4 / 10
リンジーが結成された時の話
しおりを挟む
僕がアイドルにスカウトされた事務所――Cプロダクションと契約を交わしてから、就職の報告と引っ越しの準備のために地元である西都に戻った。
僕をスカウトしてきたのは、Cプロダクションの社長だった。社長が一人で経営していて、今は僕がアイドルになってからダンスを教えてくれる予定の先生が、社員になる準備をしているところだと教えてもらった。
僕が入っても三人しかいない事務所だけれど、事務所はオフィス街にある立派なビルの一室で、事務スペースの他にダンススタジオとレコーディング室までついていた。あの社長、一体何者なのだろう?
アイドルになりたいだなんて微塵も考えたことはなかったけれど、音楽は好きだった。特にミュージカルを見るのが好きで、東都で絶大な人気を誇る劇団Aに所属していたルイさんのファンだ。今はアクションアクターとしても絶大な人気を誇るようになったルイさんだけど、やはりミュージカルをしている姿が一番魅力的だと思う。
ミュージカルも見るのが専門で自分がやろうとは思わなかったけれど、歌ってみたい気持ちがあって、スクールでコーラスのサークルに入っていた。指導の先生が熱心な方で、ボイストレーニングもがっちりやっていたので、人前で歌うことにはあまり抵抗はない。
あらゆることに自信のない僕にとって、歌うことは数少ない普通にできることなのだ。
地元に戻り、東都で就職が決まったと報告した。
アイドルになるとは言えなかったので、Cプロダクションという芸能関係の事務所で働くと伝えた。芸能関係で働くのは上位種が大多数なので、特に反対されることなく西都を離れることができた。
「おはようございま……す?」
社長から指定された日時に事務所に行くと、事務スペース横に置かれた応接セットのソファーに、初めて会う人が座っていた。
(うわっ、格好いい)
姉とほとんど身長が変わらない小柄な僕とは違い、座っていても長身でスタイルがいいのだろうなと分かるその人。気怠げな表情がミステリアスで、クールで、格好よくて。ルイさんのミュージカルを初めて見た時、いや、それ以上の衝撃を受けた。
ルイさんは最上位種の白耳だ。だけど、目の前の彼は上位種でも最低順位の黒耳だ。それなのに、絹のような黒髪と凛とした黒耳、黒曜石みたいな瞳、全てが眩しくて、胸が高鳴ってしまう。
「おっ、揃ったな」
黒耳の彼に見惚れて呆然と突っ立っていたら、どこからともなく現れた社長に背中をぽんっと叩かれた。その刺激で我に返る。
「リヒト、ジン、お前らは二人でユニットを組む。そうだな、リヒトとジンだから……リンジー……ユニット名はリンジーだ」
一人でアイドルをするのだと思っていたけれど、相方がいたのか。しかも相方は黒耳の彼!?
絶対、僕が足を引っ張っちゃうよ。どうしよう……。だけど、アイドルにならなければ地元に帰ることになってしまうし……。
あわあわしている僕を黒耳の彼――ジンくんが怪訝そうに見上げている。これから一緒に活動していくのに、第一印象を悪くするわけにはいかない。
「えっと、リヒトと言います。これからよろしくね、ジンくん」
「……リヒト、くん?」
自己紹介をして笑いかける。暫くポカーンと口を半開きにして僕の顔を凝視していたジンくんが、僕の名前を呼んでくれた。
嬉しい。なんだろう、アイドルに認識してもらったファンの気分だ。
「そうそう。お前ら、今日から共同生活な。これ、部屋の鍵」
アイドルの気分を味わうより先にアイドルのファンの気持ちを味わっていると、社長が鍵を手渡してきた。東都での住居は社長が用意してくれるとは聞いていたが、まさかユニットの相方と同居するとは思ってもいなかった。
すでにアイドルオーラがある、こんなに格好いいジンくんと二人で暮らすなんて……。僕、アイドルとして頑張れるのだろうか……。
僕をスカウトしてきたのは、Cプロダクションの社長だった。社長が一人で経営していて、今は僕がアイドルになってからダンスを教えてくれる予定の先生が、社員になる準備をしているところだと教えてもらった。
僕が入っても三人しかいない事務所だけれど、事務所はオフィス街にある立派なビルの一室で、事務スペースの他にダンススタジオとレコーディング室までついていた。あの社長、一体何者なのだろう?
