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14章 ゴブリン掃討戦
結末
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タウロスの存在による騎士団への被害は甚大だ。
およそ五つものチームが壊滅し、死者は二十人を超える。
これだけの死者を出した討伐依頼は年単位でみても非常に珍しい。
それこそ……以前タウロスが暴れまわった時以来ではないだろうか。
死に物狂いで森から逃げ帰って来た戦士たちは、深夜だというのにすぐさま、騎士団長へと事のあらましを伝えた。
それを聞いた炎神の剣騎士団長フレアは、各騎士団長を緊急招集し、即刻討伐隊を選定する。
一人は、水神の盾騎士団より団長アクア。
一人は、地神の鎧騎士団より団長ガイア。
そして最後に、雷神の槌騎士団より団長ヴォルド。
以上の三名が、タウロス討伐隊として出立することに決まった。
夜が明ける頃、彼らはグラゴの森へとむけて出発することになる。
カインドらはその報告を受け、漸く極度の疲労と緊張から解放されたようで、その後は泥のように眠りについた。
翌日の早朝。
ヴォルドを始めとする三人の騎士団長は、タウロスが待つグラゴの森へ向けて出発した。
見送る者はいない。
ルインはあれからいまだ目覚めず、カインドらも眠り続けている。
それ以外の団員も、旅に出る騎士団長を見送ることはしなかった。
「何とも寂しい旅立ちじゃねぇか」
ガイアの冗談交じりな声が飛ぶ。
「あら、そんなこと言って……見送りに来たら怒り出す癖に」
アクアも微笑みながらそう言った。
騎士団員の仕事は、団長を見送る事では無い。
町人の安全を守ることだ。
見送る暇があるのなら、一つでも多く依頼をこなすのが正しい騎士団員の姿である。
「心配はいらないわ。直ぐに奴の首をもって来る」
ヴォルドは、心配そうに見つめるカインドらにそういったことを思い出していた。
団員らは知っている。その言葉に嘘偽りが無いことを。
そして騎士団長らもそれを体現していく。
三人とも翌日には、さも当たり前のように皆の前に元気な姿を現した。
王宮に程近い場所にある建物。
豪華な装飾や大きさから、貴族の屋敷に近いそれは、炎神の剣騎士団に属する戦士が集う拠点だ。
(ホント……いい趣味してるわ……)
一般の家庭よりは豪華と断言できる雷神の槌騎士団の拠点でも、ここと比べたら雲泥の差と言えた。
私の頭の中には、一昨日の夜からの出来事がずっとこびりついている。
消息を絶ったチームを探しに出た三つのチーム。
夜遅くに帰って来た彼らの口から出た魔物の名は、騎士団長である私ですら耳を疑う物だった。
タウロスとは、あの竜種に近い位置に存在する魔物の名だ。
その力は恐ろしく強大で、以前騎士団が退治した時は三桁に近い被害が出たという。
これが、たった一体相手に起きたことだというのだから恐ろしい。
当時の私は、まだ騎士団に身を置いていなかったから実物を見たことは無いけど、その数字を見ただけで異常であると理解できた。
昨日の早朝から始まった旅は非常に順調だった。
森への道は問題ない。
表層から件の領域までも問題ない。
話に聞いたゴブリンの大群も現れず、何とも物静かな森だった。
だがそれも、夕暮れ時になると話が変わる。
私たちの目の前にタウロスが姿を現したのだ。
……左右の手に、同族の首をぶら下げながら……
私はこの瞬間、恐怖の余り体を震わせた。
同族を殺した事にではない。その姿が余りに残酷だったからでもない。
一体で数千の戦士と同程度の力を持つタウロスは、一体だけではなかったのだ。
なぜ味方を殺したのかは分からなかったが、奴らは群れで行動していたのだ。
タウロスが持っていた首は七つ。話に聞いた被害者と同じ数だ。
奴はその頭を放り投げると獣の口を開いた。
「ソレヲモッテカエレ。ココカラソチラハオマエタチ、ココカラコチラハオレタチノモノダ。フヨウイニチカヅケバ……」
