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10 まさかの

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 ――い、今なんて?

 明日遊びに行く? と遊びに誘うようにさらっと、アルノルドは衝撃的なことを言いはしなかったか。
 理解できずに無言でアルノルドを見上げるジルベルタ。

「俺は浮気はしないよ」
「……それは、つまり、プロポーズ……」

 アルノルドが頷く。
 よくよくみると、彼の頬から耳までが赤く染まっていて――。

 かぁっと顔に熱が上がる。ジルベルタは思わり両頬を手で覆った。
 そんなジルベルタをちらりとアルノルドが見下ろしてくる。そして再び視線を逸らして「だめか」と呟いた。

「ほ、本気?」
「冗談でこんなこと言うと思うか?」
「だって、そんなこと今まで一度も言った事なかったじゃない!」

 極度の照れから思わず叫ぶ。
 アルノルドは頬を掻いて照れていたが、やがて観念した様子で肩をすくめ、それからジルベルタに向き合った。

「しょうがないだろう。君は社交界の華で、俺が騎士学校に行っている間にどんどん遠い人になってしまっていたんだ。言えるわけない」

 騎士学校と言われてジルベルタはさらに赤くなる。

「それって、その……学校卒業した頃から私のこと?」
「っ……子供の頃からだよ!」

 真っ赤になってアルノルドが叫んだ。
 どうすればよいかわからず、ジルベルタは視線を右往左往させる。
 アルノルドは頭をがしがしと乱暴にかき回す。バツが悪そうだが、それでも顔は赤いままで、ジルベルタへの言葉が本音であることは明白だった。

「わかってるんだ。ジルベルタはそんなつもりなかっただろう。弟みたいに思ってるんだろうって。……ただ、戦争に行って思ったんだ」
「……何を?」
「言っておけばよかったって」

 戦場で何度も死にかけた。もうダメかと思うことは何度もあって、その度にジルベルタのことを思い出した。そうしていつも「言っておけばよかった」と思ったのだ。
 無事に帰って来れて、ジルベルタがすでに人妻であることをわかっていてもその思いは強くあった。

「言わなかったことを何度も後悔した。無駄なことだとわかっていても言ってしまえば、って。けれど言われても困るだろうよ。……だから正直会わないつもりだった。会って、何も言わずに済むと思ってなかったから。でも、君から手紙が来て、子爵邸に帰ってるって聞いて、もしかしたらって思ってしまった」

 ジルベルタから会いたいと言わなければ会うつもりはなかったのだと言われて、ジルベルタは少しだけ寂しくなる。同時に会えてよかったとも思った。
 そしてアルノルドの気持ちがジルベルタが思うよりずっと強いのだということを、ひしひしと感じとる。
 アルノルドはさらに続ける。

「それでも会うだけのつもりだった。それが、離婚するなんて言うからつい……。ずるいことしている自覚はある。君は今傷ついているだろう。そこに付け入るような真似をしている。だから怒ってもいい」

 真摯な言葉にジルベルタは安易なことが言えなくなって口を閉じた。

 
 
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