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翼を広げて2
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ホストみたいな担任に連れられて教室に向かう。この学園って、結構偏差値が高いって聞いたから、こんな見た目でもちゃんとした教師なんだろうな。
「先生って、何の教科の担当なんですか?」
「あー? 日本史」
「マジっすか? 俺、日本史大好きなんですよ」
「そーか。社会科資料室に貴重な歴史書がたくさんあるから、見たかったら見せてやるぞ」
「是非お願いします!」
どんな本があるんだろう? 龍馬関係のモノってあったりするのかな? 俺、坂本龍馬が好きなんだよね。
「先生って、いつの時代が好きなんですか?」
「そーだな、強いて言うなら幕末だな」
「マジっすか? 俺も幕末大好き! 龍馬に憧れてるんっすよ」
先生が、どーゆー授業をするのか楽しみだな。
ウキウキしている俺の頭を、先生がワサワサと撫でてきた。
「な、なんっすか?」
「お前は可愛いな」
プッと吹き出す先生。完全に子供扱いされてるよ。実際、子供なんで仕方ないんだけどさ。
先生の足は、2年A組と書かれたプレートのかかる扉の前で止まる。今日から俺が学ぶ教室だ。ガラガラと扉を開けて中に入っていく先生の後に続く。
「ホームルーム始めっぞ。まず、転校生が入ったから紹介する。ほら、自己紹介しろ」
先生に背中をポンと押されて教壇の横に立つと、クラス中の視線が俺に集まった。転校生って言葉にザワザワしていた教室が、一気に静まり返る。
「向井翼と申します。よろしくお願いいたします」
ペコッとお辞儀をして顔をあげると、もうクラスメイトの視線は俺から外れていた。
「向井の席は、一番後ろの空いてる席な」
窓際から二列めの一番後ろの席を指差した先生は、名簿を開いて出席を取り始めた。
「なーんだ、つまんないの」
席に向かっている途中、チワワみたいにデカい目をした華奢な奴に呟かれた。
普通の挨拶じゃ、つまんなかったのか? やっぱり、マサ兄のくれた一発ギャグセットを身に着けてくるべきだったか。
「俺、岬省吾(みさきしょうご)。よろしくな」
席に着くと、前の席の奴が爽やかな笑顔を浮かべて挨拶してくれた。柔らかそうな栗色の髪で手足が長くてスタイルのいい、爽やかなイケメンだ。
「俺は向井翼。って、さっき自己紹介したばっかだったな」
ハハハって笑う俺を見て、不思議そうな顔をする岬。
「向井って普通の奴なんだ。凄いかしこまった話し方する奴なのかと思ったよ」
あぁ、自己紹介の言葉遣いのことね。
「やっぱ、最初の挨拶はしっかりしとかなきゃ駄目じゃねぇ? でも、つまんねぇってアイツに言われちまったけど」
さっきのチワワ君を指差すと、岬は苦笑いをした。
「向井もどっかの社長の息子なの?」
「いや、ごく一般的な家庭。転校する前の学校は、普通の公立高校だったしな。岬はお坊っちゃま?」
「俺も一般的な家庭だよ。スポーツ推薦で高校から入ったからね」
そういやマサ兄が、金持ちのお坊っちゃま達は幼稚舎からエスカレーター式で上がってくるって言ってたな。
「向井は、なんでここに転校して来たの?」
「まぁ、色々あって……。それより、岬って何のスポーツやってんの?」
「ハイジャン」
誤魔化した俺の心中を察してくれたのか、岬はそれ以上転校の理由を聞いて来なかった。爽やかイケメンで気遣いも出来るなんて、絶対モテるよな。
女の子から友達以上に見られたことのない俺。年頃だもん、女の子に興味あるし、モテてみたいなーとか思っちゃうわけ。
瞬く間に午前中の授業が終了した。レベルが高かったけど、先生達の説明は分かりやすかったな。
「向井、昼飯どうする?」
教科書を仕舞っていると、岬が振り返って聞いてくる。
「学食があるって聞いたから、そこで食おうと思ってた」
すげー旨いとマサ兄が言ってたからさ。
「じゃあ、一緒に行く?」
「あぁ」
席を立った岬に付いていくと、扉の方ではなく窓際に向かっていった。
「佐々木、昼飯行くよ」
岬が、窓際の一番前の机に突っ伏している漆黒の髪の奴の肩を叩く。ゆっくり顔を上げてこちらを見たそいつは、黒猫みたいでミステリアスなイケメンだった。
修司といい、先生といい、岬といい、この学園に来て話をした人はみんなイケメンじゃないか。
「……お前、誰?」
ミステリアスイケメンの烏の濡れ羽色の瞳が俺を見る。
「転校生の向井翼だよ。朝、紹介があっただろ? こいつは俺と同室の佐々木隼(ささきしゅん)。佐々木も高校から入ってきた庶民だから」
岬が説明してくれている間、佐々木は我関せずって感じで欠伸をしながら猫みたいに伸びをしていた。マイペースな奴なのかな?
「佐々木もスポーツ推薦なの?」
「……」
食堂に向かいながら尋ねる俺の声が聞こえてないのか、窓の外の、もう葉桜になってしまった並木を眺めている佐々木。
「佐々木は違うよ。こう見えて学年首席だからね」
佐々木を保護者みたいな目で見ながら、そう教えてくれたのは岬だ。
イケメンで頭もいいなんて……。俺と同じ位の平均的な身長ってとこが、俺的には救われたって感じだけど。
「なぁ、佐々木。また勉強教えてくれな」
「……やだ」
やっと俺の方を向いてくれた佐々木は、無表情で一言だけ呟き、また窓の外に視線を向けてしまった。
「俺、嫌われちゃった?」
「佐々木はいつもこんな感じだから。ツンデレだからね」
心配になって小声で岬に聞くと、安心するような爽やか笑顔で答えてくれた。
ツンデレってなんだ? ツンドラみたいなもんか? 冷たい……クールな奴ってこと?
「先生って、何の教科の担当なんですか?」
「あー? 日本史」
「マジっすか? 俺、日本史大好きなんですよ」
「そーか。社会科資料室に貴重な歴史書がたくさんあるから、見たかったら見せてやるぞ」
「是非お願いします!」
どんな本があるんだろう? 龍馬関係のモノってあったりするのかな? 俺、坂本龍馬が好きなんだよね。
「先生って、いつの時代が好きなんですか?」
「そーだな、強いて言うなら幕末だな」
「マジっすか? 俺も幕末大好き! 龍馬に憧れてるんっすよ」
先生が、どーゆー授業をするのか楽しみだな。
ウキウキしている俺の頭を、先生がワサワサと撫でてきた。
「な、なんっすか?」
「お前は可愛いな」
プッと吹き出す先生。完全に子供扱いされてるよ。実際、子供なんで仕方ないんだけどさ。
先生の足は、2年A組と書かれたプレートのかかる扉の前で止まる。今日から俺が学ぶ教室だ。ガラガラと扉を開けて中に入っていく先生の後に続く。
「ホームルーム始めっぞ。まず、転校生が入ったから紹介する。ほら、自己紹介しろ」
先生に背中をポンと押されて教壇の横に立つと、クラス中の視線が俺に集まった。転校生って言葉にザワザワしていた教室が、一気に静まり返る。
「向井翼と申します。よろしくお願いいたします」
ペコッとお辞儀をして顔をあげると、もうクラスメイトの視線は俺から外れていた。
「向井の席は、一番後ろの空いてる席な」
窓際から二列めの一番後ろの席を指差した先生は、名簿を開いて出席を取り始めた。
「なーんだ、つまんないの」
席に向かっている途中、チワワみたいにデカい目をした華奢な奴に呟かれた。
普通の挨拶じゃ、つまんなかったのか? やっぱり、マサ兄のくれた一発ギャグセットを身に着けてくるべきだったか。
「俺、岬省吾(みさきしょうご)。よろしくな」
席に着くと、前の席の奴が爽やかな笑顔を浮かべて挨拶してくれた。柔らかそうな栗色の髪で手足が長くてスタイルのいい、爽やかなイケメンだ。
「俺は向井翼。って、さっき自己紹介したばっかだったな」
ハハハって笑う俺を見て、不思議そうな顔をする岬。
「向井って普通の奴なんだ。凄いかしこまった話し方する奴なのかと思ったよ」
あぁ、自己紹介の言葉遣いのことね。