酷く聞き取りにくい声だったが、確かにそういった。
タウロスがちらりと投げた生首を見る。
その言葉に疑問を呈する隙も無く、タウロスは森の奥へと駆けて行った。
「……これが森で起きた出来事です」
ヴォルドがフレアに向けて報告を終える。
魔物が人の言葉を話すなど世迷い事と笑われるだろう。
更に気性の荒いタウロスが、自ら身を引いたという話は余りに信憑性がない。
だがそれは、あくまでヴォルドが手ぶらで帰ってきたらの話だ。
フレアの眼前にある机の上には、牛や馬、象といった蹄を持つ動物の頭が七つ置いてあった。
それらは明らかに野生生物の物とは異なり、魔物の首であることは明白。
これこそが、ヴォルドの話に出て来たタウロスの首だ。
ヴォルドの報告から、フレアが状況を推察する。
「殺された者の数と同じ……ということは、これで手を打ってくれということか?」
「恐らくは……」
深刻な面持ちでヴォルドは同意するが、ガイアが一人異を唱えた。
「どうしてそんなことをする必要がある?タウロスが八体もいりゃあ、俺達なんか蹂躙できるだろうによ」
「穏便に済ましたいということなのだろうな……」
もしそれが事実ならば、最初から襲う必要はなかったはずだ。
フレアの腑に落ちない言葉に、一同は頭を抱えた。
そもそも現状で人間が取れる手段はない。
同族の首を七つも差し出してはいるが、これで全てと考えるのは少々楽観すぎるだろう。
(少なくとも……この倍は群れていると考えるべきだ)
フレアの推測が正しいと仮定し、実際にそれだけのタウロスに襲われたとなれば、いくら強大な騎士団を抱えた大国と言えども、勝利することは難しい。
いや……ガイアの言う通り、蹂躙されるのがおちだ。
町の安全を守るのが騎士団の役目であるならば、彼らが今取れる行動はおのずと限られる。
「……兎も角だ。今後グラゴの森は立ち入り禁止とする。特にスフィロニア魔法学校の生徒は近づけさせるな。彼らは大事な客人だからな」
歯に何か挟まったような、何とも歯切れの悪い結果で会議は終幕となった。
この日より、安全だったグラゴの森は危険区域に指定され、人が立ち寄ることが極端に少なくなっていった。
およそ五つものチームが壊滅し、死者は二十人を超える。
これだけの死者を出した討伐依頼は年単位でみても非常に珍しい。
それこそ……以前タウロスが暴れまわった時以来ではないだろうか。
死に物狂いで森から逃げ帰って来た戦士たちは、深夜だというのにすぐさま、騎士団長へと事のあらましを伝えた。
それを聞いた炎神の剣騎士団長フレアは、各騎士団長を緊急招集し、即刻討伐隊を選定する。
一人は、水神の盾騎士団より団長アクア。
一人は、地神の鎧騎士団より団長ガイア。
そして最後に、雷神の槌騎士団より団長ヴォルド。
以上の三名が、タウロス討伐隊として出立することに決まった。
夜が明ける頃、彼らはグラゴの森へとむけて出発することになる。
カインドらはその報告を受け、漸く極度の疲労と緊張から解放されたようで、その後は泥のように眠りについた。
翌日の早朝。
ヴォルドを始めとする三人の騎士団長は、タウロスが待つグラゴの森へ向けて出発した。
見送る者はいない。
ルインはあれからいまだ目覚めず、カインドらも眠り続けている。
それ以外の団員も、旅に出る騎士団長を見送ることはしなかった。
「何とも寂しい旅立ちじゃねぇか」
ガイアの冗談交じりな声が飛ぶ。
「あら、そんなこと言って……見送りに来たら怒り出す癖に」
アクアも微笑みながらそう言った。
騎士団員の仕事は、団長を見送る事では無い。
町人の安全を守ることだ。
見送る暇があるのなら、一つでも多く依頼をこなすのが正しい騎士団員の姿である。
「心配はいらないわ。直ぐに奴の首をもって来る」
ヴォルドは、心配そうに見つめるカインドらにそういったことを思い出していた。
団員らは知っている。その言葉に嘘偽りが無いことを。
そして騎士団長らもそれを体現していく。
三人とも翌日には、さも当たり前のように皆の前に元気な姿を現した。
