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太陽と向日葵3

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 窓の外には、宇宙まで手が届きそうな澄んだ空が広がっている。
 雲一つなくて、運動会で校長先生が胸を張って「本日は雲一つない運動会日和で……」と挨拶できるんだろうなぁ、と小学生の時に二、三個浮いている雲を指差してブーイングしたことを思い出したりしながら、ベッドに寝転がって雑誌を読んでいた。

「陽太ぁー!」

 コンコンコンコンコン……

 連打されるノックの数を指折り数える。
 えっと、確か前回は15回で開けたんだよな。
 このまま減らしていくと調子に乗るから、今日は前より増やして18回で開けよう。

 ガチャ

「何だよぉ、今日は前より3回も多くノックしたんだぞ? もしかして俺のこと嫌いになった?」
「……」

 泣く振りをしているそいつを無視して、リビングへ向かう。
 嫌いだったら部屋から出てくるわけないだろ。

「俺は、こんなにも陽太のこと好きなのに……。ジュテーム! I LOVE YOU! サランヘヨ!」

 ぎゅっと目を瞑って唇を突き出し、両手を広げて駆け寄ってくるそいつ。
 黙ってりゃ格好良いのに、自ら不細工な顔をしてどうすんだよ?
 本当、馬鹿だな……。

「陽太、愛してるよ」

 はぁっと深い溜め息をついていると、急にキリッと凛々しい顔をして頬に触れてきて、優しい笑顔を向けてきやがった。
 くそっ、ズルすぎなんだよ。
 やばいっ、ドキドキしてきやがった。

「あ、陽太の顔赤ぁい。照れてるの?」
「うるせぇ!」
「ちょっ、怒るなよぉ。でも、そーゆーとこも可愛いぜ!」

 馬鹿の手を解き、急いで自室へと逃げる。
 リビングからはガハハ、と嬉しそうに笑うデカい声が聞こえてくる。
 はぁ、すぐ顔に出ちまうから、色白って嫌なんだよ。
 ふと視線を下げると、金色の縦長の箱が目に入った。
 あっ、これ、あいつに飲ませなきゃ。
 箱を持って馬鹿の待つリビングへと戻る。

「何これ?」

 テーブルにことんと置かれた箱を、じーっと見つめている馬鹿。
 中身を見りゃすぐに分かるだろうから、無視してキッチンにグラスを取りに向かう。
 なんかつまみになるものはないかなと探していると、ギャーという歓喜の声が聞こえてきた。

「これ、あの酒じゃん。どうしたの?」
「ネット通販で買った」
「マジ? 滅多に手に入らない幻の酒ってのは、はったりかよぉ」

 くそー、と悔しそうにテーブルをバンバン叩く馬鹿。
 経済界の次期社長達が集まるパーティーで、出された日本酒。
 馬鹿が凄く気に入ってどこで手に入るのか聞いたみたいだけど、数年前に酒蔵を閉めてしまったので、もう手に入らないと言われたらしい。
 幻の酒が、ネットで売ってるわけないだろ。
 親の力で、コレクターにコンタクトをとって、一本だけ譲ってもらったんだよ。
 まぁ、そんなこと、口が裂けても言わないけどな。

「いただきまーす!」

 コポコポとグラスに注がれていく、清流を思わせるような透明な液体。

「うめぇ!」

 上機嫌の馬鹿は、休むことなくグラスを口に運んでいく。
 確かにこの酒、すーっと入っていって、いくらでも飲める感じだよな。
 未成年だけど、実家の会社関連のパーティーでアルコールを口にする機会が多いのだが、こんなに飲みやすい酒は初めてだ。

「あーあ、もうなくなっちゃったよ」

 コポコポと何杯目かの酒をグラスに注ぐと三分の一程で止まってしまったようで、残念そうに瓶の中を覗いている馬鹿。
 あれれ、馬鹿の持っている瓶を中心にして、周りがぐるんぐるんと回転しだしたぞ……。

「おい陽太、大丈夫か!?」

 ふらふらと後ろに倒れそうになり、あわや床に激突か!?というところを、馬鹿の手によって助けられた。

「めちゃくちゃ熱いじゃん。顔も真っ赤だし、酔っちゃった?」
「……」
「寝る? ベッドまで連れてってやるから」
「……」

 ベッド!? そんなとこに行ったら、何をされるか分かんねぇから嫌だ。
 喉元から口にかけて麻痺しているみたいで、言いたい言葉が全くもって声にならない。
 喉だけじゃなく、体全体も麻痺してるようで、馬鹿の腕の中から逃れようにも、全く力が入らない。

 ということで、ベッドに連行されてしまった。
 全く抵抗しなかったのをいいことに、「いい子だねぇ」と子供や動物を褒めるように俺の頭を撫で回してくる馬鹿。
 抵抗しなかったんじゃなくて、抵抗できなかったんだ!
 まぁ、横になって少しは楽になったので、このまま少し眠ろうか……。

「おじゃましまーす」
「!!」

 頭から離れた馬鹿の手が布団を捲り、のそのそと隣に入ってくる。
 シングルサイズのベッドだから、当然二人で入ったらぎゅうぎゅうで、互いの片面同士がべたっと密着してしまう。
 くそっ、なんか動悸が早くなってきやがった。顔も、あり得ないくらいに熱い。
 こっ、これは酒のせいなんだっ!

「完熟苺のマシュマロ~」

 まっすぐに天井見つめていると、ゴロンとこちらに向いた馬鹿の唇が俺の頬をモグモグと挟んできた。

「ん……」

 なんか、凄く伝わってくるというか、いつもはこれくらいなら我慢できる声が、ポロリポロリと零れてしまう。
 酒なんて飲まなきゃよかった……。

「今日の陽太は素直だね。やっぱ酒のお陰かな?」

 ニヤニヤといやらしい顔で笑いながら、頬を食べ続ける馬鹿。
 こっちが動けない時に、好き勝手やるとは卑怯だぞ!
 なんとか抗議できる手段の目を使って睨みつけると、ねっとりとした感触が頬から離れていった。

「このままやっちゃったら野獣みたいだもんな。俺って紳士だから、陽太の酔いが冷めるまで待ってるよ」

 俺っち格好良いぜ!、とガッツポーズをしてベッドを降りていく馬鹿。
 何が格好良いだ! 馬鹿の相手なんかしたくねぇから朝まで寝続けてやる!


 三時間後――

「陽太、可愛いよ……」
「うるせぇ……あっ……やめ……」
「やめちゃっていいのぉ? こんなになっちゃってるのに?」
「くっ……あぁぁ……」

 なんだかんだ言って、馬鹿の思うツボに嵌まってしまった。
 でも、ホントは凄く幸せだとか、馬鹿のこと愛してるだとか、本心は絶対に言わないからな。
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