王道学園に通っています。

オトバタケ

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翼を広げて3

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 そうこうしている間に食堂に到着した。劇場のやつみたいな大きな扉を開けると、広い空間が広がっていた。天井にシャンデリアがあって、高級ホテルのレストランみたいだ。

「すげーな」
「最初は色々びっくりすると思うよ」

 フフッと意味深に笑った岬に付いていき、奥の方の壁際の席に座る。

「注文はタッチパネルなんだ」

 岬が、慣れた手つきで操作をしていく。

「俺は日替りランチにするけど、向井は?」

 タッチパネルを覗くと、今日の日替りランチは生姜焼きだと書いてあるのが見えた。

「俺も日替りランチで」
「オッケー。佐々木は?」
「……うどん」
「昨日もうどんだったじゃん? 今日は日替りランチね」

 岬に勝手に注文されてしまって大きな溜め息をついた佐々木だけど、言い返すことはしなかった。岬の奴、佐々木の扱いに慣れてるな。なんか佐々木の母ちゃんみたいだ。

「何?」

 小さく吹き出してしまった俺を見て、岬が首を傾げた。

「お前ら、仲いいんだな」
「ハハハ、ありがとう」

 岬は嬉しそうに笑い、佐々木はプイッと横を向いてしまった。漆黒の髪の奥に見える佐々木の頬が、少し赤く染まっている。怒っちゃったのか?

「佐々木、怒ってる?」
「怒ってないから大丈夫だよ」

 岬に小声で聞くと、耳打ちでそう返してくれた。保護者の岬が言うんだから、大丈夫なんだろう。

「おまたせしました」

 モデルみたいなウェイターが、テーブルに飯を運んできてくれた。

「いただきます」

 命を捧げてくれた食材達に感謝してパクり。旨い! 味も高級レストラン並みなんだな。
 岬はニコニコと、佐々木は無表情だけど、しっかりと食べている。

「佐々木は、うどん好きなの?」
「……あぁ」

 おっ、初めて会話が成り立ったぞ。

「何うどんが好き?」
「……天ぷら」
「俺も天ぷらうどん好き! 今、セルフのうどん屋って多いだろ? あそこ行くと好物の海老天三匹とって、その上に無料の天カスを山盛りに載せちまうから、食べてる途中で天カスが汁吸って汁が無くなるんだよ」

 アレはアレで旨いんだけどな。ドロドロになった天カスを絡めたうどんは最強だよ。

「……ぷっ」

 俺の熱弁を無表情で聞いていた佐々木が、口を押さえて俯き肩を震わせている。佐々木が笑ったぞ!

「「「キャー!」」」

 突然、食堂内に悲鳴が響き渡った。何か事件でもあったのか?
 キョロキョロと周りを見渡す俺の肩を、なんの問題もないというようにポンポンと叩いてきた岬が、苦笑いをする。佐々木の顔からは笑顔が消え、耳を押さえて不機嫌そうな顔をしている。

「生徒会が来たんだよ」

 岬が視線を送った先には、長身のイケメンが四人いた。
 先頭の鋭い眼光の奴に続いて食堂に入ってくる修司。修司の後ろには、いかにもチャラ男って見た目の奴と、優しそうな雰囲気の奴が続く。

「会長様、今日も素敵です」
「副会長様がこちらをご覧になった!」
「会計様、今晩のお相手は僕でお願いします」
「書記様、今日も癒してください」

 歓声に混じって、そんな声が聞こえる。

「ハニーちゃん達、今日も可愛いね」

 チャラ男が笑顔を振り撒いて答えているだけで他の三人はスルーしているのに、歓声は止まない。

「何、このアイドルのコンサートみたいのは?」

 歓声が少し収まってきたところで岬に尋ねる。

「生徒会の面々に抱かれたい奴等のアピールかな」
「抱かれるって、ここ男子校だろ?」
「男子校だからこそ、そういう奴が多いんだよ」

 幼稚舎から男子だけなら、そうなるのも頷けるか。

「気持ち悪い?」
「別に。俺は女の子にしか恋したことないけど、性別とか関係なく、その人を好きになったんなら変なことじゃないと思うな。中身が一番大事だろ?」

 何故か、不安の色を浮かべた瞳で俺を見つめて聞いてきた岬に本心を告げる。中身が一番大事、って母ちゃんの口癖なんだよ。
 俺の言葉を聞き、岬だけじゃなく、佐々木までもが目を見開いて俺を見ている。変な奴って思われちゃったのか? 友達になれたかなって思ったのに、お断りされちゃう感じ?

「俺の考え方って、おかしい?」
「いや、凄く素敵な考え方だと思うよ。いい友達が出来たね、佐々木」
「……あぁ」

 満面の笑みを浮かべる岬と、はにかみながら返事をしてくれた佐々木。俺も、いい友達が出来て嬉しいよ。

「転校生とやらはお前か?」

 突然、頭上から声が降ってきた。声のした方に目を向けると、生徒会の奴等の先頭を歩いていた鋭い眼光の奴が立っていた。そいつの後ろには他の三人が立っていて、チラッと目をやると、表向きの顔をした修司の目が一瞬すまないと言っているように揺れた。

「俺様は生徒会会長の五十嵐太一(いがらしたいち)だ。平凡な庶民が、何故この学園に来たんだ?」

 この人、会長なんだ。たぶん、金持ちの跡取りなんだろうな。人の上に立つには舐められちゃいかんと、虚勢を張っちゃってるのかな? ほんのちょっとだけど、目が泳いでるよ。怖いものより、自分が怖くなって打ち勝とうってするタイプなんだろうな。
 多くの目がある中でプライドが傷付くようなことされたら、暫く立ち直れなくなっちゃう小心者だろうから、どう答えたら一番いいんだろうか?

