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1 三年目の浮気

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 浮気は、結婚何年目だろうとしてはいけないことである。

 それが常識だと思っていたジルベルタは、現状を受け入れるのに随分時間を要した。
 疑って、確認し、衝撃を受け、再確認して落ち込んで、奮起して、そして正々堂々尋ねた。
 そこまで葛藤してだした問いだったのだが、答えは簡単に返ってきた。

「それじゃあ本当に……」
「すまない」

 屋敷の執務室。
 目の前で執務机に座っている夫は、本当に悪いと思っているのか怪しい表情で言った。
 
 もし本当に悪いと思っているならどうしてやったんだ。とジルベルタは思う。
 夫は浮気していた。三年目にして浮気。
 まったく気付かなかった自分にジルベルタは呆れる。けれども仕方ないではないか。まさか、夫が浮気するなんて思ってもみなかったのだ。なぜなら彼はジルベルタにゾッコンだったのだから。

 ――なのにどうして?

「どうして浮気なんて……」
「……君があまりにも美しいから」
「はい?」

 夫であるリベルトは当然の顔をして言う。しかし妻であるジルベルタには何も理解できない。
 妻が美しすぎる? だから浮気する? 意味不明である。
 自分が美しすぎる件については言い慣れすぎてジルベルタも当然と受け止めつつ、それが理由というのはなんとも理解し難い。

「どういう意味か……」
「美しいものは愛でたいだろう。触れるのに躊躇しないか?」
「はぁ……」
「だから君とは、その……できないから」

 ピシリとジルベルタは固まる。
 そして思い出す。結婚してすぐ彼はこういった。
『自分は不能だ。だから君と子供はつくれない。隠していてすまなかった』と。その時の表情があまりにも悲壮だったものだから、ジルベルタは構わないと答えた。愛していなかったからだ。むしろ安心したのを覚えている。
 しかし今の言葉では、まるでジルベルタ相手にだけ不能なのだと言っているようにも聞こえる。しかも理由は美しすぎるからだ。

 ――なにそれ……。

「だから、別の女性と?」

 リベルトは素知らぬ顔をして頷いた。

「彼女はとても優しいし、素朴で、容姿は君には遠く及ばないが、一緒にいると安心するんだ。ああ、でもジルベルタ安心してくれ。俺は君を愛している。それこそ女神のように思っているよ。だからこそ、君には触れられない……。でも俺も男だからね、仕方のない事だと思わないか? 理解してくれるだろう?」
「理解……」

 ――できませんけど?

 ジルベルタはもはや目の前の男がどこか違う星の生物に見えた。実際生物学的に違う存在なのだが、そうではなく、ひたすらに理解のできない生き物に巡り合った気分である。

「それに」

 リベルトは続けた。

「三年目の浮気くらい、君は多めに見てるくれる。そういう女性だ」

 ジルベルタはめまいで倒れそうになった。
 もはや目の前の男は異星生物以外の何者でもないので、言葉を尽くして何かを伝える気は起きないが、しかし一言言わせて欲しかった。
 ジルベルタは心の赴くまま、力の限り叫んだ。

「離婚させていただきます!」

 リベルトの驚いた顔を見て思う。

 ――この男に災いあれ!!

 

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