BLUE DREAMS

オトバタケ

文字の大きさ
上 下
43 / 46
要くんと唯斗さん

夢の続き

しおりを挟む
 緑色の世界。地平線の彼方に小さく光るゴールマウスを目指して、ドリブルをする見覚えのある後ろ姿。
 あっ、要くんだ。要くん待って! 俺を置いていかないでよ!
 その後ろを追いかけようとするけど、足が地面に張り付いてしまって動かない。もがけばもがく程、体は緑の中に沈んでいく。

「要くんっ!」

 自分の大声にびっくりして目が覚める。
 体中に流れる嫌な汗。瞳から流れ出る水は、止まる術を忘れたかのように流れ続ける。
 叫んでも振り向いてさえくれなかった後ろ姿に、声をあげて泣いた。

 球を蹴れなくなって、どれくらい経っただろう。
 今まで、休みらしい休みもなく試合に出続けていたので、いい休暇だとポジティブに考え、プレーの面でも精神面でもより成長してピッチの上に戻ろうと思っていた。
 辛いリハビリにも、春の訪れを想像して耐えた。
 でも、こんな寒い夜に一人で眠ると、不安に押し潰されそうになる。

 本当に、足は治るんだろうか?
 本当に、もう一度ピッチに立てるんだろうか?
 また、自分の納得するプレーをする事が出来るんだろうか?
 この夢には、ちゃんと続きがあるんだろうか?

 夢の始まりは小さなものだった。
 サッカーが好き。サッカーがしたい。
 でも、この小さなきっかけが全てだ。
 今考えると全然下手くそだったけど、その当時は自分の納得するプレーが出来て。
 県選抜に選ばれて、有名高校に入って高校選手権で優勝できて。
 プロになって、日本代表に選ばれて……。
 小さな夢を積み重ねていって、夢へと続く大きな塔が立っていった。

 でも、まだ夢へは届いていない。
 まだ、夢の続きを見たい。
 夢へと続く道を歩いていきたい。
 当然、続いていくもんだと思っていた夢……。

「やめたくないよぉー」

 辺りが明るくなるまで泣き続けた。


「唯斗さん、どうしました?」

 会いたくて会いたくて、待ち焦がれていた要くんが来てくれた。
 真っ赤に腫れ上がった俺の目元を見て、心配そうに聞いてくる。

「要くぅーん」

 涙って、どれくらい出るもんなんだろう?
 体中の水分が全て流れ出すんじゃないかって程、また泣いた。
 抱きついてぐずる俺の背中を、優しく撫で続けてくれた要くん。

「俺の足、ちゃんと治るのかな?」
「治りますよ」
「ちゃんとピッチに戻れるかな?」
「戻れますよ」
「何で分かるんだよぉ」

 大声を上げて拳で胸を叩く俺を、困った顔で見つめてくる要くん。

「何で怪我したんだよ。本当にもう一度サッカー出来るのかよ。要くんとワールドカップのピッチの上に一緒に立ちたいのに。要くんだけ立ったら許さないから」

 駄々っ子のように何度も何度も叩いて泣き喚く俺に、益々困った顔をする要くん。
 要くんだって、成績不振だったチームが新体制をとってガラッと環境が変わって、色々考えたり悩んだりしている事があると思うのに。
 俺には弱音を吐いていいんだよって、優しく笑ってあげようと思っていたのに。
 俺は、何をやっているんだろう……。
 更に憤りが募り、泣くという行為を止める術が分からなくなってしまった。

「大丈夫。唯斗さんはもう一度ピッチに立って輝けますよ。一緒にワールドカップに行きましょう」

 優しく笑いかけてくれた要くんの手が、俺の手を握る。

「何でそんな事、言えるんだよー」
「唯斗さんが頑張っているのを知ってますから」
「嘘。見てないくせに」
「見てなくても唯斗さんの顔を見たら分かりますよ」
「えっ?」

 涙で滲んでぼやけて見える要くんの顔が近づいてきて、俺の額と要くんの額がくっつく。

「僕は、唯斗さんの事なら何でも分かりますから。そんな僕が言うんですから、信じてください」

 ね、って恥ずかしそうに笑う要くんに、うんって微笑むと心地好い熱が俺を包んだ。

 まだまだ、夢の続きを見たいから。
 さぼってる時は、ちゃんと叱って。辛い時は側にいて。嬉しい時は一緒に笑って。
 俺にも君の夢、聞かせてよ。君がしてくれたように、俺も君の助けになりたいから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜

ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。 高校生×中学生。 1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

永遠の快楽

桜小路勇人/舘石奈々
BL
万引きをしたのが見つかってしまい脅された「僕」がされた事は・・・・・ ※タイトル変更しました※ 全11話毎日22時に続話更新予定です

男の子たちの変態的な日常

M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

人気ミステリー作家に口説かれています!

はやしかわともえ
BL
ミステリー小説好きな大学生、拓哉。教授である瑠馬にドキドキさせられながら過ごす日々。

処理中です...