5 / 28
5 幼馴染の帰還
しおりを挟む首を左右に振ってリベルトのことを忘れようとするジルベルタを侍女は見ていたが、やがて思い出したように口を開いた。
「そういえば、お隣のオルフィーノ子爵が爵位をお継ぎになられましたよ」
侍女の言葉に、ジルベルタは勢いよく顔をあげる。
「え? 継いだって、アルノルドが?」
「はい」
「あのひょろひょろの彼が、戦争から帰ってこれたの?」
「それは……はい。お嬢様さすがに失礼では……」
「そ、そうね」
アルノルド・オルフィーノ。
隣に邸宅を構えるオルフィーノ子爵の嫡男で、ジルベルタの幼馴染である。
「子爵……先代の子爵がご病気というのは伺っていたけれど、そうなの、とうとう彼が家を継いだのね……」
「はい。戦争からお戻りになった際、正式にお継ぎになりました」
ジルベルタはじわじわと胸に沸き起こる喜びを噛み締めた。
――そうなの……彼、生きて帰ってこれたんだ。よかった……。
ジルベルタとアルノルドはそれこそ赤子の頃からの付き合いだった。
二人だけで遊ぶものだから女の子の友達を作った方がいいと言われ、ジルベルタはあちこちの家のパーティを連れまわされたりもしたが、それでも帰ってくればアルノルドと遊びたがった。それはアルノルドも同じだった。
オルフィーノ家は先代、つまりアルノルドの父親の代で爵位を得た騎士の家だ。小さな領地はあるが、それよりも騎士という役割をまっとうすることで爵位を保っている、騎士貴族。
当然アルノルドもその跡をついで騎士にならなければいけなかったので、ジルベルタと遊んでばかりもいられなかった。
――そういえば、騎士団に入る前はヒョロヒョロだったけど、それからは結構しっかりした体格になっていたっけ。男性として見てなかったから気づかなかったわ。
なかなか失礼なことを思いながら、ジルベルタは一人頷く。
そうして一度思い出してしまうと、なんだかとても会いたくなった。
ジルベルタはアルノルドに手紙を書いた。
まだ離婚は成立していない為、個人的に会うのはあまり褒められたものでない。そんな気がしたから、幼馴染でも男女としてでもなく、あくまでも隣の家の子爵に挨拶という名目で。
リベルトに操を立てている訳でもないが、夫と同じ人種になってしまうのも嫌だったので、浮気だと思われるようなことはしたくなかった。
返事はすぐに来た。隣同士なのだから当然だが、それだけでジルベルタは嬉しくなる。
手紙の内容は簡素だった。
『いつもの場所で。いつもの時間』
――せっかくご挨拶をしたいですって送ったのに、アルノルドったらこんな返事してきて……密会の手紙みたいじゃない。
ジルベルタはわずかに唇を尖らせる。
しかし同時に嬉しさもあった。
――いつもの場所で、いつもの時間。……変わってないなぁ……。
子供の頃、二人でこっそり遊びたい時に紙の端っこに書いた誘い言葉。
こっそり夜中に一人で出るなんて危険なこと、当時はよくできたものだ。危険を何もわかっていない子供だったからこそできたのだろう。
両親にバレてしかられるまで、そのやりとりは続いた。
その時のことを思い出してジルベルタは頰を緩める。
久々の再会が待ち遠しく、ジルベルタは一時リベルトのことを完全に忘れることができた。
12
お気に入りに追加
1,696
あなたにおすすめの小説
【完結】昨日までの愛は虚像でした
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる