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1章

共通の敵

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午前8時半。SBIのエージェント、ジャクソンは同僚のカミングスと、ボスのベケットの命で、アンドリューパーカーの友人である、スティーブン・アンダーソンから話を聞くべく、男子寮を訪れていた。

男子寮とは思えぬほどの、清潔さ。寮やこの敷地には専属の清掃係がいて毎日掃除をしている。

子ども達一人一人に自室が与えられていて、風呂もトイレもついていて、キッチンだってある。寮というよりは賃貸アパートに見える。創設者の、親をなくした子ども達への同情らしい。それに、掃除係や俺たち捜査官も、雇用が生まれて一石二鳥というわけだ。

「アンダーソン。アンダーソン…。この部屋だ。」

ノックをすると、はいと中から声がした。

「スティーブン・アンダーソンさん?」
「えぇ、そうです。」
「SBIです。アンドリュー・パーカーの件で。入っても?」
「あぁ、もちろん。どうぞ。」

アンダーソンは扉を開けた。寝起きなのか、まだ全身グレーのスウェット姿で、赤毛の頭には寝癖が付いていた。

「朝早くからすみません。」

ジャクソンは一言断りを入れ、アンダーソンの部屋に入った。部屋は雑然としていて、昨日着た服なのだろうか、ベッドに脱ぎっぱなしになっていた。パーカーが隠れてはいなさそうだ。ふと部屋の奥に目をやると、女性が窓際のスツールに腰かけていた。

アンダーソンは、恋人なんです、と気まずそうに紹介した。女性の名前はミシェル・ローガン。とんでもなく良い女になるに違いない。ツヤツヤの髪に、透き通った肌。なるほど。甘い夜を過ごした翌日の朝。とんだ邪魔をしてしまったようだ。服が脱ぎっぱなしなのも納得がいく。

アンダーソンにカウチに座るよう案内され、彼らはスツールをカウチの側へ持ってきて腰掛けた。同僚のカミングス捜査官が切り出した。

「アンダーソンさん。アンドリュー・パーカーと仲が良かったそうで。」
アンダーソンは困った顔をした。
「一年前まではね。仲違いをしてからは顔も見てないんです。カンニング事件を起こしたでしょ?そんな卑怯な奴だったのかと思って、縁を切りました。僕は彼を信じてたのに。次は盗みだなんて。」
話しぶりからしてアンダーソンは心底、パーカーに失望しているようだ。あんな奴と仲が良いと思われるのすらも恥だと言いたげだった。

「ローガンさんは、パーカーとは?」
「スティーブの前で言うのは気が引けるけど、付き合ってました。縁を切ったのは、スティーブと同じ理由です。」
ローガンも肩をすくめた。とすれば、彼らは共通の敵が出来て一気に仲良くなった2人なのだろう。ある瞬間にたがが外れて嵐のように愛し合う。この2人がパーカーに協力するなど、うさぎに角が生えるくらいありえないことだと考えられる。

「パーカーは今どこにいると思いますか?昔から隠れ蓑にしてた場所とか。よく行ってた場所とか。」
アンダーソンは口を真一文字にしてしばらく考え込むと、静かに口を開いた。
「それなら昔はよく喫茶店にいました。この寮の前の広い道を東にずっと行ったところにある、古くて小さい喫茶店。彼は静かな場所が好きだ。」
続けてローガンが言った。
「それにピッキングが得意なんです。鍵の閉まった場所も探してみるといいかも。」

ジャクソンは同僚のカミングスと、2人に礼を言って部屋を出た。思ったよりも収穫があった。パーカーはあることをきっかけに悪の道に走るようになり、友人恋人に見放され孤立状態。一人になれるところで隠れている可能性が高そうだ。
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