11 / 28
11 いいのかな
しおりを挟む
「けど、本気でもあるから、考えてくれたら嬉しい」
アルノルドの言葉はいままで聞いたどんな言葉よりもジルベルタの心をうった。
「美しさに惚れた」と何度も言われてきた。そう言うものだと思っていた。けれどアルノルドの言葉にはそういった意味合いはない。
子供のころからと言われると尚更何も言えない。
けれどもアルノルドの言う通り弟のように思っていたことは否めない。きっと手紙で伝えられていたら、ここまで動揺しなかっただろう。
――会ってしまったから……。
――一緒にいて楽しいって思ってしまったから……。
ジルベルタは唇を噛んだ。
どう返事をしていいのかわからないのだ。
好きだと思う。少なくとも他の男性にこんなに優しい気持ちや、どうしようもない衝動を感じたことはない。一番、特別な人だ。それは間違いない。けれど彼の気持ちに応えられるかと言われると、自信がない。そんな状態で彼の言葉を受け入れていいのだろうか。
「今すぐじゃなくていい。考えてくれないか」
真摯な声が降ってくる。
わからないが、その言葉が嬉しくてたまらない。求婚されて、こんなに嬉しいと思ったことはなかった。
――ああ、もう。
ジルベルタは無言で首を振った。
アルノルドの表情が曇る。しかし声を荒げはしない。
「そうか。うん。ごめんいきなり」
「待って」
ジルベルタはもじもじと手を胸の前で合わせた。
「まって……」
なんだか急に目頭が熱くなって、視界がぼやけてきていた。
悲しいのではない。
恥ずかしさと、嬉しいさと、極度の緊張が、ジルベルタの全身を熱くさせて、瞳に涙の膜をはらせるのだ。
ジルベルタは視線を合わせることができずに俯きながら、必死に言葉を紡いだ。
「あのね……多分……特別なの……」
アルノルドが無言で首を傾ける。
「私にとっ、て、アルノルドは特別なの。他にいないの。他に、同じような気持ちになる人いないのよ。でも……、でも私わからないわ。だって恋とか、したことないんだもの。ないのよ。私」
「……うん」
「だから、私のこの感覚とかって、どういうものなのかわからないわ。わからないけど」
一度ごくりと嚥下して、ジルベルタはアルノルドを見上げた。
月明かりが彼の黒い髪を白く照らしている。瞳が光って、そこに期待が灯っているのがジルベルタにはわかった。
そんなアルノルドの様子を見ていたジルベルタの唇から、何かに操られたかのようにスルスルと言葉がこぼれた。
「わからないけど……。好きなの。好きなのよ、きっと」
――ああ、どうしてこんなに切ないのかしら。
再び涙がこぼれそうになった時、ふわりとあたたかい何かが体を包み込んだ。一瞬遅れて、それがアルノルドに抱きしめられているのだということに気づく。
「ア、アルノルド?」
「ごめん」
「え?」
「ちょっと、このまま」
幼馴染だ。昔から一緒に遊んでいた。異性として見たことなど今までほとんどなかった相手。けれど、どれほど距離が近くても、抱きしめられたことなどない。
ジルベルタは自分が真っ赤になっていることがわかった。
「は、離して」
「うん。ごめん」
「ちょっとっ……」
「うん」
まるで話を聞いていない返事に、ジルベルタはみっともないとわかりながら、ジタバタと腕の中から逃れようとした。するとさらに強く抱きしめられる。
続けて髪を大きな手ですかれて、耳元にアルノルドの唇が寄せられる。息がかかるほどの距離に、とうとうジルベルタは恥ずかしさが頂点に達して、言葉もなく悲鳴を上げた。
「っ! っ!!」
ふと、視界の端に護衛が見えた。
恥ずかしさと同時にこの状態をどうにかしたくて目線で「助けろ!」と言えば、護衛はニコニコと笑って首を左右に振った。
――う、うらぎりもの!!!
ジルベルタは心の中で叫んだ。
アルノルドの言葉はいままで聞いたどんな言葉よりもジルベルタの心をうった。
「美しさに惚れた」と何度も言われてきた。そう言うものだと思っていた。けれどアルノルドの言葉にはそういった意味合いはない。
子供のころからと言われると尚更何も言えない。
けれどもアルノルドの言う通り弟のように思っていたことは否めない。きっと手紙で伝えられていたら、ここまで動揺しなかっただろう。
――会ってしまったから……。
――一緒にいて楽しいって思ってしまったから……。
ジルベルタは唇を噛んだ。
どう返事をしていいのかわからないのだ。
