王道学園に通っています。

オトバタケ

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日向ぼっこ2

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 もうすぐ日向が委員会から戻る頃だから、そろそろお茶の準備をするかな。
 今日はそっこうで下校して、ハート型のクッキーを焼いたんだ。
 日向と付き合い始めてから、俺の女子力急上昇! 馬鹿度も急上昇! あ、日向馬鹿度ね。
 湯を沸かして、コーヒーメーカーをセットして、カップを取って。
 うへへ、顔がニヤニヤする。
 この前、日向が行きたいって言った美術館に行った時に、ショップに売っていた黒猫が描かれたカップ。なんか日向に似てるなーって眺めてたら、無言で買って渡してくれたんだ。
 絵なんて全く分かんねーのに付き合ってやった俺への、お礼のつもりなのかな? 俺が物欲しそうに見てたから、憐れんで買ってくれただけか?

 ガシャン

「嘘……」

 さっきまで俺の手の中にあったカップが床にある。しかも……

「割れた!?」

 一つだったはずのカップが四つに増えている。増えているんじゃない、分裂している。
 日向に貰った時、一生大事にするって誓ったカップなのに、一ヶ月も大事に出来なかったじゃん。
 凹んでる暇はねぇ、日向が戻ってくる前に証拠隠滅しねーと。

「接着剤……接着剤……」

 急いで瞬間接着剤でくっつけて、なんとかカップは元通りに戻った。
 こう見えて、俺は器用なんだよ。俺様を舐めんなよ!
 ほっと息を吐き、額に滲んだ汗を拭おうとすると、右手に違和感が……。

「……」

 項垂れる俺の右手の小指に、瞬間接着剤のチューブが付いてしまっている。

 ガチャ

 玄関が開いた。日向様の御成~り~!
 バクバクいう心臓を抑え、平静を装う。

「何かあったのか?」

 日向様、一発で俺の異変に気付く。
 俺のことちゃんと見ててくれてるんだ、って喜んでる場合じゃねぇ。

「いや、なんもねーよ。ハハハ、今日はいい天気ですね」
「は? 曇りだぞ?」
「今、お茶淹れるから、座って待ってて」

 怪訝そうな顔をしてる日向から目を逸らし、キッチンに向かう。

「クッキー焼いてみちゃった。てへ」

 ウィンクして左手でクッキーを置く俺に突き刺さる、日向の冷めた視線。

「ハート型とか気持ち悪かった?」

 ハハハって無理矢理笑う俺の右腕を掴んだ日向が、小指に張り付いた接着剤のチューブを見て溜め息をつく。
 立ち上がった日向に、キッチンまで連れていかれる。
 シンクに置かれたカップを見つめ、固まる日向。

「形あるものは、いつかは壊れる運命だから。終わりがあるから美しいのだよ」
「壊したお前が言うな。それにしても器用だな。綺麗に直ってるじゃないか」

 溜め息をつきながらも、掲げたカップを見て感心している。

「で、こっちをどうするかだな」

 俺の手を握って接着剤のチューブを外そうと試みる日向だが、取れる気配はない。

「本当にべったり接着してる。恐るべし瞬間接着剤……」

 失態を隠すため、更に失態を重ねた自分に落ち込む。

「湯に浸ければ取れるはずだ」

 冷たい口調とは裏腹に、ゆっくり優しく少しずつ皮がめくれないように外していってくれて、十五分後に指は元に戻った。

「ありがとうございました」

 照れ臭いのを隠すため、馬鹿みたいに満開の笑顔で礼を言う。

「あ……」

 俺の笑顔に少し頬を緩めた日向の顔が、困惑した表情に変わる。

「どうした?」
「くっついた……」

 取り外してる最中に流れだした接着剤のせいで、日向の左手と俺の右手がべったりくっついてしまったのだ。

「ミイラ取りがミイラになったってやつか……」

 ばつが悪そうにそうに日向が俺を見る。

「接着剤とくっつくのは嫌だけど、日向とならくっついてても平気だよ。むしろ、ずーっとくっついていたい!」
「本当に馬鹿だな、お前。ま、湯の中に入れとけばそのうち取れるか」

 ニカァと笑うと、呆れ顔だけどどこか安心したように日向も笑う。
 洗面器に湯を注いできてテーブルの上に置き、二人並んで座って繋がった手を入れる。
 暫くして手は離れたけれど、もう冷めた湯の中でいつまでも手を離さない俺に、日向は何も言わずに手を繋いでいてくれた。
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