アイドルになりたいだなんて微塵も考えたことはなかったけれど、音楽は好きだった。特にミュージカルを見るのが好きで、東都で絶大な人気を誇る劇団Aに所属していたルイさんのファンだ。今はアクションアクターとしても絶大な人気を誇るようになったルイさんだけど、やはりミュージカルをしている姿が一番魅力的だと思う。
ミュージカルも見るのが専門で自分がやろうとは思わなかったけれど、歌ってみたい気持ちがあって、スクールでコーラスのサークルに入っていた。指導の先生が熱心な方で、ボイストレーニングもがっちりやっていたので、人前で歌うことにはあまり抵抗はない。
あらゆることに自信のない僕にとって、歌うことは数少ない普通にできることなのだ。
地元に戻り、東都で就職が決まったと報告した。
アイドルになるとは言えなかったので、Cプロダクションという芸能関係の事務所で働くと伝えた。芸能関係で働くのは上位種が大多数なので、特に反対されることなく西都を離れることができた。
「おはようございま……す?」
社長から指定された日時に事務所に行くと、事務スペース横に置かれた応接セットのソファーに、初めて会う人が座っていた。
(うわっ、格好いい)
姉とほとんど身長が変わらない小柄な僕とは違い、座っていても長身でスタイルがいいのだろうなと分かるその人。気怠げな表情がミステリアスで、クールで、格好よくて。ルイさんのミュージカルを初めて見た時、いや、それ以上の衝撃を受けた。
ルイさんは最上位種の白耳だ。だけど、目の前の彼は上位種でも最低順位の黒耳だ。それなのに、絹のような黒髪と凛とした黒耳、黒曜石みたいな瞳、全てが眩しくて、胸が高鳴ってしまう。
「おっ、揃ったな」
黒耳の彼に見惚れて呆然と突っ立っていたら、どこからともなく現れた社長に背中をぽんっと叩かれた。その刺激で我に返る。
「リヒト、ジン、お前らは二人でユニットを組む。そうだな、リヒトとジンだから……リンジー……ユニット名はリンジーだ」
一人でアイドルをするのだと思っていたけれど、相方がいたのか。しかも相方は黒耳の彼!?
絶対、僕が足を引っ張っちゃうよ。どうしよう……。だけど、アイドルにならなければ地元に帰ることになってしまうし……。
あわあわしている僕を黒耳の彼――ジンくんが怪訝そうに見上げている。これから一緒に活動していくのに、第一印象を悪くするわけにはいかない。
「えっと、リヒトと言います。これからよろしくね、ジンくん」
「……リヒト、くん?」
自己紹介をして笑いかける。暫くポカーンと口を半開きにして僕の顔を凝視していたジンくんが、僕の名前を呼んでくれた。
嬉しい。なんだろう、アイドルに認識してもらったファンの気分だ。
「そうそう。お前ら、今日から共同生活な。これ、部屋の鍵」
アイドルの気分を味わうより先にアイドルのファンの気持ちを味わっていると、社長が鍵を手渡してきた。東都での住居は社長が用意してくれるとは聞いていたが、まさかユニットの相方と同居するとは思ってもいなかった。
すでにアイドルオーラがある、こんなに格好いいジンくんと二人で暮らすなんて……。僕、アイドルとして頑張れるのだろうか……。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
左遷太守と不遜補佐 ―柳は青、花は赤―
佐竹梅子
BL
《『左遷太守と不遜補佐』シリーズ入門編!》
炎と氷、太陽と月、赤と青――対極の彼らは、いつしか手を携えて。
真っ直ぐ一途な青年と、冷静で諦めがちな青年が出会うボーイミーツボーイ的・アジアン風ボーイズラブ。
同人誌版
2016年10月発行「左遷太守と不遜補佐」(シリーズ一巻)
2018年12月発行「左遷太守と不遜補佐―赤髪の花婿―」(シリーズ二巻)
上記二冊分+αを2020年2月にまとめ・再編集したものです。
通算五巻目発行までシリーズ通してweb再録いたします。
改行等、同人誌版と異なります。
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
蔑まれ王子と愛され王子
あぎ
BL
蔑まれ王子と愛され王子
蔑まれ王子
顔が醜いからと城の別邸に幽閉されている。
基本的なことは1人でできる。
父と母にここ何年もあっていない
愛され王子
顔が美しく、次の国大使。
全属性を使える。光魔法も抜かりなく使える
兄として弟のために頑張らないと!と頑張っていたが弟がいなくなっていて病んだ
父と母はこの世界でいちばん大嫌い
※pixiv掲載小説※
自身の掲載小説のため、オリジナルです
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる