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純白少年
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午後の授業が終わり、日直だった俺は日誌を職員室に届けにいって教室に戻ると、瞳にいっぱい涙を溜めた健太が近づいてきた。
「どうした?」
優しく頭を撫でてやると、愛くるしい瞳から大きな雫をぽろぽろ落として、小さく口を開いた。
「潤が……」
紡がれた名を聞き、一気に頭に血が昇ってくる。
「潤に何されたんだ?」
健太は俯いたまま首を振るだけでなにも言わない。首の動きに合わせて、雫が左右に飛ぶ。
健太の手を掴んで、健太をこんな風にした原因の潤を探す。
「おい潤、健太に何したんだよ」
「は?」
睨みつける俺の顔を、ぽけーと見つめる潤。
「とぼけんなよ」
健太と繋がっていない方の手を出して、潤の胸倉を掴む。
「やめてよー」
健太が叫び、繋がれている手を引いて俺と潤を離す。
その様子を、呆然たる面もちで見ていた潤。暫くぽかんと口を開けていたが、あっ、と言うとごそごそと鞄の中を漁りだした。
「もしかして、これのこと?」
差し出されたのは雑誌で、薄暗い森の写真の上におどろおどろしい真っ赤な文字で『心霊写真特集』と書いてある。
えーっと、と潤はその雑誌をペラペラめくり、真ん中辺のページを開いて見せてきた。
雑誌を手に取りそのページを見ると、健太がイヤァーと目を背けた。
その写真は見覚えのある場所だった。横に書いてあるコメントを読むと、やっぱり。
『これは、とある山中にある高校の体育館で写したものです。手を挙げている右隅の男性の左肩に、長髪の女の顔がはっきり写っています』
指摘された所を見ると、確かに何かいる。
「これ、健太に見せたのか?」
「うん……」
健太の余りの怯えように、申し訳なさそうに頷く潤まで泣きそうな顔をしはじめた。
「もう健太に、そういうの見せんなよ」
「分かった……」
雑誌を潤に返し、もう大丈夫だからな、と怯えている健太の手を引いて寮に戻る。
健太とは、お隣さんの幼馴染みという関係で物心がつく前から一緒に遊んでいた。
昔から小さくて泣き虫で、だけど誰よりも繊細で優しかった健太。
俺のお袋が、健ちゃんは天使みたいね、とよく言っているのだが、まさにその通りだと思えるくらい穢れのない純白少年だ。
だが、健太が純白少年なのには悲しい理由がある。
俺達が小二の冬、健太のお袋さんが急逝した。
雪の降る寒い日の夕方、健太の好きなグラタンの材料を買いに行った帰りに、通り魔に刺されたのだ。
その日から、健太は心の成長を止めてしまった。
体は成長していったが、それでも高二には見えない少年のような作りだ。
心配した健太の親父さんが病院に連れて行ったらしいが、知能は年相応、いや最高峰の大学に余裕で入れる位の高水準であることから、個人差の範囲だから問題ないと診断されたようだ。
俺は、悲しい過去から心の成長を止めてしまった健太を護り続けてきた。
友情だとか同情だとかの気持ちからではない。
純白少年の健太に、いや純白少年になる以前の恋心なんて知らないガキの頃から、健太に惹かれて護りたいと思っていたからだ。
「健太、なに飲みたい?」
「ココア……」
寮の部屋に入り、健太をソファーに座らせてミニキッチンに向かう。
甘くて温かいミルクココアを作ってやって健太に渡すと、ゆっくりそれを口に運んでいった。
「美味しい」
やっと、可愛い笑顔を見せてくれた健太。
ココアを飲み終えて落ち着いた健太は、俺の右腕にしがみついてくる。
「怖かったよー」
また瞳が潤み始める。
「大丈夫。忘れるまで、俺がずっと一緒にいてやるから」
「うん」
安心したように笑った健太の右目から、雫が一粒落ちた。
押し倒したい、という衝動に駆られたけれど、健太を怖がらせることはしたくない。
「大丈夫だからな」
健太の顎を掴んで上を向かせると、ゆっくり瞼が閉じていった。
そっと顔を近づけていき、優しく唇を重ねる。
唇を離すと、健太は真っ赤になって俯いた。
去年の夏から、俺と健太の関係は変わった。幼馴染みの友達、から、恋人、という関係に。
恋人になって一年以上が経ち、やっとこうやって自然に唇を重ねられる様になった。
食堂に夕飯を食べに行き、部屋に戻ってから順番に風呂を済ませる。
「おいで」
「……うん」
ベッドに横になり布団をめくってやると、ゆっくり隣に横になる健太。
手を繋いで眠るだけだけど、それだけでも幸せだ。
「ん? どうした?」
頭まで布団を被っていた健太が、ひょこっと顔を出した。
「大好き」
小さな体が、ぎゅうっと抱きついてくる。
