隣人サイコパス〜オトギリ荘の住人たち〜あなたの隣の家の人本当に普通の人ですか?

日向はび

文字の大きさ
上 下
11 / 17
一章 二部 最初の真実

11話 303号室の殺し屋とハッカー-1

しおりを挟む



 人を殺して金をもらう奴は最低だと思うか?

 さて、どうだろうな。
 俺はそこんとこ微妙だと思うんだよ。

 ま、俺からすれば、金という対価もなく殺生をするような奴のほうが、碌でもないと思うんだわ。
 だってそうだろ?
 金をもらえないなら、殺しても何のメリットもないんだ。なのに殺す。
 碌でもない奴らだよ。
 
 俺はな、そういう奴の大半は、頭のネジが緩みまくってるんだと思うんだ。
 悲惨な過去があったのかもしれない。
 親の虐待、裏切り、いじめ、その他色々。
 そういうので、頭ん中のネジが曲がったり痩せたり、抜けかかったり、ともかくおかしな状態になってる。
 そんでふとした時にポンと抜けちまう。
 一度抜けると戻せなくて、そのあと何度も繰り返す。
 それで金がもらえりゃバンバンザイだが、そうでなくても繰り返す。

 な? ネジが抜けてる感じするだろ?自分でコントロールできない。そういうやつさ。

 ああ、軍人は別かもしれないな。
 本来あるのが当然なネジを、ないのが当然って扱われる環境だからな。 
 だからいるじゃねーか、帰ってきてからもまだ戦争は終わってないって主張する。そういう奴が。あれも仕方がないのかもしれないぜ。

 ともかくな、日本で普通に暮らしてるやつで、そういう感じでネジが飛んじまったやつが一番碌でもないと、思うわけよ。

 お巡りさんがいるから再犯防止につとめてるんだろうけどな。例えばそうだな、抜けたネジ穴に別のモン刺して忘れさせるとか、新しい人生歩ませるとか。

 ただ、ほとんどは抜けたネジ戻すのは難しいんだ?
 罪悪感感じるやつはまだ戻す努力してるぜ。
 人殺しは人殺しだろ?
 一生引きずるもんなんだ。
 なかなか忘れられるもんじゃない。
 そいつにどんな過去があろうが、人殺しだけは正当化しちゃいけねえからな。
 ま、正当化できないから苦しいわけだが。 
 
 罪悪感持たないやつ?
 持っても再犯するやつとかだろ?
 あれは、ネジが緩んだままなんだ。
 だからあれよ、そんなに殺したいなら、戦場いけって話だ。

 あ? 金をもらって殺す奴?
 そりゃあいろいろいるが、多いのはネジの抜き差しを自由にできるやつ。
 不思議なことにそういうやつは、普段普通に何でもない顔で生活してる。
 不思議だよな。

 俺か? ネジの抜き差しを自由にやってるさ。
 なんたってビジネスだからな。

 でもなあ、偶にいるんだ。
 ネジが抜けてることに気づいてないやつってのがさ。
 それが一番面倒臭い。


 ◇ ◇ ◇


「よくわかんないけど、その暗丘くらおかの持論でいくとさ、今回のターゲットは、頭のネジが緩んで再犯繰り返してるやつなわけ?」

 パソコンのモニター前に座っているそいつが言った。
 回転椅子をくるくると遊ばせる姿は、まだ無邪気さを残した子供であることをうかがわせる。
 そいつは俺が椅子の後ろからモニターを覗き見るように体勢を低くすると、避けるように椅子を動かしやがった。
 あからさますぎるだろうが。
 そんなことを思いつつ、俺は改めてモニターを覗く。
 モニターにうつるあらゆる情報を舐めるようにみつめながら、俺は僅かな沈黙のあとに小さく頷いた。
 
「……そうだな」

 モニターには、俺がほしい情報が羅列された書類データがすべて映っていた。
 さすがの情報量に舌を巻くような思いだ。
 そして、頭のネジの抜けてしまったであろう中年男性の写真がある。
 こいつがターゲットか。

 俺の返事に対して、ふうん。と気のない答えが椅子の上から返ってくる。

「ただの冴えないサラリーマンにしか見えないのに、不思議」

 続けてそう言う。

 椅子の上でふんぞり返っている少年の名は、網村進士あみむらしんじという。
 オトギリ荘の202号室に住む子供だ。本人に子供というと怒るのだが、そうは言っても子供に見えるのだから仕方ない。
 本人は年齢は18歳だというが、どうみてもまだ中学生か、良くて高校1年生くらいにしか見えず、小柄で童顔だ。
 しかし見た目に騙されることなかれ。
 彼が素早い手つきでキーボードを叩けば、周りを囲むパソコンのモニターが一斉に異なる動きを始める。

