青く奏でる

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第1話

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風が優雅に音楽室を巡り、微かなざわめきを運んでいく。その中で黒くて艶やかな髪は、風になびきながら彼女の肩に触れることもなく、軽やかに揺れていた。彼女はピアノの前に座り、真剣なまなざしで鍵盤に触れる指先を舞わせていた。

音楽室は彼女の熱狂的な演奏に包まれ、その美しい旋律が空気中に広がっていった。繊細なタッチと情熱的な表現が調和し、鍵盤からは魂を揺さぶる音色が奏でられた。

俺はその音色に引き寄せられるように足を止め、音楽室の扉の前に立ち尽くしていた。彼は葵の熱情に心を打たれ、その瞬間に彼女の演奏に心奪われていくのを感じた。

彼女の姿勢は真剣そのものでありながら、その表情には音楽への愛情と喜びが溢れていた。彼女の指先は鍵盤を優しく撫でながら、音楽の奥深さを探求しているかのようだった。

彼女の音楽はまるで鳥のさえずりのように美しく、聴く者の心を穏やかに包み込む魔法のようなものだった。その旋律がの耳に届くたび、俺の心は奇妙な鼓動とともに高鳴っていった。

俺は黙って彼女の演奏に聞き入り、その情熱と才能に圧倒されていた。彼女の音楽は彼の心に深く響き、その瞬間から俺の中に何か新しい感情が芽生えていくのを感じた。

やがて曲が終わり、彼女は瞬きをする間もなく俺の存在に気づいたようだ。椅子から立ち上がり軽く礼をする。俺はそれに応えるように自然と拍手が出た。

「貴方、ピアノに興味があるの?演奏?それとも貴方も他の人たちみたいに私に興味があるのかしら。」

俺は緊張と興奮が入り混じった目線を向ける。

彼女、藤原葵と言えば、この学校の中でも有名中の有名だった。彼女は腰まで届くほどの美しい濡鴉のような髪を持ち、その髪には鮮やかな真っ赤なインナーカラーが映えていた。彼女の容姿だけでなく、その内面の輝きもまた魅力的で、学業でもスポーツでも才能を発揮し、周囲からの称賛を浴びていた。

彼女は文武両道という言葉がピッタリの存在であり、学業の成績はいつもトップクラスだった。彼女の努力と集中力はまさに非の打ち所もないものであり、授業中も常に真剣なまなざしで先生の話に耳を傾けていた。

更にはピアノコンクールで入賞を何度もするようなピアニストでもある。

しかしそんな彼女はただ優秀なだけではなかった。彼女は周囲の人々に対しても優しさと思いやりを持ち、いつも笑顔で接してくれる。彼女の優しさは学校中に広まり、多くの人々から慕われていた。

そのため、彼女には多くの友人やファンがいた。彼女の人気は高く、学校中の人々が彼女に憧れる存在として尊敬の念を抱いていた。それにもかかわらず、彼女は謙虚さを忘れず、常に自分自身を高めようと努力していた。

彼女の魅力と才能に触れた者は、彼女の周りに集まり、彼女の存在によって彩られた学校生活を送っていた。

そんな彼女目的の人間はそれこそ星の数ほどいるはずだ。その中に俺も含まれる。

「まぁ、君の噂は全校に轟いてるから…さ、君に興味が無いと言うと嘘になるかな。」

「葵」

凛と響く声でそう言われた。え?と聞き返す。

「だから私の名前は葵、藤原葵。名前で呼んで?苗字はあまり好きじゃないの。君は?」

「あ、あぁ、俺の名前は黒崎雄介。きみ…失礼、葵と同じ学年同じクラスだよ。俺も雄介でいい。」

突然の自己紹介に驚きながらも、声を出した。

「雄介君…ね。あ!いつも教室で本を読んでる静かな…君喋れたのね。」

あまりにも失礼すぎないか?その物言いに少しムッとしながら、込み上がる別の気持ちに蓋をしていた。

「雄介君さ、たまに学校に楽器ケースを持ってきていたことない?」

確かに俺は週一回、楽器のレッスンが学校終わりにあるので、楽器を学校に持ってきている。まさかそんなとこまで見られているとは…

「ああ、確かに持ってきてるよ、それがなにかあるのか?」

しばらく葵は考え込む仕草を見せた。二~三秒たったその時、彼女が突然近づいてきて、大胆な仕草で顔を覗き込むと、俺はその瞳に吸い込まれるような感覚を覚えた。

彼女の瞳は深く、情熱と謎めいた光を宿していた。その瞳を見つめながら、俺は彼女が何を言いたいのかを探ろうとした。

そして、彼女は突然手を握り、俺の身体をもう一つの存在に絡め取るように引き寄せた。その一瞬、俺は彼女の温もりと力強さを感じながら、驚きと胸の高鳴りが交錯した。

「あの大きさだと、ヴァイオリンだと思うの。」

彼女の言葉が、俺の耳に響き渡った。

「私、文化祭で今年発表したいと思っているの。」

少しづつ脳が痺れていく感覚を感じる、葵の声は俺の脳を支配していく。いや、分かってる。葵の声じゃなくてこれは俺の気持ちだ。

「貴方の手を触ってわかったわ、すごく指先が硬くなってる。練習をしてる証拠よね。」

そう言いながら葵のしなやかで少しひんやりとした指が手に絡まり、その小さなすべすべとした感触が人差し指の腹や薬指の腹をくすぐる。

「私とデュエットをしない?」

それはあまりにも魅力的で、素晴らしい提案だったと共に、俺の心に判子を押した。俺はこの子が好きだ、間違いなく。葵以外の音が聞こえずらい。正確には声と、自分の心臓がいつもよりも激しくなる音。

「んぅっ?!」

気づいた時には、俺は彼女にキスをしていた。






私立桜ヶ丘高校は、門をくぐるとそこに広がる美しい景色が特徴的だった。校舎はレンガ造りで、歴史を感じさせる佇まいがあり、優雅な雰囲気が漂っていた。

学校の敷地は広く、緑豊かな庭園や美しい桜の木が点在していた。特に春になると、桜の花が満開に咲き誇り、校内は一面ピンク色に染まる光景はまさに絵画のようだった。

校舎内に足を踏み入れると、清潔感のある廊下が広がり、生徒たちの活気溢れる声が響いていた。教室はモダンなデザインで、快適な学習環境が整えられていた。

また、私立桜ヶ丘高校は文化活動に力を入れており、美術部や音楽部、演劇部などのクラブ活動が盛んだった。音楽室に足を踏み入れると、響き渡る楽器の音色が耳に心地よく響き、才能ある生徒たちが情熱を注いでいた。

さらに、学校の図書室は広く充実しており、多様なジャンルの本が並んでいた。生徒たちはそこで静かに本を読んだり、勉強に励んだりしていた。

私立桜ヶ丘高校では、教育の質の高さに加え、生徒一人ひとりが個性を伸ばし、自己表現を大切にする風土が根付いていた。友情や恋愛、成長といった青春の物語がこの学校で紡がれていくのだろう。

桜ヶ丘高校はまるで夢の中のような美しい学舎であり、学びの場としてだけでなく、思い出の舞台としても生徒たちにとって特別な存在となっていた。

そんな高校を選んだのは、家を出たかったからだ。程よく遠いから寮にはいる必要があった。文化活動に力を込めてるのも捨てがたい魅力ではある。

教室に入るが、特に挨拶という挨拶もなく自分の席に着く。対して友達が多いという訳ではなく、ただ静かに本を読んでる、少しガタイのいい寡黙な少年。可もなく不可もなく、全てにおいて普通。たまに楽器を持ってくる、その程度の認識だった。

小説をカバンから取りだし、栞を挟んだところから読み進める。が、いくら読んでも読み始めた行から次に進めない。それほど、見てわかるほどの動揺は昨日の放課後が原因だとわかっていた。




「んぅっ?!」

という驚きが漏れたが、彼女はなにか拒絶したりするようなことも無く、力を抜いて身を任せてきた。それどころか逆に舌をねじ込んできた。

葵の顔は、キスを交わした瞬間に一層その魅力が際立って見えた。

彼女の瞳は大きくて澄んでおり、まるで深い海のようだった。その瞳には驚きや戸惑いが宿りつつも、内に秘めた情熱が輝いているのが感じられた。

唇は柔らかく、ふっくらとした形状をしていた。キスを交わした瞬間、その唇の触れ心地に魅了された。彼女の唇は甘く、触れるたびに熱を帯びていくような感覚がした。その一つ一つの触れ合いが、俺に愛おしさと興奮を与えた。

彼女の顔には可愛らしい特徴が散りばめられていた。綺麗な曲線を描く眉、ふっくらとした頬、くっきりとした目元。そして特に、その唇は魅力的で、誘惑的な微笑みを浮かべるたびに、彼を引き寄せる魔力を放っていた。

葵の唇は、彼女の内に秘めた情熱や愛情を表現する一つの窓だった。その柔らかさと温もりは、彼にとって触れるたびに新たな感動をもたらしてくれた。

湿った吐息が漏れる。キスとはあまり長く続けられないものらしい。潤んだ瞳と、少し震えた声で葵はこちらを見ていた。

「貴方、意外と積極的なのね…嫌いじゃないわ。」

「わ、悪い…」

な、なんてことをしてしまったんだ、これは犯罪、刑務所?高校生だから少年院?まずい。そんな思いが頭を巡っていると葵は突然笑い始めた。

「ふふっ…そんな青くならなくても大丈夫。ただ、さっきの返事として受け取らせていただくわ。私の初めてあげたんだから、ちゃんと働いてよね。」

とんっと俺を軽く突き放して笑いながら鞄を取って帰ってしまった。ファーストキスが報酬なんだろうか。

「…ファーストキスだったのかよ…」

夕暮れに言葉が消えていった。
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