Daruma

ザボン

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エピローグ

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私は黙々と山頂を目指した。
フィリピンに親の都合で移住してから、もう7年になろうとしている。
今日は一人で、前から気になっていた島にきてみた。
一応観光地で、朝と夕方に定期船で1往復出航しているので、朝の便で島に渡ったのだ。
他には漁船にたのみのせてもらって島にわたる方法があるみたいだが、それは観光客ではなく地元民の手段のようだ。
その朝の便では乗客は私一人だった。週末にでもなれば、もう少し観光客も来るのだろうか?
そんなことを考えながら船を降りた。
船着き場は電波が入るので、帰りの船の時間を確認し山頂を目指すことにした。
ハイキングコースをたどり、誰も足を踏み入れないだろう壊れかけた山小屋の横を通り抜け、開けた場所に立った。
「おぉー、きれいだ!」
私はつい大きな声で叫んでいた。
朝もやが薄く白くかかる眼下にエメラルドブルーの海が広がっている。
夢中でスマホで写真を撮っていると「助けてくれー」と聞こえた。
(に、日本語だっ!)私は声がした山小屋に近づいていった。

「た、助けてくれ。に、日本人だろ」
俺の感嘆の叫び声を聞き取ったらしい。
俺はそぉっと山小屋のなかを覗いた。

「目白台大学7期生、法学部2年多胡勇也だ。助けてくれ」
両腕、両足が付け根からなく、胴体と首上だけの全裸の男が私を睨んで必死に訴えている。
私は「ギャー」と悲鳴和あげ、尻餅をついて、ガクガクした足で転びながら山道を走って下った。

腕も足もない、ダルマのような容姿はあまりにもショッキングな姿だった。

這うように船着き場に戻ると、水筒のお茶をひと口飲み、一刻も早くこの島を離れたい。と考えた。
しかし船は夕方までない。
漁船もどこに頼めばよいかもわからない。
少し時間がたち少し落ち着きを取り戻して、たった今聞いた大学名と名前を検索してみた。
そこには、多胡勇也は死刑判決を受けて執行された。と顔写真付きで載っていた。
その写真は紛れもなく先程目にした胴体と首上だけの男性だった。そして、多胡勇也は俺と同じ年齢だった。

警察艇で当局の警察官が、大勢島に到着した。
見なかったことにて早くこの島を離れたい思っていたが、同じ年齢ということが私を行動させ通報したのだ。
私は到着し上陸した警察官をその山小屋まで案内し、多胡勇也は保護された。

それからは大騒ぎとなった。
日本政府は「多胡勇也の死刑は執行された」との見解を突き通していた。
私は改めて多胡勇也を見舞うことにし、病院を訪れた。
多胡勇也から涙ながらにお礼を言われ、これまでのすべてを聞いた。
その内容に唖然とした。
多胡勇也は信じていた母国日本の闇の部分を目の当たりにした生き証人だ。
そして、自分の欲望のために多胡勇也の四肢を闇医者に切断させた真一。
傷口が落ち着くと毎日あの山小屋で多胡勇也の身体を使い性欲を発散させていたという。
「手足がなくても、お前の顔を見ながらぺニスとアナルと口を使えれば十分だ」と毎回言われながら犯されていたと、涙ながらに語った。
一日か二日に一度餌を与えられ、死にたいと考えてもその方法が見つからず、最後は生きるしか選択肢がないと結論に達し、そのためには真一にすがり、真一に気に入られなければならないと考えるようになり、必死に真一に尽くした。
と、悔しそうに涙を流した。そしてそんな生活を山小屋で1年以上過ごしてきたある日の朝、「おぉー、きれいだ!」という日本語が聞こえたとのだ、と教えてくれた。

しかし、フィリピン警察庁は多胡勇也の事は間違えだったと発表した。何かしらの密約がフィリピン政府と日本政府の間で取り交わされたのだろう。
その後、多胡勇也の口から聞いていた目白台大学の水野先生をネットで検索したが、何事もなかったように大学で地理を教えているようだ。
真一は検索したが、関連しそうな記事が掲載されることはなかった。予想はしていたが。

多胡勇也は退院し、フィリピン政府に保護されて、どこかで生きているのだろう(そうなっている事を望んでいる)
しかし、多胡勇也の四肢を切断するという鬼畜なことをやったのは、日本人だ。
自分の性欲のために・・・
日本も、そして日本国民である真一も正気の沙汰ではない。
私はこのあわれな多胡勇也の体験を決して無かったことにさせてはいけない、世間に知らせなければならないと考えて、ストーリーとして残すことにした。
書くことが私の使命だと思っている。

ストーリーの題名はDarumaとして綴り、日本で人気の小説投稿サイトに投稿することにした。

多くの人がこの事実を知ってくれることを願って。
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