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5 幼馴染の帰還
しおりを挟む首を左右に振ってリベルトのことを忘れようとするジルベルタを侍女は見ていたが、やがて思い出したように口を開いた。
「そういえば、お隣のオルフィーノ子爵が爵位をお継ぎになられましたよ」
侍女の言葉に、ジルベルタは勢いよく顔をあげる。
「え? 継いだって、アルノルドが?」
「はい」
「あのひょろひょろの彼が、戦争から帰ってこれたの?」
「それは……はい。お嬢様さすがに失礼では……」
「そ、そうね」
アルノルド・オルフィーノ。
隣に邸宅を構えるオルフィーノ子爵の嫡男で、ジルベルタの幼馴染である。
「子爵……先代の子爵がご病気というのは伺っていたけれど、そうなの、とうとう彼が家を継いだのね……」
「はい。戦争からお戻りになった際、正式にお継ぎになりました」
ジルベルタはじわじわと胸に沸き起こる喜びを噛み締めた。
――そうなの……彼、生きて帰ってこれたんだ。よかった……。
ジルベルタとアルノルドはそれこそ赤子の頃からの付き合いだった。
二人だけで遊ぶものだから女の子の友達を作った方がいいと言われ、ジルベルタはあちこちの家のパーティを連れまわされたりもしたが、それでも帰ってくればアルノルドと遊びたがった。それはアルノルドも同じだった。
オルフィーノ家は先代、つまりアルノルドの父親の代で爵位を得た騎士の家だ。小さな領地はあるが、それよりも騎士という役割をまっとうすることで爵位を保っている、騎士貴族。
当然アルノルドもその跡をついで騎士にならなければいけなかったので、ジルベルタと遊んでばかりもいられなかった。
――そういえば、騎士団に入る前はヒョロヒョロだったけど、それからは結構しっかりした体格になっていたっけ。男性として見てなかったから気づかなかったわ。
なかなか失礼なことを思いながら、ジルベルタは一人頷く。
そうして一度思い出してしまうと、なんだかとても会いたくなった。
ジルベルタはアルノルドに手紙を書いた。
まだ離婚は成立していない為、個人的に会うのはあまり褒められたものでない。そんな気がしたから、幼馴染でも男女としてでもなく、あくまでも隣の家の子爵に挨拶という名目で。
リベルトに操を立てている訳でもないが、夫と同じ人種になってしまうのも嫌だったので、浮気だと思われるようなことはしたくなかった。
返事はすぐに来た。隣同士なのだから当然だが、それだけでジルベルタは嬉しくなる。
手紙の内容は簡素だった。
『いつもの場所で。いつもの時間』
――せっかくご挨拶をしたいですって送ったのに、アルノルドったらこんな返事してきて……密会の手紙みたいじゃない。
ジルベルタはわずかに唇を尖らせる。
しかし同時に嬉しさもあった。
――いつもの場所で、いつもの時間。……変わってないなぁ……。
子供の頃、二人でこっそり遊びたい時に紙の端っこに書いた誘い言葉。
こっそり夜中に一人で出るなんて危険なこと、当時はよくできたものだ。危険を何もわかっていない子供だったからこそできたのだろう。
両親にバレてしかられるまで、そのやりとりは続いた。
その時のことを思い出してジルベルタは頰を緩める。
久々の再会が待ち遠しく、ジルベルタは一時リベルトのことを完全に忘れることができた。
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