若者たち

ザボン

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第七章◆◆◆目黒台高校ラグビー部

第四十一話

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九十九里の旅行のあと、僕は淳に連絡をした。淳に今の自分の近況報告と、言い訳もしたかった。電話をしても出てくれないので、社宅であるアパートを訪ねたが、既に退去したあとだった。職場に電話すると、退職したと告げられた。
あの会社に就職が決まって、淳は大喜びをしていた。
1年も経たずに辞めたのが不思議だった。
実家を訪ね、淳のお母さんに会った。
「あれ、夏輝くん、久しぶりだね」と迎えてくれた。
お母さんに
「なぜ淳は会社をやめたのか?」
「いま、どこにいるのか?」
と聞いたところ、目を丸くして驚かれた。
携帯に電話をかけ、繋がらないと、会社に電話し、僕の話が本当だと確認すると、涙目でお父さんに電話をかけて、状況を連絡していた。
お母さんと、居場所がわかったら連絡とりあう約束をして、今日は引き上げた。
そんなとき、後輩の進にバッタリ会った。

◇◇◇

「キャプテンは、あれから全く来なくなっちゃったけど、やっぱり俺たちが、あんな姿を見ちゃったから気にしてるのかなぁ」と尚樹がいった。
尚樹は同じ高3だが、少し幼く天然だ。
自分で「あんな姿」と言って、「やべっ、キャプテンのぶっ太いぺニスとグチュグチュアナル、思い出しちゃった」と言いながら股間を押さえた。
外見は、目黒台高校ダントツだ。男子校なのにバレンタインの下駄箱は、チョコの山だった。ただ、しゃべるとボロがでるので、「あいつは黙ってればモテるのに」と、ラグビー部内では話している。

俺は現キャプテンだが、部員の間では「進」と呼ばれていて、「キャプテン」と言えば三浦先輩の事だった。
進はキャプテンに悪いことをしたとは思っているが、止めることができなかった。
自分だけ見ずに途中で帰ったら、絶対に後悔していた。それだけ、キャプテンの姿はエロくて、凄かった。表現するならエロ美しかった。
あのあと、俺たちはお互いの顔を見ながら、でも無言だった。見てはいけないものを見ずにはいられなかった。と言うのが全員の気持ちだった。尚樹を除いては。
尚樹は「キャプテンの凄かったなー、今度練習に来たとき、また見せてくれるかなぁ」と言っていた。
「お前は少し黙ってろ」と、怒鳴ってしまった。

俺はあのとき、泣いていた夏輝先輩が気になっていた。声をかけたが行ってしまった。あの涙はどういう意味だったのだろう。
そんなことが何となく気になっていた。
毎日の練習で、忘れかけていたが、目白台大学のオープンキャンパンスを訪れたとき、バッタリ夏輝先輩に会ってしまった。

◇◇◇

「夏輝先輩、お久しぶりです」と俺は挨拶をした。あの講演会から3ヶ月が経っていた。
「おう、久しぶりだな。みんな、元気か?」
当たり障りのないあいさつを交わした、
俺はちょっと踏み込むことにして、「キャプテンの講演会のあと、夏輝先輩に声かけたんですよ、行っちゃいましたが気がつきませんでしたか?」と聞いた。
「そうだったか、気づかなかったな」
と言い、その時の話題は避け、「目白台大学に来たら、また一緒に遊べるな」など、別の話で一通りしゃべり、「じゃあまたな」と別れた。
「やっぱり、あのときの事は話してくれないな」と思い、駅に向かって歩いていると、後ろから夏輝先輩が「おーい」と追ってきて俺を呼び止めた。「時間はあるか?」

僕は進に全部話して相談しようと思った。
あいつは淳も認めて次期キャプテンとして、ラグビー部を託すほどの奴だ。
後輩だが、なにかしらアドバイスがもらえるだろう。
そう思い、このタイミングを逃せないと衝動的に追いかけた。

夏輝先輩とスタバに入った。
キャラメルアマートをおごってもらい、「ちっす」とお礼を言った。
そして、スマホをとりだし「あっすみません、LINEを1通送らせてください」スマホをなれた手つきで操作して、「お待たせしました」とテーブルに置いた。
夏輝先輩はまた当たり障りのない話をしだしたので、「そんな話をするために追いかけてきたのでは無いですよね」と、言った。
すると夏輝先輩は黙ってしまった。
話すかどうか迷っている。と言うより、どう話したらいいかを、頭のなかで組み立てているようだ。
俺は待つことにした。
「こないだは、びっくりしたよな」
考え抜いた夏輝先輩の、第一声だった。

「俺も驚いたんだよ。須藤先輩、大学の先輩で寮の同室の人なんだけど、その先輩が高校時代の後輩たちを集めて、パンツを脱がして、恥をかかせよう。と言っていたんだ。(そんな子供じみた事)と思ったけど、冗談の範囲だと思って協力して、お前たちを集めたら、、、こないだの講演会だった」

一気にしゃべった。
僕が陥れた事には違いないが、僕が悪くならない言い方を考えたつもりだ。進は黙ってしまった。

そして進は言った。
「あのとき、多分、今のキャプテンである俺が“こんなの見るな、帰ろう“と言わないといけなかったんですけど、言えませんでした。なぜなら、見たかったんです。とってもやらしいキャプテンの裸を」
俺は、その時の感情を、部員を代表して言った。「あのときのキャプテンの顔は、部員全員の心に焼きついて、一生離れないと思います」
多分、夏輝先輩も同じ思いだったのだろう。でも、自分が陥れた結果、今、目の前に繰り広げられている状態だ、ということを受け止められなかったんだと思う。
あのとき夏輝先輩が泣いていた理由がわかった。
そして俺は聞いた「あれ以来キャプテンは練習に来てないのですが、今はどうしてるのですか?」
すると、また話すかどうか迷い始めたので、「帰ります」と席をたった。

僕は慌てた。帰られてしまったら、なにも相談できない。ここからが本番なのに。
「それが、わからないんだ」話を続けた。
「入社が決まり、あんなに喜んでいた会社を辞めてしまって、当然会社の社宅も引き払って、連絡がつかないんだ。淳の実家にも行ったけど、ご両親にも連絡が来てなくて。
何か犯罪に巻き込まれたのではないかと心配してるんだ」

話ながら、九十九里の話をするべきか、迷っている。淳の恥を更に後輩に話して良いのか?と自分にいい聞かせているが、本当はその時、何もできなかった自分が軽蔑されることを恐れている。それよりも、あまり話しすぎると俺と須藤先輩の関係までバレてしまうのではないかと危惧している。
しかし、なにかしらあいつらが関わっているとは思う。

俺は夏輝先輩の話に驚いていた。キャプテンの一大事だ。だけど夏輝先輩は、まだ何かを隠している。俺に話すべきか迷っている。
「夏輝先輩が知っていることは、これだけですか?キャプテンの失踪の手がかりになりそうな事は他に知りませんか?」
と聞いた。夏輝先輩は動揺して「それだけだ」と言って、多分俺に話したことを少し後悔したように、急に話を切り上げて席をたった。
出ていった夏輝先輩の後を目で追い、見えなくなるとスマホのRECボタンをOFFにした。
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