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「けど、本気でもあるから、考えてくれたら嬉しい」

 アルノルドの言葉はいままで聞いたどんな言葉よりもジルベルタの心をうった。
「美しさに惚れた」と何度も言われてきた。そう言うものだと思っていた。けれどアルノルドの言葉にはそういった意味合いはない。
 子供のころからと言われると尚更何も言えない。
 けれどもアルノルドの言う通り弟のように思っていたことは否めない。きっと手紙で伝えられていたら、ここまで動揺しなかっただろう。

 ――会ってしまったから……。

 ――一緒にいて楽しいって思ってしまったから……。

 ジルベルタは唇を噛んだ。
 どう返事をしていいのかわからないのだ。
 好きだと思う。少なくとも他の男性にこんなに優しい気持ちや、どうしようもない衝動を感じたことはない。一番、特別な人だ。それは間違いない。けれど彼の気持ちに応えられるかと言われると、自信がない。そんな状態で彼の言葉を受け入れていいのだろうか。

「今すぐじゃなくていい。考えてくれないか」

 真摯な声が降ってくる。
 わからないが、その言葉が嬉しくてたまらない。求婚されて、こんなに嬉しいと思ったことはなかった。
 
 ――ああ、もう。

 ジルベルタは無言で首を振った。
 アルノルドの表情が曇る。しかし声を荒げはしない。

「そうか。うん。ごめんいきなり」
「待って」

 ジルベルタはもじもじと手を胸の前で合わせた。

「まって……」

 なんだか急に目頭が熱くなって、視界がぼやけてきていた。
 悲しいのではない。
 恥ずかしさと、嬉しいさと、極度の緊張が、ジルベルタの全身を熱くさせて、瞳に涙の膜をはらせるのだ。
 ジルベルタは視線を合わせることができずに俯きながら、必死に言葉を紡いだ。

「あのね……多分……特別なの……」

 アルノルドが無言で首を傾ける。

「私にとっ、て、アルノルドは特別なの。他にいないの。他に、同じような気持ちになる人いないのよ。でも……、でも私わからないわ。だって恋とか、したことないんだもの。ないのよ。私」
「……うん」
「だから、私のこの感覚とかって、どういうものなのかわからないわ。わからないけど」

 一度ごくりと嚥下して、ジルベルタはアルノルドを見上げた。
 月明かりが彼の黒い髪を白く照らしている。瞳が光って、そこに期待が灯っているのがジルベルタにはわかった。
 そんなアルノルドの様子を見ていたジルベルタの唇から、何かに操られたかのようにスルスルと言葉がこぼれた。

「わからないけど……。好きなの。好きなのよ、きっと」

 ――ああ、どうしてこんなに切ないのかしら。

 再び涙がこぼれそうになった時、ふわりとあたたかい何かが体を包み込んだ。一瞬遅れて、それがアルノルドに抱きしめられているのだということに気づく。
 
「ア、アルノルド?」
「ごめん」
「え?」
「ちょっと、このまま」

 幼馴染だ。昔から一緒に遊んでいた。異性として見たことなど今までほとんどなかった相手。けれど、どれほど距離が近くても、抱きしめられたことなどない。
 ジルベルタは自分が真っ赤になっていることがわかった。

「は、離して」
「うん。ごめん」
「ちょっとっ……」
「うん」

 まるで話を聞いていない返事に、ジルベルタはみっともないとわかりながら、ジタバタと腕の中から逃れようとした。するとさらに強く抱きしめられる。
 続けて髪を大きな手ですかれて、耳元にアルノルドの唇が寄せられる。息がかかるほどの距離に、とうとうジルベルタは恥ずかしさが頂点に達して、言葉もなく悲鳴を上げた。

「っ! っ!!」

 ふと、視界の端に護衛が見えた。
 恥ずかしさと同時にこの状態をどうにかしたくて目線で「助けろ!」と言えば、護衛はニコニコと笑って首を左右に振った。

 ――う、うらぎりもの!!!

 ジルベルタは心の中で叫んだ。
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