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3俺のアイリーンへ
しおりを挟むアドランは気分良く歩いていた。
ここ数日で最も気分がいい。少し前にアイリーンから「お慕いしています」と言われて以来だ。素晴らしい日である。
そんな心境で闊歩するアドランは今、植物園に来ていた。
王立のこの植物園をアイリーンは気に入っており、昼の時間彼女はよくこの場所にいた。だから伝えるならこの場所が良いだろうと思って、アドランはアイリーンを呼び出した。
植物園の中で一際目立つのがバラ園だろう。色鮮やかなバラが咲き乱れるそこに、ピンクの髪がみえた。
アイリーンである。
アドランはそれだけで嬉しくなった。
「アイリーン!」
呼んで駆け寄る。彼女はアドランに気がつくと嬉しそうにはにかんだ。
――なんて可愛らしいんだ。
アイリーンのことは、実はずっと気になっていた。けれど一種の高嶺の花である彼女と親しく話したことはなかった。姉であるオフィーリアと婚約するまでは。
姉について挨拶に来た彼女はどこまでも美しく可憐だった。
ひと目で恋に落ちた。
無論オフィーリアのことがあるから、彼女に恋をしている気持ちをアドランは隠し続けることにしていた。少なくともそのつもりだった。
しかしアイリーンと仲が良くなるにつれてその気持ちは変わっていったのだ。
アイリーンと二人きりでいたい。
ずっとアイリーンといたい。
オフィーリアではなくアイリーンと。
そうだ姉妹なのだからきっと大丈夫だ。
あとはアイリーンが了承してくれて、オフィーリアが承知してくれたら大丈夫。
アイリーンは俺を愛しているし、オフィーリアも愛する俺と妹のためなら喜んで身を引くだろう。
そうに違いない。
浅はかな考えというのに侵されているとき、たいがい本人は気づかないものである。
こうしてアドランは思い切って気持ちをアイリーンに告白し、見事彼女からの言葉を得ることに成功したのだ。
あとの行動は早かった。
オフィーリアにすぐ話して、承諾してもらい、伯爵への説得も頼むことができた。
アドランにとって万事つつがなく進んでいる。最高だと、アドランは浮かれた気持ちで思った。
「アイリーン」
再び呼ぶ。
アイリーンは植物を観察でもしていたのか、スケッチブックを持って佇んでいた。
「スケッチか?」
「はい。好きなんです」
その横顔に、アドランは一瞬夢見心地になった。とことん彼女の笑顔には弱いのだ。
「そうか」
「それで、アドラン様? 本日はどうされました?」
キョトンとした顔でアイリーンはアドランに尋ねた。その表情すら可愛らしく、アドランは微笑む。
「ああ。とても大事な話があるんだ」
「大事な?」
「ああ、きっと君も喜ぶ」
「……もしや、お姉様のことですか?」
「そうとも!」
アドランはアイリーンを抱きしめた。
アイリーンは驚いたような声をあげたが、それが本当は嬉しいときの声だとアドランは知っている。
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