猫耳アイドル

オトバタケ

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リンジーが結成された時の話

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 僕がアイドルにスカウトされた事務所――Cプロダクションと契約を交わしてから、就職の報告と引っ越しの準備のために地元である西都に戻った。
 僕をスカウトしてきたのは、Cプロダクションの社長だった。社長が一人で経営していて、今は僕がアイドルになってからダンスを教えてくれる予定の先生が、社員になる準備をしているところだと教えてもらった。
 僕が入っても三人しかいない事務所だけれど、事務所はオフィス街にある立派なビルの一室で、事務スペースの他にダンススタジオとレコーディング室までついていた。あの社長、一体何者なのだろう?

 アイドルになりたいだなんて微塵も考えたことはなかったけれど、音楽は好きだった。特にミュージカルを見るのが好きで、東都で絶大な人気を誇る劇団Aに所属していたルイさんのファンだ。今はアクションアクターとしても絶大な人気を誇るようになったルイさんだけど、やはりミュージカルをしている姿が一番魅力的だと思う。
 ミュージカルも見るのが専門で自分がやろうとは思わなかったけれど、歌ってみたい気持ちがあって、スクールでコーラスのサークルに入っていた。指導の先生が熱心な方で、ボイストレーニングもがっちりやっていたので、人前で歌うことにはあまり抵抗はない。
 あらゆることに自信のない僕にとって、歌うことは数少ない普通にできることなのだ。

 地元に戻り、東都で就職が決まったと報告した。
 アイドルになるとは言えなかったので、Cプロダクションという芸能関係の事務所で働くと伝えた。芸能関係で働くのは上位種が大多数なので、特に反対されることなく西都を離れることができた。

「おはようございま……す?」

 社長から指定された日時に事務所に行くと、事務スペース横に置かれた応接セットのソファーに、初めて会う人が座っていた。

(うわっ、格好いい)

 姉とほとんど身長が変わらない小柄な僕とは違い、座っていても長身でスタイルがいいのだろうなと分かるその人。気怠げな表情がミステリアスで、クールで、格好よくて。ルイさんのミュージカルを初めて見た時、いや、それ以上の衝撃を受けた。
 ルイさんは最上位種の白耳だ。だけど、目の前の彼は上位種でも最低順位の黒耳だ。それなのに、絹のような黒髪と凛とした黒耳、黒曜石みたいな瞳、全てが眩しくて、胸が高鳴ってしまう。

「おっ、揃ったな」

 黒耳の彼に見惚れて呆然と突っ立っていたら、どこからともなく現れた社長に背中をぽんっと叩かれた。その刺激で我に返る。

「リヒト、ジン、お前らは二人でユニットを組む。そうだな、リヒトとジンだから……リンジー……ユニット名はリンジーだ」

 一人でアイドルをするのだと思っていたけれど、相方がいたのか。しかも相方は黒耳の彼!?
 絶対、僕が足を引っ張っちゃうよ。どうしよう……。だけど、アイドルにならなければ地元に帰ることになってしまうし……。
 あわあわしている僕を黒耳の彼――ジンくんが怪訝そうに見上げている。これから一緒に活動していくのに、第一印象を悪くするわけにはいかない。

「えっと、リヒトと言います。これからよろしくね、ジンくん」
「……リヒト、くん?」

 自己紹介をして笑いかける。暫くポカーンと口を半開きにして僕の顔を凝視していたジンくんが、僕の名前を呼んでくれた。
 嬉しい。なんだろう、アイドルに認識してもらったファンの気分だ。

「そうそう。お前ら、今日から共同生活な。これ、部屋の鍵」

 アイドルの気分を味わうより先にアイドルのファンの気持ちを味わっていると、社長が鍵を手渡してきた。東都での住居は社長が用意してくれるとは聞いていたが、まさかユニットの相方と同居するとは思ってもいなかった。
 すでにアイドルオーラがある、こんなに格好いいジンくんと二人で暮らすなんて……。僕、アイドルとして頑張れるのだろうか……。
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