救世の魔法使い

菅原

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14章 ゴブリン掃討戦

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 ゴブリンの大群を退けた一同は、一つ手前にある野営地にて、劣化した装備類の整備を始める。
ここで活躍したのはルイン、ロイソーが扱う錬金術だ。
ロイソーもルインと同様に錬成陣を持ち歩き、チームの為にその力を振るっていた。
「次はこの剣を頼む。運悪く骨を噛んで欠けちまった」
差し出された獲物は、刃渡りの中ほど辺りで大きくかけている、鉄でできた片手剣だ。
「はい、少々拝借します」
ルインは差し出された剣を受け取り、錬成陣の上へと乗せる。

 錬金術を扱う上で錬成陣は欠かせないものだが、もう一つだけ、なくてはならない物がある。
それは変質させる対象だ。
この場でいえば『刃がかけた鉄剣』がそれにあたる。
また、錬金術の常として、何もない処から何かを生み出すことは出来ない。
その為欠けた個所を補おうとする場合は、個別に同質の物を用意する必要があった。
やろうと思えば破損した物だけでも補うことは可能だが、それを行った場合、出来上がったものは本来の物よりも劣化し、切れ味や耐久性が落ちてしまうことになる。
 ルインは腰につけた荷袋から、小さな鉄の塊を取り出して、錬成陣の上にある剣の傍に置いた。
それから錬成陣を起動し、剣の欠けた個所を修復していく。
「便利なもんだな。普通だったら持ち帰って鍛冶師に頼むところだ」
「旅から戻ったらそうすることをお勧めしますよ。簡易錬成陣じゃ応急処置程度のことしか出来ませんので」
本来の錬金術であれば打ち直すと同程度の完成度を保てるのだが、劣化した錬成陣ではそうはいかない。
あくまでこの旅、次の戦闘に限りの応急処置であることを伝える。
 固定化を終えた剣をつかみ取り、ルインは団員に手渡した。
注意喚起の声を何度も重ね、それに頷きながら騎士団員は、受け取った剣を鞘にしまう。

 
 辺りは朱に染まりつつあった。
ゴブリンとの戦闘は思った以上に時間がかかったようで、もう少しすれば辺りは暗闇に包まれる。
これまでの森であればそうなっても然程危険性は無かった。
精々野生生物が過敏になる程度であって、暗いことを除けば行動に支障をきたすものでは無い。
だが先の戦いを経験した後では、それも不安に思ってしまう。
「こりゃあ今日はここまでだな。もう少し離れたかったが……仕方あるまい」
カインドの呟きに皆頷き、それぞれ野営の準備を始める。
 荷物から保存食と飲み水を取り出し、集めた薪で火を焚く。
この火がゴブリンを引き寄せるとも思えたが……これも仕方がない。
夜目が効く種族もいるにはいるが、大多数は明かりが無ければ戦うことすら敵わないのだから。
錬金術に錬成陣が欠かせないように、知恵ある生命にとって火は欠かせない物なのだ。

 食事や寝床など、もろもろ用意する数は多いが、人手もその分多い。
しかも皆旅慣れた騎士団員だ。
野営の準備は程なく終わり、早々に夕食を取る時間となった。
 この間もロイソーとルインは、せっせと錬金術で装備の修復を熟していたのだが、次第に辺りが暗くなり、作業に支障をきたす水準となってくる。
ゆらゆらと揺れる不安定なたき火の光では、細かな錬成陣を弄る作業も捗らない。
夕食が出来る頃にはその速度もかなり落ち、残す武具は明日に回そうと決まった。
「おい、お前たちも飯を食べてしまえ。食べられるときに食べないと後が怖いぞ」
スープの入った木彫りの器を両手にもって、風神の槍騎士団のチームリーダーが声をかけてくる。
二人はその器を受け取り、作業も半ばにスープを啜った。


 夕食を終える頃、少し夜風がでてくる。
日の光で温まった風とは違い少し冷えたその風は、日中のうだるような熱気で温まった体を冷やしていく。
肌寒さは感じず、むしろルインには何とも心地く感じた。
 しかしチームのリーダー三名を含む、五感が優れた者達数名は、その風に異様な『匂い』を感じる。
「おい……」
「ああ、何か来るな」
ゴブリンの匂いではない。
いや、ゴブリンの匂いは含まれているが、それを上塗りするような濃い獣の匂いがする。
残念ながら匂いで強さまでは判別できないが、それでもその匂いはどんどんこちらへ近づいてきているように感じた。
「全員!戦闘準備よ!」
地神の鎧騎士団のチームリーダーが叫ぶ。
三人のリーダーは武器を抜き放ち、森の奥を鋭く睨みつけた。

 少しして、強い風が吹いた。
土埃が舞い上がりルインは思わず目を瞑る。
肌を撫でる風は一際冷たく、背筋にぞくりと悪寒が走った。
風が止んだ事を確認し、見開いた彼の眼には恐ろしい光景が映る。
 カインドのすぐ横にいたエルフ族の男。
先程、ルインにスープを持ってきてくれた風神の鎧騎士団のチームリーダーだ。
その男の……首から上が無くなっていたのだ。
「……え……?」
誰かが間の抜けた声を発する。
力を無くした身体が地面に倒れ落ちる音を聞いて、カインドともう一人のリーダーが武器を構え周囲を見渡した。

 今彼らがいる野営地は、木を切り倒して作られた円形の広場だった。
中心にたき火を起こすための穴が掘られていて、一同はそれを囲む形で屯している。
肉の塊が地面を叩く鈍い音を聞いた彼らが、辺りを見渡し見つけたものは三つ。
一つは首を無くした死体。その首からは止めどなく血があふれ出ている。
一つは森の奥から野営地を横断している蹄の後。とても大きく、馬が付けるものとは異なる足跡。
そして最後に……野営地の表層側に佇む巨大な人影。
 それは異様な形をしていた。
下半身は体毛に包まれ、二足なれどもその足は人の物ではなく、巨大な馬のような蹄を持つ。
上半身は人間とは思えない程隆々した筋骨。人ならざる者でなければありえない。
その頭は当然人の物では無く……黒く変色した牛のような頭が付いていた。
身体は人間の倍はあり、右手には血が滴る生首を掴んでいる。
 カインドはその存在を見て、一つの名前を思い出し叫んだ。
「総員退避!逃げろ!!『タウロス』だあ!!」
恐怖と緊張に固まった団員らは、弾かれるように動き出す。
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