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シャボン玉の向かう先②
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「さぁ、もうすぐドラゴーナに到着しますよ」
何かを察知したように背後を確認した使者が、ほっとしたような笑みを浮かべて告げてくる。
こんな角が生えてしまった以上、使者の話を信じないわけにはいかない。王を務められるなんて思えないが、生まれた地を見てみたい気持ちはある。
だが、気になることがある。俺はドラゴーナの人間だとしても、諒は対の世界の人間だということだ。
「諒もドラゴーナに行っていいのか?」
「勿論です。婿殿がいなければ、子を成せないではないですか」
「へ?」
使者が俺達の関係をどこまで知っているのかは不明だが、婿殿という表現は間違いではないので否定はしない。問題は、そのあとに続いた言葉だ。
「王家の者はみな男性ですが、身籠れる体なのです」
俺の疑問を感じ取った様子の使者が、王家の者の体の仕組みを説明してくれた。王の角なるものが生える者は、普通の人々とは違う体の仕組みをしていても不思議ではない。
ドラゴーナ人である使者は、今まで俺達のいた世界の人々と変わらない姿をしている。だから、自分達とは違う存在である王を、神のように崇拝するのかもしれない。
「それでは、王家の血筋に入りたいものが、王に乱暴を働く危険があるんじゃないか?」
王の角が生えてしまったことで、眉唾物の仕組みにも納得してしまっていると、諒が険しい声で使者に問いただした。
野心家ならば、自分の子供を次の王にしたいと考えるだろう。国の頂点に君臨する王を、組み敷きたいと思う加虐心を持つものもいるかもしれない。
諒以外に体を開かさられ、そいつの子を身籠ってしまったとしたら……。想像しただけで、えずいてしまいそうになる。
あまりの恐怖に震えてしまう体を、絶対に護り抜くと誓うようにきつく掻き抱いてくれる諒。
俺は諒に救いだされ、望月朔夜として諒のためだけに生きていくと決めたのだ。諒しか知らない心と体は、これからも諒ただひとりのものだ。
その想いが伝わるように、体に巻かれた逞しい腕に触れる。
「新王には、その心配はありません。初めて受け入れた子種の相手としか子を成せない仕組みになっているのです。国の宝である王は厳重な警備の元で生活していただきますので、ご安心を」
使者の回答に、諒と共に安堵の息を吐く。
「新王、ドラゴーナに到着しました」
背後に振り返った使者が、辺りを包む白い靄の先を押す。
ギギギ、と木の軋む音がすると、靄の先に漆黒の空間が現れた。
人ひとりが通れるくらいの大きさの、洞窟の入口みたいなそこへ使者が向かっていく。それが、魔物の口に飲み込まれていくみたいに見えて、身震いしてしまう。
俺の怯えに気付いたのか、落ち着かせるように旋毛にキスを落としてきた諒。どんな痛みも治してくれる、おまじないのキスだ。
たちまち恐怖は霧散していき、力みが消えた体が宙に浮いた。諒に、横抱きで抱えられたのだ。そう、俗にいう、お姫様抱っこというやつだ。
「ちょっ、下ろせよ」
「貴方は王なのですから、抱えられて当然でしょ」
「こんな風に抱えられるのは、姫だろ」
「朔夜さんは俺にとって、王であり、姫であり、ただひとりの伴侶」
そう甘い声で囁いてきた諒が、俺の角に愛しそうにキスをする。
使者の信じられないような話を己の体に起こった変化で納得した俺とは違い、諒は理解するのが大変だったはずだ。それなのに俺の身を案じ、冷静に使者と話していた。
諒の方がよっぽど王らしい。実際に大きな会社を動かしていたし、不幸が重なって新しい会社に変わっても、一目置かれていたようだ。
伴侶としては勿論、男としても憧れの存在。そんな諒の遺伝子を遺すことができないのを、申し訳ないと思ったことがあった。
望月貿易の実質的なトップだった頃、俺と結婚しても子供はできない、と求婚される度にかわしていた。
家族関係が冷えきっていて血を護る意思がなかった諒は、望月の者でなくても優秀な人材がトップに立つべきなので子供は必要ない、と言っていた。それは俺に気を遣っての言葉で、本心はどうかは分からなかった。
俺自身が、血の繋がった存在を求めていたからだ。
有坂の家族のことは、今も本当の家族だと思っている。だが、心の片隅に、血の繋がった家族がいたら、という思いがあったのだ。
身籠れる、と言われてもピンとこなかったが、諒と俺の血が混ざった存在が持てると分かったら、この上ない幸せが沸き上がってきた。
「王なんてやれる自信はないけど、諒の子が生めるのは嬉しい」
「朔夜さん……」
照れながらも本心を伝えると、幸せそうに目尻を下げた諒が唇を重ねてきた。チュッ、チュッ、と可愛らしい口付けを交わしながら、闇の中に入っていく。
何かを察知したように背後を確認した使者が、ほっとしたような笑みを浮かべて告げてくる。
こんな角が生えてしまった以上、使者の話を信じないわけにはいかない。王を務められるなんて思えないが、生まれた地を見てみたい気持ちはある。
だが、気になることがある。俺はドラゴーナの人間だとしても、諒は対の世界の人間だということだ。
「諒もドラゴーナに行っていいのか?」
「勿論です。婿殿がいなければ、子を成せないではないですか」
「へ?」
使者が俺達の関係をどこまで知っているのかは不明だが、婿殿という表現は間違いではないので否定はしない。問題は、そのあとに続いた言葉だ。
「王家の者はみな男性ですが、身籠れる体なのです」
俺の疑問を感じ取った様子の使者が、王家の者の体の仕組みを説明してくれた。王の角なるものが生える者は、普通の人々とは違う体の仕組みをしていても不思議ではない。
ドラゴーナ人である使者は、今まで俺達のいた世界の人々と変わらない姿をしている。だから、自分達とは違う存在である王を、神のように崇拝するのかもしれない。
「それでは、王家の血筋に入りたいものが、王に乱暴を働く危険があるんじゃないか?」
王の角が生えてしまったことで、眉唾物の仕組みにも納得してしまっていると、諒が険しい声で使者に問いただした。
野心家ならば、自分の子供を次の王にしたいと考えるだろう。国の頂点に君臨する王を、組み敷きたいと思う加虐心を持つものもいるかもしれない。
諒以外に体を開かさられ、そいつの子を身籠ってしまったとしたら……。想像しただけで、えずいてしまいそうになる。
あまりの恐怖に震えてしまう体を、絶対に護り抜くと誓うようにきつく掻き抱いてくれる諒。
俺は諒に救いだされ、望月朔夜として諒のためだけに生きていくと決めたのだ。諒しか知らない心と体は、これからも諒ただひとりのものだ。
その想いが伝わるように、体に巻かれた逞しい腕に触れる。
「新王には、その心配はありません。初めて受け入れた子種の相手としか子を成せない仕組みになっているのです。国の宝である王は厳重な警備の元で生活していただきますので、ご安心を」
使者の回答に、諒と共に安堵の息を吐く。
「新王、ドラゴーナに到着しました」
背後に振り返った使者が、辺りを包む白い靄の先を押す。
ギギギ、と木の軋む音がすると、靄の先に漆黒の空間が現れた。
人ひとりが通れるくらいの大きさの、洞窟の入口みたいなそこへ使者が向かっていく。それが、魔物の口に飲み込まれていくみたいに見えて、身震いしてしまう。
俺の怯えに気付いたのか、落ち着かせるように旋毛にキスを落としてきた諒。どんな痛みも治してくれる、おまじないのキスだ。
たちまち恐怖は霧散していき、力みが消えた体が宙に浮いた。諒に、横抱きで抱えられたのだ。そう、俗にいう、お姫様抱っこというやつだ。
「ちょっ、下ろせよ」
「貴方は王なのですから、抱えられて当然でしょ」
「こんな風に抱えられるのは、姫だろ」
「朔夜さんは俺にとって、王であり、姫であり、ただひとりの伴侶」
そう甘い声で囁いてきた諒が、俺の角に愛しそうにキスをする。
使者の信じられないような話を己の体に起こった変化で納得した俺とは違い、諒は理解するのが大変だったはずだ。それなのに俺の身を案じ、冷静に使者と話していた。
諒の方がよっぽど王らしい。実際に大きな会社を動かしていたし、不幸が重なって新しい会社に変わっても、一目置かれていたようだ。
伴侶としては勿論、男としても憧れの存在。そんな諒の遺伝子を遺すことができないのを、申し訳ないと思ったことがあった。
望月貿易の実質的なトップだった頃、俺と結婚しても子供はできない、と求婚される度にかわしていた。
家族関係が冷えきっていて血を護る意思がなかった諒は、望月の者でなくても優秀な人材がトップに立つべきなので子供は必要ない、と言っていた。それは俺に気を遣っての言葉で、本心はどうかは分からなかった。
俺自身が、血の繋がった存在を求めていたからだ。
有坂の家族のことは、今も本当の家族だと思っている。だが、心の片隅に、血の繋がった家族がいたら、という思いがあったのだ。
身籠れる、と言われてもピンとこなかったが、諒と俺の血が混ざった存在が持てると分かったら、この上ない幸せが沸き上がってきた。
「王なんてやれる自信はないけど、諒の子が生めるのは嬉しい」
「朔夜さん……」
照れながらも本心を伝えると、幸せそうに目尻を下げた諒が唇を重ねてきた。チュッ、チュッ、と可愛らしい口付けを交わしながら、闇の中に入っていく。
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