間前の親族の顔合わせの席なのに、婚約破棄された令嬢。周りはザマァにまみれて次々に追放されていく。タイムリミットが迫る中、新郎がいない令嬢は、果たして結婚式を挙げられるのか! (全四話完結)
イケメンな幼馴染と婚約したのですが、美人な妹に略奪されてしまいました。
ほったげな
恋愛
私はイケメン幼馴染のヴィルと婚約した。しかし、妹のライラがヴィルとの子を妊娠。私とヴィルの婚約は破棄となった。その後、私は伯爵のエウリコと出会い…。
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
【完結】わたしの隣には最愛の人がいる ~公衆の面前での婚約破棄は茶番か悲劇ですよ~
岡崎 剛柔
恋愛
男爵令嬢であるマイア・シュミナールこと私は、招待された王家主催の晩餐会で何度目かの〝公衆の面前での婚約破棄〟を目撃してしまう。
公衆の面前での婚約破棄をしたのは、女好きと噂される伯爵家の長男であるリチャードさま。
一方、婚約を高らかに破棄されたのは子爵家の令嬢であるリリシアさんだった。
私は恥以外の何物でもない公衆の面前での婚約破棄を、私の隣にいた幼馴染であり恋人であったリヒトと一緒に傍観していた。
私とリヒトもすでに婚約を済ませている間柄なのだ。
そして私たちは、最初こそ2人で婚約破棄に対する様々な意見を言い合った。
婚約破棄は当人同士以上に家や教会が絡んでくるから、軽々しく口にするようなことではないなどと。
ましてや、公衆の面前で婚約を破棄する宣言をするなど茶番か悲劇だとも。
しかし、やがてリヒトの口からこんな言葉が紡がれた。
「なあ、マイア。ここで俺が君との婚約を破棄すると言ったらどうする?」
そんな彼に私が伝えた返事とは……。
手のひら返しが凄すぎて引くんですけど
マルローネ
恋愛
男爵令嬢のエリナは侯爵令息のクラウドに婚約破棄をされてしまった。
地位が低すぎるというのがその理由だったのだ。
悲しみに暮れたエリナは新しい恋に生きることを誓った。
新しい相手も見つかった時、侯爵令息のクラウドが急に手のひらを返し始める。
その理由はエリナの父親の地位が急に上がったのが原因だったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる