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第一章◆◆◆伸一
第七話
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(浣腸が終わったあと、若いマスクが誰かの名前を囁きながら俺の体をまさぐってたよな。その名前がわかれば、やつの弱味を握られるかも知れない)
そう思い、ヘッドフォンをつけ直し、音量マックスでそのシーンを見(聞き)直した。
「ほしい、ほしいよ、君のカラダが、あぁシンイチくん、、、」
はっきりと聞こえた。
シンイチなんて珍しい名前ではないが、たまたまなんて考えにくいのではないか。黒スエットは僕のこと鈴木と呼んでいた。あの(シンイチ君)と呼んだマスクは、僕の知り合いか?
少しだけだか糸口が見えた気が一瞬したのち、体から頭の方に熱いなにかが吹き出し、顔を真っ赤にしながら倒れこんだ。
僕の知り合いなら、この映像を見られなくても、あの場で僕がされたことを全部見られてたんだ。
そのまま僕はなにかわからない念仏を唱えながら、朝を迎えた。
それからまた、寮の部屋に籠る生活が続いた。
なにも事情を知らない暖人先輩は、「いい加減吹っ切れよ、アラブのサイトなんて誰も見ねーよ」と言って、僕を無理やり大学に連れ出し、バスケの練習に参加させた。
普段は学年が違うから着替えもシャワーも時間差だったが、今日は暖人先輩が一緒に付き添ってくれ、2年にまざでって着替えもシャワーもした。
他の2年の先輩たちから、「伸一は見かけによらず毛深いんだなー」といじられたが、「つまんねーこと、言ってんじゃねーよ」と暖人先輩が一喝してくれた。暖人先輩と一緒にシャワーを浴びたのは、初めてだった。
暖人先輩の体毛は薄くもなく濃くもなく、丁度いい僕の理想だった。ただ、右のわき毛だけは、怪我でもしたのか、丸く抜けていた。
わき毛にも10円ハゲがあるのかな?と下らないことを考えるくらい、少しだけ吹っ切れてきた。バスケの練習に引っ張ってきてくれて、発散できたお陰だな、やっぱり暖人先輩はよい人だな。と改めて思った。
少しづつでも普段の生活を取り戻し始めた矢先、僕を再びどん底に突き落とす番号から着信があった。
あの、独特なイントネーションだった。
「よー、鈴木、元気だったか?また君にバイトを頼みたいと思ってな。第2弾も公開当初は会員数も延びたんだが、最近頭打ちでな」
僕には断るすべがなく、話を聞いて、でも少しでも後ろに延ばすよう、大学の追試だとか、親戚の三回忌だとか、理由をつけた。
「これだと第3弾以外の方法を考えないとなぁ」と言い出したので、3週間後の日曜で約束をしてしまった。
今度は何をさせられるのだろうとびくびく考えたが、あのSMより酷いことは全く考えつかなかった。
そして、悩んで、悩んだ末、暖人先輩に打ち明けて相談することにした。
今日は日曜で部活もないから、パソコンをもって暖人先輩の部屋を訪ねると、先輩は部屋にいた。僕はたまたま同室の人が大学を早々に辞めてしまってひとりで使っているが、基本的に寮の部屋は二人部屋だ。
暖人先輩と同室の須藤先輩(も、たまたまバスケ部)は、土日で実家に帰っているとのことで都合が良かった。
僕があまりに深刻な面持ちなので、暖人先輩も「あの事だな?誰かにばれたのか?」
と心配して聞いてきた。
僕は泣きながら全部を話した。
顧問と先輩に話したあと、バイト先から電話があったこと
第2弾を撮らないと、初回の動画が日本で無料視聴とされてしまうこと
第2弾は初回と比べ物にならないほどおぞましかったこと
その動画はすでにアラブで公開されていて、確認したこと
マスク補助役が、たぶん「シンイチ」と囁いたこと
第3弾を約束してしまったこと
を包み隠さずはなした。
そして、第2弾の動画は絶対に暖人先輩にも観られたくないが、マスクが僕の名前を呼ぶところだけ一緒に見て、どう思うか意見を聞かせてほしい。と頼んだ。
「伸一がそれを望むなら、一緒に見よう」
となり、僕のパソコンでその動画にアクセスし、その場面まで飛ばし二人でイヤホンを使いなから再生した。
イヤホンを外しながら暖人先輩はこう言った
「僕にはシンイチではなく、シュンイチと聞こえた。多分伸一の聞き違いではないか?」
しかし、僕には暖人先輩の話は何一つ入ってこなかった。
握りしめた拳はブルブル震え、「何で、何で」と繰り返していた。
暖人先輩は怪訝そうな顔で僕を見ていたので、僕はゆっくり動画をもう一度再生し、一時停止をした。
そこにはマスクの右脇が映っていて、10円玉のようなハゲがあった。
その停止画像を暖人先輩は見て、完全にハッとしたのに、「この画像がどうしたんだ?」と、とぼけ始めた。
「暖人先輩の右脇毛と同じハゲだ、このマスクは暖人先輩だ」
と僕は断言した。
「そんなわけあるかよー」などと冗談めかして言っているが、目は完全に泳いでいた。
「もうバレたんだからしょーがねーじゃん」と、背後から声がした。
そう思い、ヘッドフォンをつけ直し、音量マックスでそのシーンを見(聞き)直した。
「ほしい、ほしいよ、君のカラダが、あぁシンイチくん、、、」
はっきりと聞こえた。
シンイチなんて珍しい名前ではないが、たまたまなんて考えにくいのではないか。黒スエットは僕のこと鈴木と呼んでいた。あの(シンイチ君)と呼んだマスクは、僕の知り合いか?