「やっぱ、最初の挨拶はしっかりしとかなきゃ駄目じゃねぇ? でも、つまんねぇってアイツに言われちまったけど」
さっきのチワワ君を指差すと、岬は苦笑いをした。
「向井もどっかの社長の息子なの?」
「いや、ごく一般的な家庭。転校する前の学校は、普通の公立高校だったしな。岬はお坊っちゃま?」
「俺も一般的な家庭だよ。スポーツ推薦で高校から入ったからね」
そういやマサ兄が、金持ちのお坊っちゃま達は幼稚舎からエスカレーター式で上がってくるって言ってたな。
「向井は、なんでここに転校して来たの?」
「まぁ、色々あって……。それより、岬って何のスポーツやってんの?」
「ハイジャン」
誤魔化した俺の心中を察してくれたのか、岬はそれ以上転校の理由を聞いて来なかった。爽やかイケメンで気遣いも出来るなんて、絶対モテるよな。
女の子から友達以上に見られたことのない俺。年頃だもん、女の子に興味あるし、モテてみたいなーとか思っちゃうわけ。
瞬く間に午前中の授業が終了した。レベルが高かったけど、先生達の説明は分かりやすかったな。
「向井、昼飯どうする?」
教科書を仕舞っていると、岬が振り返って聞いてくる。
「学食があるって聞いたから、そこで食おうと思ってた」
すげー旨いとマサ兄が言ってたからさ。
「じゃあ、一緒に行く?」
「あぁ」
席を立った岬に付いていくと、扉の方ではなく窓際に向かっていった。
「佐々木、昼飯行くよ」
岬が、窓際の一番前の机に突っ伏している漆黒の髪の奴の肩を叩く。ゆっくり顔を上げてこちらを見たそいつは、黒猫みたいでミステリアスなイケメンだった。
修司といい、先生といい、岬といい、この学園に来て話をした人はみんなイケメンじゃないか。
「……お前、誰?」
ミステリアスイケメンの烏の濡れ羽色の瞳が俺を見る。
「転校生の向井翼だよ。朝、紹介があっただろ? こいつは俺と同室の佐々木隼(ささきしゅん)。佐々木も高校から入ってきた庶民だから」
岬が説明してくれている間、佐々木は我関せずって感じで欠伸をしながら猫みたいに伸びをしていた。マイペースな奴なのかな?
「佐々木もスポーツ推薦なの?」
「……」
食堂に向かいながら尋ねる俺の声が聞こえてないのか、窓の外の、もう葉桜になってしまった並木を眺めている佐々木。
「佐々木は違うよ。こう見えて学年首席だからね」
佐々木を保護者みたいな目で見ながら、そう教えてくれたのは岬だ。
イケメンで頭もいいなんて……。俺と同じ位の平均的な身長ってとこが、俺的には救われたって感じだけど。
「なぁ、佐々木。また勉強教えてくれな」
「……やだ」
やっと俺の方を向いてくれた佐々木は、無表情で一言だけ呟き、また窓の外に視線を向けてしまった。
「俺、嫌われちゃった?」
「佐々木はいつもこんな感じだから。ツンデレだからね」
心配になって小声で岬に聞くと、安心するような爽やか笑顔で答えてくれた。
ツンデレってなんだ? ツンドラみたいなもんか? 冷たい……クールな奴ってこと?
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