[完結]姉から妹に乗り換えたら殴られたって知りませんけど

日向はび

文字の大きさ
上 下
7 / 11

7頰が……。

しおりを挟む

 後日、オフィーリアはアイリーンと共に侯爵邸へやってきていた。
 まだ、細かいことは使用人たちには当然伝わっていないらしく、いつものようにオフィーリアは通された。
 後ろにアイリーンがついていることに若干疑問を持ったらしい執事も、しかし表情からその疑問をすぐさま消す。
 さすが侯爵家の使用人だとオフィーリアは感心する。

 しかし、アドランがいるという応接室の扉を開ける前に、執事は一瞬困った顔をした。

「あの、アドラン様のお顔なのですが……できれば触れずにお願いします」

 なんのことだろうとアイリーンは首をかしげたが、すぐに頷く。なにか顔に傷でもつけたのか、それともニキビだらけにでもなったのだろうか。

 ――どうでもいいけど。

「アドラン様、オフィーリア様がお出になりました」
「……………………ああ、どうぞ」

 十分に溜めた返事である。
 嬉々として迎えられたら、本格的に病気を疑いたくなるので、神妙になっていてよかったと思うオフィーリアだった。
 見慣れた応接室に入ると、アドランはこちらを憂わしげに見ていた。
 その頰が青くなっているのを見て、オフィーリア思わず未だ開いたままの扉の影にいるアイリーンを見た。
 さっと顔を背けるアイリーン。

 ――殴ったわね。

 アイリーンは手が早い。時々。それは実は伯爵家全員に言えることではあるのだが。

「こんにちはアドラン様。その……大丈夫ですか?」
 
 聞いてから、執事に顔については触れるなと言われていたことを思い出す。
 案の定不機嫌になったアドランがぶっきらぼう「何の用だ」と言った。その言葉に呆れ果てる。
 ふとアドランの表情が喜色に染まった。

「アイリーン!」
 
 と幸せそうに呼ぶ。
 すぐさまアイリーンはオフィーリアの背中に隠れた。

「ああ、アイリーンきてくれたのか」

 そう言って立ち上がるアドランを、オフィーリアは視線で制す。が、ポンコツな頭のアドランは止まらないので、仕方なく声を出した。

「お待ちを」
「なんだ、オフィーリア。愛し合うふたりの仲を裂こうというのか」

 オフィーリアはアイリーンが盛大に顔をしかめるのを気配で察知した。伯爵家の庭園でしていた顔を何倍にも悪くした顔を今ごろしているのだろう。
 オフィーリアもだいたい同じ顔だったが、それにはあまり注目しないことにする。

「その顔、アイリーンが?」
「照れ隠しだ」
「違います!」

 三者の軽快なやりとりが、部屋に沈黙を与えた。

「アイリーン」
「だって、思わず……」
「アドラン様……」
「いや、照れ隠しだとばかり……」

 ――このひと大丈夫かしら。

 オフィーリアはまずその顔について謝罪することにした。相手は侯爵家なので致し方ない。

「妹が大変失礼をいたしました」

 しかし予想外の返事がかえってくる。

「痴話喧嘩に口を出す姉というのは嫌われるぞ」
「…………そうですか」


 ――やっぱりかなりまずいわ、この人。

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】『婚約破棄』『廃嫡』『追放』されたい公爵令嬢はほくそ笑む~私の想いは届くのでしょうか、この狂おしい想いをあなたに~

いな@
恋愛
婚約者である王子と血の繋がった家族に、身体中をボロボロにされた公爵令嬢のレアーは、穏やかな生活を手に入れるため計画を実行します。 誤字報告いつもありがとうございます。 ※以前に書いた短編の連載版です。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

妹への復讐と私の幸せ

ぴぴみ
恋愛
ざまぁ “ざまぁの後~妹への復讐と私の幸せ~”でハッピーエンド

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

自ら魔力を枯渇させた深窓の令嬢は今度こそ幸せになる

下菊みこと
恋愛
タイトルの通り。 小説家になろう様でも投稿しています。

姉にざまぁされた愚妹ですが何か?

リオール
恋愛
公爵令嬢エルシーには姉のイリアが居る。 地味な姉に対して美しい美貌をもつエルシーは考えた。 (お姉様は王太子と婚約してるけど……王太子に相応しいのは私じゃないかしら?) そう考えたエルシーは、自らの勝利を確信しながら動き出す。それが破滅への道とも知らずに…… ===== 性懲りもなくありがちな話。だって好きだから(•‿•) 10話完結。※書き終わってます 最初の方は結構ギャグテイストですがラストはシリアスに終わってます。 設定は緩いので何でも許せる方向けです。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

やっと婚約破棄してくださいますのね!

ねここ
恋愛
この国の王族・貴族は、生まれてすぐ「仮婚約」が決まってしまうことが多い。 ソフィアが生まれてすぐ仮婚約を結ばされたのは第一王子だったが、これがありえないくらいの頭お花畑のお馬鹿さんに育った。 一方、私にくっついて王城に通っていた妹ミリアが仲良くなった第五王子は、賢王になること間違いなしと噂されていた。 1貴族から王家に嫁げるのは1人だけ。 妹ミリアを賢王に嫁がせるため、将来性皆無の第一王子から「仮婚約」破棄を言い渡させるため、関係者の気持ちが一つになった。

処理中です...