王宮に程近い場所にある建物。
豪華な装飾や大きさから、貴族の屋敷に近いそれは、炎神の剣騎士団に属する戦士が集う拠点だ。
(ホント……いい趣味してるわ……)
一般の家庭よりは豪華と断言できる雷神の槌騎士団の拠点でも、ここと比べたら雲泥の差と言えた。
私の頭の中には、一昨日の夜からの出来事がずっとこびりついている。
消息を絶ったチームを探しに出た三つのチーム。
夜遅くに帰って来た彼らの口から出た魔物の名は、騎士団長である私ですら耳を疑う物だった。
タウロスとは、あの竜種に近い位置に存在する魔物の名だ。
その力は恐ろしく強大で、以前騎士団が退治した時は三桁に近い被害が出たという。
これが、たった一体相手に起きたことだというのだから恐ろしい。
当時の私は、まだ騎士団に身を置いていなかったから実物を見たことは無いけど、その数字を見ただけで異常であると理解できた。
昨日の早朝から始まった旅は非常に順調だった。
森への道は問題ない。
表層から件の領域までも問題ない。
話に聞いたゴブリンの大群も現れず、何とも物静かな森だった。
だがそれも、夕暮れ時になると話が変わる。
私たちの目の前にタウロスが姿を現したのだ。
……左右の手に、同族の首をぶら下げながら……
私はこの瞬間、恐怖の余り体を震わせた。
同族を殺した事にではない。その姿が余りに残酷だったからでもない。
一体で数千の戦士と同程度の力を持つタウロスは、一体だけではなかったのだ。
なぜ味方を殺したのかは分からなかったが、奴らは群れで行動していたのだ。
タウロスが持っていた首は七つ。話に聞いた被害者と同じ数だ。
奴はその頭を放り投げると獣の口を開いた。
「ソレヲモッテカエレ。ココカラソチラハオマエタチ、ココカラコチラハオレタチノモノダ。フヨウイニチカヅケバ……」
酷く聞き取りにくい声だったが、確かにそういった。
タウロスがちらりと投げた生首を見る。
その言葉に疑問を呈する隙も無く、タウロスは森の奥へと駆けて行った。
「……これが森で起きた出来事です」
ヴォルドがフレアに向けて報告を終える。
魔物が人の言葉を話すなど世迷い事と笑われるだろう。
更に気性の荒いタウロスが、自ら身を引いたという話は余りに信憑性がない。
だがそれは、あくまでヴォルドが手ぶらで帰ってきたらの話だ。
フレアの眼前にある机の上には、牛や馬、象といった蹄を持つ動物の頭が七つ置いてあった。
それらは明らかに野生生物の物とは異なり、魔物の首であることは明白。
これこそが、ヴォルドの話に出て来たタウロスの首だ。
ヴォルドの報告から、フレアが状況を推察する。
「殺された者の数と同じ……ということは、これで手を打ってくれということか?」
「恐らくは……」
深刻な面持ちでヴォルドは同意するが、ガイアが一人異を唱えた。
「どうしてそんなことをする必要がある?タウロスが八体もいりゃあ、俺達なんか蹂躙できるだろうによ」
「穏便に済ましたいということなのだろうな……」
もしそれが事実ならば、最初から襲う必要はなかったはずだ。
フレアの腑に落ちない言葉に、一同は頭を抱えた。
そもそも現状で人間が取れる手段はない。
同族の首を七つも差し出してはいるが、これで全てと考えるのは少々楽観すぎるだろう。
(少なくとも……この倍は群れていると考えるべきだ)
フレアの推測が正しいと仮定し、実際にそれだけのタウロスに襲われたとなれば、いくら強大な騎士団を抱えた大国と言えども、勝利することは難しい。
いや……ガイアの言う通り、蹂躙されるのがおちだ。
町の安全を守るのが騎士団の役目であるならば、彼らが今取れる行動はおのずと限られる。
「……兎も角だ。今後グラゴの森は立ち入り禁止とする。特にスフィロニア魔法学校の生徒は近づけさせるな。彼らは大事な客人だからな」
歯に何か挟まったような、何とも歯切れの悪い結果で会議は終幕となった。
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