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7頰が……。
しおりを挟む後日、オフィーリアはアイリーンと共に侯爵邸へやってきていた。
まだ、細かいことは使用人たちには当然伝わっていないらしく、いつものようにオフィーリアは通された。
後ろにアイリーンがついていることに若干疑問を持ったらしい執事も、しかし表情からその疑問をすぐさま消す。
さすが侯爵家の使用人だとオフィーリアは感心する。
しかし、アドランがいるという応接室の扉を開ける前に、執事は一瞬困った顔をした。
「あの、アドラン様のお顔なのですが……できれば触れずにお願いします」
なんのことだろうとアイリーンは首をかしげたが、すぐに頷く。なにか顔に傷でもつけたのか、それともニキビだらけにでもなったのだろうか。
――どうでもいいけど。
「アドラン様、オフィーリア様がお出になりました」
「……………………ああ、どうぞ」
十分に溜めた返事である。
嬉々として迎えられたら、本格的に病気を疑いたくなるので、神妙になっていてよかったと思うオフィーリアだった。
見慣れた応接室に入ると、アドランはこちらを憂わしげに見ていた。
その頰が青くなっているのを見て、オフィーリア思わず未だ開いたままの扉の影にいるアイリーンを見た。
さっと顔を背けるアイリーン。
――殴ったわね。
アイリーンは手が早い。時々。それは実は伯爵家全員に言えることではあるのだが。
「こんにちはアドラン様。その……大丈夫ですか?」
聞いてから、執事に顔については触れるなと言われていたことを思い出す。
案の定不機嫌になったアドランがぶっきらぼう「何の用だ」と言った。その言葉に呆れ果てる。
ふとアドランの表情が喜色に染まった。
「アイリーン!」
と幸せそうに呼ぶ。
すぐさまアイリーンはオフィーリアの背中に隠れた。
「ああ、アイリーンきてくれたのか」
そう言って立ち上がるアドランを、オフィーリアは視線で制す。が、ポンコツな頭のアドランは止まらないので、仕方なく声を出した。
「お待ちを」
「なんだ、オフィーリア。愛し合うふたりの仲を裂こうというのか」
オフィーリアはアイリーンが盛大に顔をしかめるのを気配で察知した。伯爵家の庭園でしていた顔を何倍にも悪くした顔を今ごろしているのだろう。
オフィーリアもだいたい同じ顔だったが、それにはあまり注目しないことにする。
「その顔、アイリーンが?」
「照れ隠しだ」
「違います!」
三者の軽快なやりとりが、部屋に沈黙を与えた。
「アイリーン」
「だって、思わず……」
「アドラン様……」
「いや、照れ隠しだとばかり……」
――このひと大丈夫かしら。
オフィーリアはまずその顔について謝罪することにした。相手は侯爵家なので致し方ない。
「妹が大変失礼をいたしました」
しかし予想外の返事がかえってくる。
「痴話喧嘩に口を出す姉というのは嫌われるぞ」
「…………そうですか」
――やっぱりかなりまずいわ、この人。
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