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第一章◆◆◆伸一
第三話
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あの事から一週間が経ち、伸一は、(撮影されたのはゲイ向けの動画だから、僕の知り合いで観る人なんか居ないよ)、と考えるようになっていた。いや、考えようとしていた。
自分の知り合いでゲイが居ないなんて言い切れないし、ゲイでなくても、何かの拍子にみられる可能性もあるが、その事はあえて考えないようにしていた。この一週間、落ち込みもしたが、普通の生活に戻るため、必死に普段通り振る舞っていた。
ただ、よる布団に入り目をつぶると、「この動画のモデル、伸一じゃねぇ?」と友達同士が話している場面が頭をよぎって、悶々と眠れない一夜を過ごすこともあった。
暫くして、バスケ部の秋川顧問から呼び出しがあった。
秋川顧問は30才前後のナイスガイだ。
「失礼します、1年の鈴木です」と扉を開け顧問室に入ると、暖人先輩もいた。二人はパソコンを開いて、たまに怪訝な顔をして深刻そうに話をしていた。
「おお鈴木、少し聞きたいことがある」
と、普段は年のわりに気軽に話しかけてくれる秋川顧問が、深刻そうに話しをし出した。
「部内でアルバイト斡旋の窓口をしてもらっている萩原から、お前が倫理上よろしくないアルバイトをしていると、相談があった」そこまで秋川顧問が話すと、それを引き継ぐように暖人先輩が話し出した。
「うちの部でバイトを斡旋すると、バイト先にどうだったかアンケートのお願いをしているのだが、こんな回答が返ってきた」そう言ってメールの画面を見させられた。
メールには「お陰さまでよい作品が撮れました。特別にゲスト用のパスワードを送りますから確認してください」と書かれていた。
伸一は呆然とした。
伸一が無言で固まってしまったので、暖人先輩がURLをクリックし、パスワードを打ち込んだ。
すると、伸一が予想はしていたが絶対に信じたくない映像が映し出された。途中から再生されたのは、それまで秋川顧問と暖人先輩がその映像を確認していたからだろう。その映像は、伸一が喘ぎながらイッた最後の場面だったから、ほとんど二人は確認し終わっていたことになる。しかもその映像は無修正で、伸一の恥ずかしい部分が、何の隠しだてもなく画面いっぱいに映し出されていた。
更に、画像の左下には伸一の学生証の画像が、本編の邪魔にならない程度の大きさで、常に表示されている。顔写真はもちろん、氏名、生年月日、大学の学部や学生番号などの個人情報が完全に読み取れる。
「どう言うことだ、鈴木君。私は立場的に学校に報告せざる終えない。そうなったら退学は間逃れないぞ。」
伸一は頭のなかが真っ白になった。退学という重大な言葉さえ気がつかないほど、二人に映像を観られたという事実がショックだった。
涙がポロポロ溢れてきた。
伸一は秋川顧問と暖人先輩にすべてを打ち明けた。
暖人先輩に紹介してもらったバイトだったこと。
暖人先輩に電話をしても繋がらなかったこと。
やらなければ暖人先輩が大金を請求されるから、やむなく契約したこと。
嗚咽しながら、つっかえつっかえ説明した。説明を終えると、伸一はカバンにずっと入れっぱなしだった契約書の写しを出した。
説明中に暖人先輩の顔色がみるみる変わっていき、涙目になっていた。
「俺はなにも知らなかったんだ。ガテン系のバイトだと思って紹介したんだ。」と、伸一へ、そして秋山顧問へ弁明した。
秋山顧問は契約書の内容を確認し終えると、伸一を見つめて順序だてて話をし始めた。
契約書の内容事態は違法性がないこと。
バイトの時給としては法外な金額を伸一が受け取った時点で契約は成立してること。
伸一は18才だから契約は有効なこと
アップされていた動画は海外のサイトのため、無修正でも違法ではないこと
同じ理由で個人情報保護法も適用されないこと
さらに、こう続けた。
「鈴木君がこのバイトをした事情はわかったが、学則違反であることは変わらない。ただ、バスケ部がこのバイトを紹介したとなると、部の公式戦出場も危ぶまれる。幸い、日本に馴染みの薄いアラブのサイトでアップされているから、アクセスされる可能性も低く、更にパスワードで保護されている。私はこの件は聞かなかった、見なかったことにする。二人ともこの件について他に絶対に漏れないようにしなさい。
当然、このメールも削除しておくように。
広まってしまったら、私も鈴木君を守りきれない」
かん口令がひかれた。
二月ほど経過した。
伸一は普段の生活を徐々に取り戻していた。秋山顧問も暖人先輩も今まで通り何事もなかったように接してくれていた。
(あの事はなるべく忘れよう)と、あえて考えるのをやめた。
バスケの練習に参加したその帰り道、携帯に未登録の番号からの着信があった。
「はい、鈴木です」
「こないだはお疲れ様、誰だかわかるかね」
伸一は反射的に電話を切った。それは黒スエットのイントネーションだった。
すぐにまた同じ番号から着信があり、恐る恐る出た。
君が出演してくれた映像は、日系モデルが人気のアラブで、有料サイト方式で公開しているが、登録数が芳しくない。
売り上げを伸ばすため第二弾を撮りたい。という依頼だった。
「もう勘弁してください、あの件は忘れたい」と伸一は必死にお願いした。
「そうですか、第二弾は無理ですか」
黒スエットは思いのほか簡単に引き下がった。
ホッとしたのもつかの間、こう続けた。