少しだけだか糸口が見えた気が一瞬したのち、体から頭の方に熱いなにかが吹き出し、顔を真っ赤にしながら倒れこんだ。
僕の知り合いなら、この映像を見られなくても、あの場で僕がされたことを全部見られてたんだ。
そのまま僕はなにかわからない念仏を唱えながら、朝を迎えた。
それからまた、寮の部屋に籠る生活が続いた。
なにも事情を知らない暖人先輩は、「いい加減吹っ切れよ、アラブのサイトなんて誰も見ねーよ」と言って、僕を無理やり大学に連れ出し、バスケの練習に参加させた。
普段は学年が違うから着替えもシャワーも時間差だったが、今日は暖人先輩が一緒に付き添ってくれ、2年にまざでって着替えもシャワーもした。
他の2年の先輩たちから、「伸一は見かけによらず毛深いんだなー」といじられたが、「つまんねーこと、言ってんじゃねーよ」と暖人先輩が一喝してくれた。暖人先輩と一緒にシャワーを浴びたのは、初めてだった。
暖人先輩の体毛は薄くもなく濃くもなく、丁度いい僕の理想だった。ただ、右のわき毛だけは、怪我でもしたのか、丸く抜けていた。
わき毛にも10円ハゲがあるのかな?と下らないことを考えるくらい、少しだけ吹っ切れてきた。バスケの練習に引っ張ってきてくれて、発散できたお陰だな、やっぱり暖人先輩はよい人だな。と改めて思った。
少しづつでも普段の生活を取り戻し始めた矢先、僕を再びどん底に突き落とす番号から着信があった。
あの、独特なイントネーションだった。
「よー、鈴木、元気だったか?また君にバイトを頼みたいと思ってな。第2弾も公開当初は会員数も延びたんだが、最近頭打ちでな」
僕には断るすべがなく、話を聞いて、でも少しでも後ろに延ばすよう、大学の追試だとか、親戚の三回忌だとか、理由をつけた。
「これだと第3弾以外の方法を考えないとなぁ」と言い出したので、3週間後の日曜で約束をしてしまった。
今度は何をさせられるのだろうとびくびく考えたが、あのSMより酷いことは全く考えつかなかった。
そして、悩んで、悩んだ末、暖人先輩に打ち明けて相談することにした。
今日は日曜で部活もないから、パソコンをもって暖人先輩の部屋を訪ねると、先輩は部屋にいた。僕はたまたま同室の人が大学を早々に辞めてしまってひとりで使っているが、基本的に寮の部屋は二人部屋だ。
暖人先輩と同室の須藤先輩(も、たまたまバスケ部)は、土日で実家に帰っているとのことで都合が良かった。
僕があまりに深刻な面持ちなので、暖人先輩も「あの事だな?誰かにばれたのか?」
と心配して聞いてきた。
僕は泣きながら全部を話した。
顧問と先輩に話したあと、バイト先から電話があったこと
第2弾を撮らないと、初回の動画が日本で無料視聴とされてしまうこと
第2弾は初回と比べ物にならないほどおぞましかったこと
その動画はすでにアラブで公開されていて、確認したこと
マスク補助役が、たぶん「シンイチ」と囁いたこと
第3弾を約束してしまったこと
を包み隠さずはなした。
そして、第2弾の動画は絶対に暖人先輩にも観られたくないが、マスクが僕の名前を呼ぶところだけ一緒に見て、どう思うか意見を聞かせてほしい。と頼んだ。
「伸一がそれを望むなら、一緒に見よう」
となり、僕のパソコンでその動画にアクセスし、その場面まで飛ばし二人でイヤホンを使いなから再生した。
イヤホンを外しながら暖人先輩はこう言った
「僕にはシンイチではなく、シュンイチと聞こえた。多分伸一の聞き違いではないか?」
しかし、僕には暖人先輩の話は何一つ入ってこなかった。
握りしめた拳はブルブル震え、「何で、何で」と繰り返していた。
暖人先輩は怪訝そうな顔で僕を見ていたので、僕はゆっくり動画をもう一度再生し、一時停止をした。
そこにはマスクの右脇が映っていて、10円玉のようなハゲがあった。
その停止画像を暖人先輩は見て、完全にハッとしたのに、「この画像がどうしたんだ?」と、とぼけ始めた。
「暖人先輩の右脇毛と同じハゲだ、このマスクは暖人先輩だ」
と僕は断言した。
「そんなわけあるかよー」などと冗談めかして言っているが、目は完全に泳いでいた。
「もうバレたんだからしょーがねーじゃん」と、背後から声がした。
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