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番外編
番外編「私のお母さまとお父様、それから友達」
しおりを挟む私のお母さまは最高に美しいの。
お母さまよりきれいな人を見たことがないし、お母さまよりかっこいい人も見たことがないし、お母さまより強い人も見たことがないし、お母そまより優しい人も見たことないの。
だからお母さまのこと大好きなの。
私の名前は、エデルガルト・オルフィーノ。
お父様はとっても強い騎士で、お母さまはとっても優しい貴婦人。私は二人の自慢の娘。二人がそう言うのだから、そうなのよ。
私も二人の子供としてふさわしいように、かっこよくないといけないって、いつも思ってるわ。
まず、見た目は完璧なのよね。お父様と同じ黒い髪はつやつやで、光があたるととてもきれいだし、目はお母さまと同じで森の色。
顔はお母さま似なの。うれしいわ。お父様似がいやってわけじゃないのよ。でもお母さまは誰がみてもきれいって思うほどきれいだから、似てるってうれしいの。
だからあとは中身。
人間中身が大事よ。だからいつも、おしとやかにしてるのよ。お友達がいないってお母さまは悩んでるみたいだけど、私は大人の中で育って、はやく大人になるの。お母さまにきれいにお辞儀したら、喜んでくれたし、私のやること間違ってないわよね……。
そしていつかね、素敵な人と結婚して、私もお母さまとお父様みたいに幸せになるの。
二人はとっても仲良しで、時々私が入れないときもあるくらいなのよ。
こまった夫婦よね。でもうらやましい。
理想の夫婦。
なんだけど……。でも、最近ちょっと変なことがあったの。
お母さまが、知らない男の人と、よく会ってるの。金髪の男の人よ。こっそり会ってる。お父様にはきっと内緒なのよ。
これってもしかして、浮気?
気になることはすぐ確認しなくちゃ。でもお父様に言ったらびっくりするかしら。
そう思いながら、私は結局お父様に話すことにしたの。
「ねえ、お父様」
「ん? どうしたエデルガルト」
お父様は書斎でご本を読んでいた。
難しい本は私にはわからないけど、きっとお仕事の本よ。
「あのね」
「うん?」
「お母さまがね」
「うん」
「浮気してるの!」
思い切って叫んでみたの。ちらっとお父様をみる。ああ、驚いてるわ。
びっくりして目を丸くしたお父様がいた。
「う、わき?」
お父様がボウゼンと言った。
私はうなずく。
「最近、男の人と会ってるの。みちゃって……何回もよ!」
「それは……」
「お父様に内緒で、お母さまが浮気するなんて信じられなくて」
それはお父様も同じだったみたい。
びっくりしてご本をおとしてしまったくらい。
ゴトン! と音をたてて本は絨毯に落ちた。私はびっくりしてしまって、おもわず肩がはねちゃった。そうしたらお父様も「あ」って言ってあわてて本を拾った。私の頭をなでてくれる。
「いつみたんだい?」
「昨日よ」
「昨日……」
「それから、三日前と、えっと1週間前の土曜日も」
「……」
一生懸命思い出して伝えたら、お父様はすこし考えこんだ。
それから思い出したように、はっとした顔をして、また私の頭を撫でた。
「その人、金髪の人だった? 青い目で、背が高くて、やせていて」
「そう! その人! お父様より背は高くなかったと思うけど、そんなかんじのナヨナヨってした人だったわ」
お母さまの好みじゃなさそうな人。
私は勢いよくお父様に向かって身を乗り出す。そんな私をお父様は受け止めて、そのまま抱き上げられた。
「お、おろして」
「どうして」
「ど、だ、だって、淑女たるもの自分であるかないとだわ」
そういうと、お父様は小さく笑った。
「急いで大人にならなくていいよ」
まぁ、ひどいこと言うわ。せっかく大人になろうと頑張ってるのに。
私はほっぺを膨らませて、お父様を蹴っ飛ばす。
「おいおい。それこそ淑女じゃないぞ」
「だって大人にならなくていいんでしょ!」
「やれやれ、誰に似たんだか」
お父様は苦笑して、私を抱き上げたまま歩き始めた。視界が高いわ。ひさしぶり。ちょっとうれしいのは内緒よ。
やがてお父様はお庭に出た。
そこで私はびっくりして口を開けてしまった。
あの金髪の男の人と、お母さまが一緒にいたの。
「え」
あわててお父様をみる。
「あ、あの人よ」
「知ってるよ」
「え?」
知ってるってどういう事だろう。
ぐんぐん近づいていく。私はその時ようやく、金髪の男の人のそばに知らない女の人が立っているのを見た。茶色い髪のそばかすのある女の人。さらにその人の足元には別の人影があった。
お父様はその人たちに近づくと、ようやく私を下ろしてくれた。
お母さまはすこし驚いたようにお父様をみる。
「エデルガルトを連れてきちゃたの? アルノルド」
「ああ、まぁちょっといろいろとあって」
二人がそんな会話をしているのを頭の上で聞きながら、私は茶髪の女の人のそばに立っている小さな子供を見ていた。
金髪。茶色い目。そばかすがあるけど、すごく可愛らしい女の子。
私は目をぱちぱちさせて、女の子を見て、それから金髪の男の人と茶髪の女の人を見上げた。
「エデルガルト。こちら、リベルト・ロンターニ侯爵と、ロンターニ夫人よ。ご挨拶して」
「侯爵?」
私は驚いてお母さまを見上げた。
侯爵と言ったら、伯爵家である我が家より上よ。まさかそんな人が浮気相手?
