若者たち

ザボン

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第十六章◆◆◆堕落

第百十三話

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明日は裏人オープン一周年記念となる。
24時間365日開けていて、会員数は1000人を越え、常時2~3人、多い時間帯で20人くらいが利用している。
新宿2号店は頓挫してしまったが、裏人としては順調だ。
ただし俺と社長の須藤さんは休みなく働いている。S役は進にやらせてるが、複数人から要求があると俺か社長が対応した。
それ以外の時間、俺は編集に明け暮れた。社長も経営資料のまとめなど多忙だが、合間には手伝ってはくれるが限界に近い。
本郷さんが「須藤、斎藤、大事な話がある」と訪ねてきた。
「このクラブは順調に大きくなった。お前ら二人の功績は大きい」
そこまで聞き俺は「特別ボーナスですか?」
と聞いた。
すると本郷さんは「特別ボーナスが欲しいか?」と聞き返された。
俺は「くれるならもらっとくが、使う暇がない。それをなんとかしてほしい」と、正直な感想を言った。
本郷さんは「誰が特別ボーナスをやると言った。勘違いするな」と言った。その言い方は怒っているわけではなく、ニヤニヤしながら会話を、楽しんでるようだ。
「俺はお前らに買ってほしいものがある」
しばらく間があり、俺は最悪な考えしか思い付かなかった。すると、同じ事を考えた社長が聞いた。「俺たちの今までの撮影された動画の原本を買えと、つまり全部を削除するから金を払え、という事ですか?」とたずねた。
本郷さんは腹を抱えて笑いだした。「須藤、お前の動画はキョーレツだし、ストの社長としてある意味有名人なのだから、DVDにして売り出せばお前が一生かけても払いきれない大金が手に入ると思うぞ。その対価をお前に払え、と言っても、どうせ無理だよな」
そして「もっと前向きな話だ」といった。

◇◇◇

俺と社長は、あれからも同じように寝る間を惜しんで働いている。
しかし、気持ち的には以前と大きく変わっていた。社長と俺は共同出資者となった。しかも俺が取締役だ。借金は抱えたが男の甲斐性というやつだ。この会社の3分の1は俺のものだ。本郷さんに3分の1にあたる株の代金を支払い、本郷さん一人だった会社の登記を3人の名前に変更申請した。その日、本郷さんと別れてから須藤さんと二人で社長室で乾杯しながら話をしていた。
「この会社は、裏人と芸能活動とグッツ販売が三本柱だが、裏人が収入の9割りを占めている。俺たちが頑張ればこの会社は更に伸びる」それを考えると、前よりも増して動画編集やMスタッフ教育にも力が入った。

◇◇◇

その頃、本郷さんは芸人大御所石坂と料亭で会っていた。
「ご無沙汰してます、石坂さん。いつもテレビで拝見してます」と俺が言うと、「本郷ちゃん、そんな見え透いたこと、言わなくていーよ」と笑って返した。
ビールが来たので乾杯した。
「それで本郷ちゃん、なに急に呼び出して」
と聞かれたので、「もうすぐ年会員の期限になるのです」と言った。
「なんだ会員更新と年会費の取り立てかよ」
とツッコミ風に言った。
「ハハハハー」とお互い笑って
「会員は辞めて、会社の株買いませんか?」と勧めた。
石坂はさすがに目を丸くした。
俺は説明をした。「今の会社の事業は、裏人と、suttoJr.が所属する芸能事務所と、グッズの販売です。芸能活動はsuttoJr.も世間から飽きられたので、引退させてMスタッフにしようかと思ってますし、グッズの販売は会社としては大した収益ではありません」
グッズは世界的に売れているが、本郷の特許料が凄く会社としては全然儲かってないのだ。
「なので株式会社ストは、ほぼ裏人ということです。現在、この会社は社長の須藤、取締役の斎藤と私の3人の名義になってます」
そこまで説明して、ビールをひと口飲んだ。
石坂さんは興味を持ったようだ。
「社長と斎藤は自分達の会社だから馬車馬のように働いてます。私の持ち分の3分の1を買いませんか?私は医者なので、そろそろ本業に専念しようかと思って」
理由を聞かれると思い、先に言っておいた。
石坂は少し考え、「それっていくらなの?」
と聞かれ、指で値段を示した。
「あ、たったそれっぽっち。なら買おうかな」
須藤と斎藤は人生の大勝負で借金までした値段だが、石坂からしてみたら、ちょっとしたお買い物だ。
「僕専属の税理士に言っておくから、手続きを進めといてよ」と言って、別の話題となり機嫌よく飲みだした。
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