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3 お幸せに!

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 部屋を片付け、馬車を手配して荷物を積み込むと、最後の仕上げをしにジルベルタは再びリベルトの執務室へ向かった。

 何も言わずに去ってもいいのだが、そうすると何をしでかすかわからない気がしたのだ。ジルベルタを女神か何かだと思っている時点で異常なのだから。
 神は何しても自由だろうと、そんな妙なことをジルベルタは思わなくもなかったが、そういう屁理屈ですら通じる相手とはもう思えない。

 ――だって異星人だもの。

 もはやそれは確定事項として、ジルベルタは廊下をずんずんと進んだ。

 ノックして執務室に入る。こうした礼儀は大事な事であるが、しかしこの後は無礼もへったくれもない。

「失礼します!」
「ああ、ジルベルタ。よかったよ、いきなり離婚なんて言うからびっくりしたが……落ち着いたか?」
「はい。落ち着きました」
「よかった」

 リベルトが微笑んで立ち上がる。そしていつものようにジルベルタを抱きしめようとした。それすらもできるようになるまで1年ほどかかったのだが、もうどうでも良い事であった。
 ジルベルタは抱きしめられる前に一歩後ろへ下がる。

「ジルベルタ?」
「落ち着きましたので、改めまして」

 ジルベルタは笑う。
 この男は、ジルベルタのこの表情が好きだった。結婚する前に浮かべていた傲慢で高飛車で優雅で妖艶で誰よりも美しい笑顔が。だからそれを惜しげも無く見せてやる。
 
 ――この頃の私に惚れたんでしょう?

 ジルベルタはかつての中身のなかった自分をあざ笑い、そしてそんな自分に惚れた相手をあざ笑う。

「さようなら、リベルト。離縁します。今までどうも、お幸せに」
 
 浮気相手がリベルトとの結婚を求めているかは知らないが、こんなわけのわからない夫などくれてやる。そんな気持ちでジルベルタは手を振った。
 リベルトはポカンとした顔でジルベルタを見ていたが、彼の答えを聞く気はジルベルタにはない。さっと踵を返すと、そのまま屋敷の外に小走りで向かった。追いかけてくる気配がないあたり相当衝撃を受けたらしい。
 もちろん。追いかけてほしいとも思っていない。

 ――離婚するってさっきも叫んだのに、混乱して言ったと思ったみたいだものね。またそう思ったのかしら。でも本気だから。

 ジルベルタはそのまま馬車に飛び乗るように乗り込んだ。

「さぁ! 出してちょうだい!」
「は、はい!」

 混乱する御者だが文句は言わせない。今はまだ侯爵夫人なのだから。
 でもこれからは違うのだ。
 そう思うと不思議と肩の荷が下りたようだった。これでジルベルタは再びただの子爵令嬢に戻る。それも以前のように美しさに胡座をかくような愚かな女にはならない。

 ――勉強期間と思えば、3年はちょうどよかったかもしれないわ。これからは家のためにがんばりましょう。

 ジルベルタを乗せた馬車は、ガタガタと音をたてて子爵邸へまっすぐ進んでいった。
 
 

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