「そうなると、アラブだけではなく日本のサイトでの広告収入を考えないといけないなぁ。広告収入だと無料で公開されるから、拡散されて人の目につきやすくなるけど、よいのかな?」
自分の知り合いでゲイが居ないなんて言い切れないし、ゲイでなくても、何かの拍子にみられる可能性もあるが、その事はあえて考えないようにしていた。この一週間、落ち込みもしたが、普通の生活に戻るため、必死に普段通り振る舞っていた。
ただ、よる布団に入り目をつぶると、「この動画のモデル、伸一じゃねぇ?」と友達同士が話している場面が頭をよぎって、悶々と眠れない一夜を過ごすこともあった。
暫くして、バスケ部の秋川顧問から呼び出しがあった。
秋川顧問は30才前後のナイスガイだ。
「失礼します、1年の鈴木です」と扉を開け顧問室に入ると、暖人先輩もいた。二人はパソコンを開いて、たまに怪訝な顔をして深刻そうに話をしていた。
「おお鈴木、少し聞きたいことがある」
と、普段は年のわりに気軽に話しかけてくれる秋川顧問が、深刻そうに話しをし出した。
「部内でアルバイト斡旋の窓口をしてもらっている萩原から、お前が倫理上よろしくないアルバイトをしていると、相談があった」そこまで秋川顧問が話すと、それを引き継ぐように暖人先輩が話し出した。
「うちの部でバイトを斡旋すると、バイト先にどうだったかアンケートのお願いをしているのだが、こんな回答が返ってきた」そう言ってメールの画面を見させられた。
メールには「お陰さまでよい作品が撮れました。特別にゲスト用のパスワードを送りますから確認してください」と書かれていた。
伸一は呆然とした。
伸一が無言で固まってしまったので、暖人先輩がURLをクリックし、パスワードを打ち込んだ。
すると、伸一が予想はしていたが絶対に信じたくない映像が映し出された。途中から再生されたのは、それまで秋川顧問と暖人先輩がその映像を確認していたからだろう。その映像は、伸一が喘ぎながらイッた最後の場面だったから、ほとんど二人は確認し終わっていたことになる。しかもその映像は無修正で、伸一の恥ずかしい部分が、何の隠しだてもなく画面いっぱいに映し出されていた。
更に、画像の左下には伸一の学生証の画像が、本編の邪魔にならない程度の大きさで、常に表示されている。顔写真はもちろん、氏名、生年月日、大学の学部や学生番号などの個人情報が完全に読み取れる。
「どう言うことだ、鈴木君。私は立場的に学校に報告せざる終えない。そうなったら退学は間逃れないぞ。」
伸一は頭のなかが真っ白になった。退学という重大な言葉さえ気がつかないほど、二人に映像を観られたという事実がショックだった。
涙がポロポロ溢れてきた。
伸一は秋川顧問と暖人先輩にすべてを打ち明けた。
暖人先輩に紹介してもらったバイトだったこと。
暖人先輩に電話をしても繋がらなかったこと。
やらなければ暖人先輩が大金を請求されるから、やむなく契約したこと。
嗚咽しながら、つっかえつっかえ説明した。説明を終えると、伸一はカバンにずっと入れっぱなしだった契約書の写しを出した。
説明中に暖人先輩の顔色がみるみる変わっていき、涙目になっていた。
「俺はなにも知らなかったんだ。ガテン系のバイトだと思って紹介したんだ。」と、伸一へ、そして秋山顧問へ弁明した。
秋山顧問は契約書の内容を確認し終えると、伸一を見つめて順序だてて話をし始めた。
契約書の内容事態は違法性がないこと。
バイトの時給としては法外な金額を伸一が受け取った時点で契約は成立してること。
伸一は18才だから契約は有効なこと
アップされていた動画は海外のサイトのため、無修正でも違法ではないこと
同じ理由で個人情報保護法も適用されないこと
さらに、こう続けた。
「鈴木君がこのバイトをした事情はわかったが、学則違反であることは変わらない。ただ、バスケ部がこのバイトを紹介したとなると、部の公式戦出場も危ぶまれる。幸い、日本に馴染みの薄いアラブのサイトでアップされているから、アクセスされる可能性も低く、更にパスワードで保護されている。私はこの件は聞かなかった、見なかったことにする。二人ともこの件について他に絶対に漏れないようにしなさい。
当然、このメールも削除しておくように。
広まってしまったら、私も鈴木君を守りきれない」
かん口令がひかれた。
二月ほど経過した。
伸一は普段の生活を徐々に取り戻していた。秋山顧問も暖人先輩も今まで通り何事もなかったように接してくれていた。
(あの事はなるべく忘れよう)と、あえて考えるのをやめた。
バスケの練習に参加したその帰り道、携帯に未登録の番号からの着信があった。
「はい、鈴木です」
「こないだはお疲れ様、誰だかわかるかね」
伸一は反射的に電話を切った。それは黒スエットのイントネーションだった。
すぐにまた同じ番号から着信があり、恐る恐る出た。
君が出演してくれた映像は、日系モデルが人気のアラブで、有料サイト方式で公開しているが、登録数が芳しくない。
売り上げを伸ばすため第二弾を撮りたい。という依頼だった。
「もう勘弁してください、あの件は忘れたい」と伸一は必死にお願いした。
「そうですか、第二弾は無理ですか」
黒スエットは思いのほか簡単に引き下がった。
ホッとしたのもつかの間、こう続けた。
「そうなると、アラブだけではなく日本のサイトでの広告収入を考えないといけないなぁ。広告収入だと無料で公開されるから、拡散されて人の目につきやすくなるけど、よいのかな?」
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