「今回、ご縁がありまして、こちらにお世話になることになりました向井翼です。よろしくお願いします」

 どうしたらいいのか分かんねぇから、普通に挨拶した。ペコッとお辞儀して、笑顔を向けて掌を差し出す。

「ふんっ」

 不快そうに鼻を鳴らした会長は、後ろの三人を引き連れて食堂の奥にある螺旋階段を昇って二階に上がって行った。

「何アイツ、平凡な癖に会長様に話しかけられて」
「あんな奴と握手したら、会長様の手が腐ってしまうじゃない」

 俺に浴びせられる罵声と冷たい視線。
 俺の挨拶、変だったか? 会長のプライド、傷付いちゃったかな?

「気にすることないよ」
「いや、俺は平気だからいいよ」

 気遣ってくれる岬達に笑顔を向けて大丈夫なところをアピールした後、修司にメッセージを送る。

『今朝は、ありがとう。
ところで会長って、虚勢を張って誤魔化してるけど、実は小心者だろ?
俺の受け答え、アレで大丈夫だった?
会長のプライド傷付いてない?』

「向井くん、ちょっとこちらに来ていただいても宜しいでしょうか?」

 メッセージを送信して数分後、修司が俺達の席にやって来た。

「分かりました。ちょっと行ってくるから、先に教室に戻ってていいよ」

 席を立つ俺を心配そうに見上げる二人に、トイレにでも行くような感じで軽く手を振る。

「よく会長の本性を見破ったな」

 螺旋階段を昇っていると、修司に話しかけられた。

「だって、分かり易すぎじゃねぇ?」
「長く一緒にいる奴でも分かってねぇ奴ばっかなのに、初対面の翼に本性を見破られて、会長焦ってるぞ」

 面白い玩具を見つけたように、楽しそうに言う修司。

「で、俺はどうすればいいの?」
「会長の話し相手になってやってくれ」

 階段を昇りきり、表向きの顔になった修司と生徒会の面々が座る席に向かう。会長は一番奥のテーブルに一人で座っていて、一番手前のテーブルに書記と会計が座っていた。修司は二人のいるテーブルにつく。
 一番奥まで歩いていって会長の向かいに座ると、さっきまでの鋭い眼光はなく、駄々っ子みたいな表情をした顔が俺を見つめてきた。

「俺って、弱虫が必死で強がっているように見えるか?」
「まぁ、ちょっと……」

 俺の返事を聞いた会長が、口を尖らせて拗ねる。

「上に立つ者は、自信に満ち溢れていて強引な方がいいんじゃないのか?」
「そうっすね。でも俺なら、相手の気持ちが考えられて、相手の痛みを分かってあげられる人の方に付いていきたいって思いますけど」
「相手の気持ちばかり考えていたら、一つにまとまらないだろ」
「愛がある強引ならいいけど、愛のない強引は嫌だってことっすかね」
「愛か……」

 そう呟いた会長は、テーブルに目を落として何かを考えている。
 なんか会長の前にはケーキの乗った皿が三枚あるんだけど、これが昼飯なの?

「それ、会長の昼飯なんっすか?」
「そうだが?」
「ケーキ好きなんですか?」
「三食共ケーキにしたいところだが、残念ながら朝と晩は普通の食事をとらされている」

 心底悔しそうに言う顔がめちゃくちゃガキっぽくて、頬が緩む。

「何がおかしい?」
「いや、本当にケーキが好きなんだなって思って」
「ケーキだけではない。甘いものは全て俺のモノだ」
「なんですか、その可愛いジャイアンは」

 ゲラゲラ笑ってしまった俺を見た会長が、恥ずかしそうにケーキを口に運んでいく。ケーキを口に入れた瞬間の幸せそうな会長の顔を見たら、俺もなんだか幸せな気分になってきた。幸せな顔って、本当に不思議だよな。

「俺は、どうしたらいいと思う?」

 ケーキを食べ終えた会長が、真剣な眼差しで聞いてくる。

「色んな人の意見を聞いて、自分が納得出来る意見を取り入れて、自分なりにアレンジして、たった一人だけの自分を作っていけばいいんだと思いますよ」
「また……お前の意見も聞かせてもらってもいいか?」

 会長が掌を差し出してくる。

「もちろん。会長の意見も俺に聞かせてくださいね」

 約束を交わすように掌を握り合う。

「そろそろ授業が始まりますよ」

 俺達の席に来た修司が、腕時計を指差す。

「じゃあ、俺は失礼します」

 生徒会の面々に頭を下げて、足早に教室へと戻った。
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