好きだと思う。少なくとも他の男性にこんなに優しい気持ちや、どうしようもない衝動を感じたことはない。一番、特別な人だ。それは間違いない。けれど彼の気持ちに応えられるかと言われると、自信がない。そんな状態で彼の言葉を受け入れていいのだろうか。
「今すぐじゃなくていい。考えてくれないか」
真摯な声が降ってくる。
わからないが、その言葉が嬉しくてたまらない。求婚されて、こんなに嬉しいと思ったことはなかった。
――ああ、もう。
ジルベルタは無言で首を振った。
アルノルドの表情が曇る。しかし声を荒げはしない。
「そうか。うん。ごめんいきなり」
「待って」
ジルベルタはもじもじと手を胸の前で合わせた。
「まって……」
なんだか急に目頭が熱くなって、視界がぼやけてきていた。
悲しいのではない。
恥ずかしさと、嬉しいさと、極度の緊張が、ジルベルタの全身を熱くさせて、瞳に涙の膜をはらせるのだ。
ジルベルタは視線を合わせることができずに俯きながら、必死に言葉を紡いだ。
「あのね……多分……特別なの……」
アルノルドが無言で首を傾ける。
「私にとっ、て、アルノルドは特別なの。他にいないの。他に、同じような気持ちになる人いないのよ。でも……、でも私わからないわ。だって恋とか、したことないんだもの。ないのよ。私」
「……うん」
「だから、私のこの感覚とかって、どういうものなのかわからないわ。わからないけど」
一度ごくりと嚥下して、ジルベルタはアルノルドを見上げた。
月明かりが彼の黒い髪を白く照らしている。瞳が光って、そこに期待が灯っているのがジルベルタにはわかった。
そんなアルノルドの様子を見ていたジルベルタの唇から、何かに操られたかのようにスルスルと言葉がこぼれた。
「わからないけど……。好きなの。好きなのよ、きっと」
――ああ、どうしてこんなに切ないのかしら。
再び涙がこぼれそうになった時、ふわりとあたたかい何かが体を包み込んだ。一瞬遅れて、それがアルノルドに抱きしめられているのだということに気づく。
「ア、アルノルド?」
「ごめん」
「え?」
「ちょっと、このまま」
幼馴染だ。昔から一緒に遊んでいた。異性として見たことなど今までほとんどなかった相手。けれど、どれほど距離が近くても、抱きしめられたことなどない。
ジルベルタは自分が真っ赤になっていることがわかった。
「は、離して」
「うん。ごめん」
「ちょっとっ……」
「うん」
まるで話を聞いていない返事に、ジルベルタはみっともないとわかりながら、ジタバタと腕の中から逃れようとした。するとさらに強く抱きしめられる。
続けて髪を大きな手ですかれて、耳元にアルノルドの唇が寄せられる。息がかかるほどの距離に、とうとうジルベルタは恥ずかしさが頂点に達して、言葉もなく悲鳴を上げた。
「っ! っ!!」
ふと、視界の端に護衛が見えた。
恥ずかしさと同時にこの状態をどうにかしたくて目線で「助けろ!」と言えば、護衛はニコニコと笑って首を左右に振った。
――う、うらぎりもの!!!
ジルベルタは心の中で叫んだ。
0
お気に入りに追加
1,700
あなたにおすすめの小説

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆

某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

転生者と忘れられた約束
悠十
恋愛
シュゼットは前世の記憶を持って生まれた転生者である。
シュゼットは前世の最後の瞬間に、幼馴染の少年と約束した。
「もし来世があるのなら、お嫁さんにしてね……」
そして、その記憶を持ってシュゼットは転生した。
しかし、約束した筈の少年には、既に恋人が居て……。
【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います
黒幸
恋愛
ネドヴェト侯爵家に生まれた四姉妹の末っ子アマーリエ(エミー)は元気でおしゃまな女の子。
美人で聡明な長女。
利発で活発な次女。
病弱で温和な三女。
兄妹同然に育った第二王子。
時に元気が良すぎて、怒られるアマーリエは誰からも愛されている。
誰もがそう思っていました。
サブタイトルが台詞ぽい時はアマーリエの一人称視点。
客観的なサブタイトル名の時は三人称視点やその他の視点になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる