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28 髪結い教室

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 今日は髪結い教室の日です。女将さんの予想通り参加者は10名と、昨日宿に来た人たちより少ないです。この人数なら僕も教えられそうだ。

「髪結い教室の先生をするリョウです。それと助手のマオです。分からない所は僕に聞いて下さいね。」

『はい。』

「では、僕の手の動きが見えやすい位置に移動して下さい。」

 涼の言葉に今まで壁際に立っていた参加者が、涼の周りに集まってくる。

「こんなに沢山の人に見られると、緊張するわね。」

「女将さんは椅子に座っているだけで、他は僕たちがやりますよ。」

「おてちゅだいするの。」

 髪のモデルは女将さんにお願いした。マオがモデルだと角を見られて、魔人だとバレるからだ。詳しい事情を説明しなくても、モデルを引き受けてくれた女将さんに感謝だ。

「最初に櫛で髪のもつれを取ります。この時、髪がパサついたり、絡まったりする人は水で髪を湿らすと良いです。マオ。」

「はーい。」

 マオに水魔法で女将さんの髪を軽く湿せてもらう。この魔法は僕でも使えるけど、マオがお手伝いすると言うのでお願いした。

「今の水魔法よね。」
「すごいわね。櫛の通りが全然違うわ。」
「私も水魔法使えるけど、こんな使い方したことないわ。」
「私なんて10年くらい魔法使ったことないよ。」

 参加者に褒められてマオは凄い嬉しそうだ。それに参加者の反応も良い。女将さんに昨日の夜に聞いたが、平民の殆んどは魔力が少なく、小指くらいの大きさの火しか出せない人も少なくないらしい。
 なので、本当に少量の水しか出せない人でも使えて、髪を縛るのに便利なこの魔法は女性にとって嬉しいはずだ。

「では髪を縛りますが、今回は髪紐ではなく髪ゴムとヘアピンを使います。どうぞ、手に取って下さい。」

「すごい、これ伸びるわよ。」
「面白い。私にも貸して。」
「輪っかに髪を通すのかしら。でもこれは何に使うのかな。」
「アタシに聞かないでよ。」

 昨日は女将さんの髪を髪紐だけで縛ったが、綺麗に纏めるのに時間が掛かるし難しかった。なので今回は短時間で簡単に出来るように、ガネットに頼み髪ゴムとヘアピンを購入した。
 ヘアピンは無くてもお団子は出来るけど、参加者は初心者だし、髪が崩れるのを防ぐために髪ゴムと一緒に用意した。

「最初に髪をひとつに縛ります。毛元を捻って髪の結び目に巻き付けます。最後にヘアピンで髪を固定したら完成です。」

「きれーい。」
「思ったより簡単そうだね。私にも出来そうだよ。」
「これで髪を固定するのか。便利ね。」

 女将さんの髪を見て、参加者が感嘆する。

「最初から自分の髪でやるのは難しいので、2人1組になって、練習しましょう。」

「みずだしゅよ。」

 参加者が各自でペアを作り、髪を縛っていく。ペアの髪は上手に縛れる人が多く、お互いに縛った髪を誉めあっている。

「後で友達に教えるからか、器用な子が多いね。」

 参加者の中には、後で必ず教えると言う条件で、数人の友達で参加費を出しあった子もいる。友達から髪結い教室に参加する代表に選ばれるだけあり、初めてにしては皆かなり上手い。

「私にも水魔法教えて。」
「私も知りたい。」

「いいよ。」

 また、水魔法を使える人たちはマオに教えてもらい、髪を湿らす練習をしている。魔法のコントロールが苦手な人が髪ではなく、自分の服を濡らして慌てる場面があったが、女将さんがタオルを用意してくれて事なきを得た。

「人の髪を縛るのに慣れてきたら、ひとりでも縛ってみましょう。」

 自分の髪を縛るのは難しく苦戦する人もいたけど、教室が終わる頃には全員ができるようになっていた。

「髪ゴムとヘアピンは皆さんに渡すので、家でも練習して下さい。あと、友達や家族の分も欲しい人は、300Gで購入して下さい。」

「安いわね。」
「幾つ買おうかしら。」
「今月はお小遣いピンチだけど、3つ買うわ。」
「参加費を出しあった友達5人もいるよ。全員分買うと参加費より高くなっちゃう。どうしよう。」
「後で請求すればいいでしょう。髪を結うのに必要だと言えば、全員払うわよ。」



「ありがとうございます。」

 この髪ゴムとヘアピンを売るのは女将さんのアイディアだ。
 参加者が髪を結う道具がないから、友達に教えられない。と言う、事態を防ぐためだ。それに髪を結う道具を売って、町の人がお団子を縛れるようになれば、再び女性たちが宿に『髪を結ってくれ』と、突撃してくる事もない。一石二鳥のアイディアだ。




「参加費と髪ゴムとヘアピンの売り上げを合計すると、28000Gか。予想より売れたな。」

「そんなに稼いだのか。りょうくんは商人を目指した方が良いかもね。」

 髪結い教室が終わると、涼は本日の売り上げの確認をした。昨日の薬草採集のお金には及ばないが、1日の賃金としたら稼いだ方である。

「お世辞でも嬉しいです。これ少ないですが、受け取って下さい。食堂を借りたのとお手伝いをして貰ったお礼です。」

 涼は女将さんに5000Gを手渡す。

「そんな受け取れないよ。」

「じゃあ、僕たちの夕食を少し豪華にして下さい。マオも美味しいご飯食べたいよね。」

「うん。」

 最初は遠慮をしていた女将さんだが、最後には納得してお金を受け取ってくれた。女将さんは律儀な所があるから、こうでも言わないと絶対に拒否するからな。

「夕食楽しみにしてますね。」

「任せときな。」

 こうして髪結い教室は特に問題も起きずに、大成功したのでした。


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