「ど? 情報足りた?」

 面倒そうに進士が言う。
 俺だって面倒くさい。
 だからそういう表情を隠さずに「おう」と返事をした。

「毎回ありがとよ」

「毎回言うけどさぁ、スポンサー変えたら? 細かい情報開示もしない奴の仕事なんて、信用できないじゃん」

  進士の忠告はなかなか痛いところだ。
 毎回情報を秘匿して仕事を回してくる雇い主のことを、俺自身はよく知っているわけではない。だから信用して大丈夫なのかと思うときも、確かにある。そうなると仕事に支障があるのも事実だ。
 だが、少なくとも真っ当に腕を買ってくれているし、金払いもいい。だから細かいことには目を瞑っている状況だったりする。
 それに、俺には進士という情報源がいるので困ってもいない。

「スポンサーじゃなくて雇い主な」

「ああ、御主人様か。犬みたい」

 進士がニヤニヤとあざけるように笑う。
 俺が話をそらしたのに気づいて、ついでに忠犬のようなことを口走った俺を嘲笑っているのだ。

 俺の言ったこと、間違ってないはずだ。
 俺が出費させているのではない。雇い主に金を払わせて、俺は使われてやっているのだ。決してスポンサーなどと呼ばれるものではないことは事実だ。
 俺はニヤける進士の頭に軽くゲンコツをかましてやる。

「ガキのくせに生意気なことゆーな」

「いったいなーもぉ。情報あげないよ」

「それは困る」
 
 即答すると、進士は随分と嬉しそうな顔で胸をはった。褒め言葉に弱い奴。
 こいつはいわゆる情報屋だ。
 この現代、多くの機密情報は、もはやデジタルがすべてを牛耳っていると言っても過言ではない。
 そのありとあらゆる情報を含むネットワークに入り込み、盗み、改ざんし、破壊、修復、それらを行うハッカー。
 それがこのガキの正体だ。

 そして俺は、ビジネスで人を殺す。殺し屋だ。
 依頼をうけて、そいつを殺す。
 ただ、俺は組織に雇われている側で、組織からの命令に従っている雇われ殺し屋だ。
 組織はターゲットの情報を必要以上教えないようにしているらしく、殺すタイミングまで指示されている。
 俺はそれが気に入らないから、いつもこいつ、進士に詳細を調べさせている。
 俺達の関係はそういう仕事のつながりだが、同じところに住んでいるということもあって、結構仲がいいという、不思議な関係だった。
 
 ぽりぽりとゲンコツを食らった頭を指で触りながら、進士が右手の掌を俺に差し出す。
 ああ、そうだった。つい忘れていた。
 仲がよくともこいつに情報を集めさせているのは仕事で、勿論金がかかる。

「ほれ、お駄賃だ進士」
 
 俺は段ボールいっぱいの菓子を渡す。

「本名やめろって、meshメッシュって呼べよ」

 meshというのは、彼の通り名らしいんだが、ダサいと言われるんだと。
 網村のmesh。安直で俺は気に入っている。ま、つまりダサいってこったな。
 せめてnetネットとか……。ダサいか。

 文句をいいつつも、ドスンとそれなりに重たい音を立てて床に置かれたそれを、meshこと進士は嬉々とした顔で開けていた。
 やはり子供だ。
 中には大量の菓子が入っている。
 特に進士の大好きなスナック菓子が大量に。ほかにもガムやらチョコやらいろいろあるが、だいたい近場の駄菓子屋で買ったようなものだ。
 その菓子の底に、進士は腕を突っ込む。

 底に入っていたのは札束。それをもちあげた顔は意地汚い商売人のようでもある。

「まいどありー」

「菓子と金。お前から情報買うと高く付くぜ」

 俺はやれやれと肩をすくめてみせる。
 正直なところ、情報屋を別に雇うことも考えている。進士には内緒だが。
 金が高いとかじゃなく、毎度進士に詳細を調べさせることに、危機感を持ち始めてるというか。
 組織にはばれてるかもなあ。
 今のとこ、払いがいいから所属してるし、標的も殺すに惜しいという奴がいたことはないから従っている。
 しかし、進士の言う通り、信用できない相手ってのは事実だ。
 組織の方針に従わず、独自て調べている俺を危険視しているだろうし、その俺が懇意にしている情報屋となれば、暗殺を試みる。なんてことも無いとは言えない。

「……たしかになあ。雇い主変えたい。でも変えるの面倒くさそうなんだよな」

「そういう感じの組織だよね」

「踏みこみすぎるなよ」

「仕事持ってきてる暗丘が言うことじゃないね。心配しなくてもヘマはしてないよ」

 だからアンタもヘマするな。そんなことを言いたげな進士の視線が突き刺さる。
 痛いんだよなー。
 こういう本気で心配してくれる奴の視線ってのは。
 ま、口元がニヤついてるあたり、怪しいがな。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

えふえむ三人娘の物語

えふえむ
キャラ文芸
えふえむ三人娘の小説です。 ボブカット:アンナ(杏奈)ちゃん 三つ編み:チエ(千絵)ちゃん ポニテ:サキ(沙希)ちゃん

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

怪談実話 その2

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

処理中です...