「俺も大好きだよ」
その体を優しく抱きしめ返す。
今夜は、初めて抱き合ったまま眠った。
まだまだ艶かしい関係には程遠い俺達だけど、焦らず健太のスピードに合わせて進んで行こうと思う。
「どうした?」
優しく頭を撫でてやると、愛くるしい瞳から大きな雫をぽろぽろ落として、小さく口を開いた。
「潤が……」
紡がれた名を聞き、一気に頭に血が昇ってくる。
「潤に何されたんだ?」
健太は俯いたまま首を振るだけでなにも言わない。首の動きに合わせて、雫が左右に飛ぶ。
健太の手を掴んで、健太をこんな風にした原因の潤を探す。
「おい潤、健太に何したんだよ」
「は?」
睨みつける俺の顔を、ぽけーと見つめる潤。
「とぼけんなよ」
健太と繋がっていない方の手を出して、潤の胸倉を掴む。
「やめてよー」
健太が叫び、繋がれている手を引いて俺と潤を離す。
その様子を、呆然たる面もちで見ていた潤。暫くぽかんと口を開けていたが、あっ、と言うとごそごそと鞄の中を漁りだした。
「もしかして、これのこと?」
差し出されたのは雑誌で、薄暗い森の写真の上におどろおどろしい真っ赤な文字で『心霊写真特集』と書いてある。
えーっと、と潤はその雑誌をペラペラめくり、真ん中辺のページを開いて見せてきた。
雑誌を手に取りそのページを見ると、健太がイヤァーと目を背けた。
その写真は見覚えのある場所だった。横に書いてあるコメントを読むと、やっぱり。
『これは、とある山中にある高校の体育館で写したものです。手を挙げている右隅の男性の左肩に、長髪の女の顔がはっきり写っています』
指摘された所を見ると、確かに何かいる。
「これ、健太に見せたのか?」
「うん……」
健太の余りの怯えように、申し訳なさそうに頷く潤まで泣きそうな顔をしはじめた。
「もう健太に、そういうの見せんなよ」
「分かった……」
雑誌を潤に返し、もう大丈夫だからな、と怯えている健太の手を引いて寮に戻る。
健太とは、お隣さんの幼馴染みという関係で物心がつく前から一緒に遊んでいた。
昔から小さくて泣き虫で、だけど誰よりも繊細で優しかった健太。
俺のお袋が、健ちゃんは天使みたいね、とよく言っているのだが、まさにその通りだと思えるくらい穢れのない純白少年だ。
だが、健太が純白少年なのには悲しい理由がある。
俺達が小二の冬、健太のお袋さんが急逝した。
雪の降る寒い日の夕方、健太の好きなグラタンの材料を買いに行った帰りに、通り魔に刺されたのだ。
その日から、健太は心の成長を止めてしまった。
体は成長していったが、それでも高二には見えない少年のような作りだ。
心配した健太の親父さんが病院に連れて行ったらしいが、知能は年相応、いや最高峰の大学に余裕で入れる位の高水準であることから、個人差の範囲だから問題ないと診断されたようだ。
俺は、悲しい過去から心の成長を止めてしまった健太を護り続けてきた。
友情だとか同情だとかの気持ちからではない。
純白少年の健太に、いや純白少年になる以前の恋心なんて知らないガキの頃から、健太に惹かれて護りたいと思っていたからだ。
「健太、なに飲みたい?」
「ココア……」
寮の部屋に入り、健太をソファーに座らせてミニキッチンに向かう。
甘くて温かいミルクココアを作ってやって健太に渡すと、ゆっくりそれを口に運んでいった。
「美味しい」
やっと、可愛い笑顔を見せてくれた健太。
ココアを飲み終えて落ち着いた健太は、俺の右腕にしがみついてくる。
「怖かったよー」
また瞳が潤み始める。
「大丈夫。忘れるまで、俺がずっと一緒にいてやるから」
「うん」
安心したように笑った健太の右目から、雫が一粒落ちた。
押し倒したい、という衝動に駆られたけれど、健太を怖がらせることはしたくない。
「大丈夫だからな」
健太の顎を掴んで上を向かせると、ゆっくり瞼が閉じていった。
そっと顔を近づけていき、優しく唇を重ねる。
唇を離すと、健太は真っ赤になって俯いた。
去年の夏から、俺と健太の関係は変わった。幼馴染みの友達、から、恋人、という関係に。
恋人になって一年以上が経ち、やっとこうやって自然に唇を重ねられる様になった。
食堂に夕飯を食べに行き、部屋に戻ってから順番に風呂を済ませる。
「おいで」
「……うん」
ベッドに横になり布団をめくってやると、ゆっくり隣に横になる健太。
手を繋いで眠るだけだけど、それだけでも幸せだ。
「ん? どうした?」
頭まで布団を被っていた健太が、ひょこっと顔を出した。
「大好き」
小さな体が、ぎゅうっと抱きついてくる。
「俺も大好きだよ」
その体を優しく抱きしめ返す。
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