あれ、もしかして、私のかんちがい?
「エデルガルト」
再び呼ばれて、私は慌ててお客さまに向き直った。
スカートをつまんで、片足を後ろに下げ、膝を曲げてお辞儀をする。
「お初におめにかかります。エデルガルトと申します」
うん。完璧なカーテシーだわ!
自信満々に顔をあげると、驚いたお客様の顔が見えた。満足だわ。
「ああ、よろしく、エデルガルト嬢。うちの娘も紹介しよう」
金髪の男性、リベルトさんは私にむかってぎこちなく笑う。それからロンターニ夫人のスカートに隠れていた女の子の背中を押した。
女の子は手にぬいぐるみを持っていた。
私よりは年下かしら。
かわいい子だわ。
その子はぎこちなくスカートを上げると、私と同じようにお辞儀をした。片手にぬいぐるみを持っているけど、すごくきれいなお辞儀。
「クリスティーナ・ロンターニです」
かわいらしく頬を染めている。
私はにこにこ笑って見せる。するとクリスティーナもにっこりと笑った。
頭上で親たちが嬉しそうにしている。
ああ、そういうことね。私とクリスティーナを会わせようってこと? 私に同じ年ごろの友達がいないのを気にしていたものね。じゃあそのために?
「ねえ、お母さまのお友達なの?」
私は特になにも考えずお母さまに尋ねた。
すると、ロンターニ夫妻がすごくびっくりする。あれ、ちがったのかな。
そう思ってから、侯爵家の方相手にお友達は失礼だったと気づく。
あわてて謝ろうとしたとき、お母さまが私の頭を撫でた。
「そうよ。お母さまのお友達」
なんだ。私は安心して笑った。
「私、お母さまが浮気したのかと思ったわ」
また、深く考えずに言ってしまった。
あーもう。わたしってば淑女じゃない。はずかしいわ。
そう思って見上げると、ロンターニ夫妻がすごく驚いた顔をしていた。しかもちょっと顔色が悪い。
そんなにまずいことを言ってしまっただろうか。
そう思ってお母様とお父様をみると、お母さまは肩を震わせてわらっていて、お父様は苦笑いをしていた。
なにがなんだかわからないけど、わたし言ってはいけないこと言ったみたい。
「クリスティーナさんとあなたを会わせてあげようと思ったのよ。お友達ほしいかなって」
「別に。もう大人だもの」
「あら、大人だって友達は必要なのよ」
お母さまが笑う。
「大人でも?」
「そうよ」
「そうなんだ」
じゃあ、と私はクリスティーナに手を差し伸べる。
「じゃあ、私とお友達になってください。それで、大人になってもお友達でいましょう」
クリスティーナは最初目を丸くしたけれど、すぐに嬉しそうに笑って、私の手とった。
「うん!」
「ねぇ、クリスって呼んでいい?」
「じゃあ、わたしもエデルって呼んでいいの?」
「もちろん!」
「わぁ! ありがとう!」
私はお母さまを見上げた。
「お庭で遊んでもいい?」
「いいわよ。転ばないようにね」
「もう大人だから平気よ!」
私はクリスを連れて庭を駆け出した。
ああ、でも、お母さまの浮気じゃなくてよかった。そうよね。お父様とお母さまはとても仲がいいのに、そんなわけないか。
ふと、私たちがいなくなった後の4人がどうしているか気になって振り向いた。
あら?
どこか不安そうな表情のロンターニ夫妻と、苦笑するお父様とお母さま。
もしかして、あの4人には何かがあったのかしら。ぎすぎすしてるわ。ぎすぎす。
「どうしたの? エデルちゃん」
「ううん。なんでもない!」
まぁ子供の私たちには関係ないよね。
「なにしてあそぶ?」
「えーっとねぇ」
私、お友達ができたみたい。
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