救世の魔法使い

菅原

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12章 新たな学校生活

枷の理由

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 リュンネの授業が一段落し、垣根を作る側へと合流する。
中を覗けば、一人の生徒とハイフォンが、円の中心で剣を片手に立っていた。
 ハイフォンは剣を構えながら説明を始める。
「例えば二人で行動している時、こんな感じに周囲を魔物に囲まれたとしようか。この時、仲間と背中合わせで立つことで、各々の死角を補うことが出来るな」
円の中心に立つ二人は互いに背中をくっつけ剣を構える。
それから素振りをしては器用に回って見せた。
突然とは思えない程の阿吽の呼吸は、日頃剣術の研鑽に明け暮れた成果なのだろう。

 何回か回って見せると、素振りを止めて説明を続ける。
「さて、十体も倒したか?この戦い方で問題なければいいのだが、それだけ被害が出れば相手も黙ってはおるまい。そら、前方から三匹いっぺんに襲い掛かって来たぞ」
ハイフォンは、そういうや否や突然体を捻ると、地面と水平になるように剣を振り回した。
剣の勢いは前方百八十度で止まることなく、体諸共ぐるりと一周する。
所謂回転切りを放ったのだが、唐突な彼のこの行為には、この場にいる全員が驚いた。
 周囲の生徒の眼前を、ものすごい勢いで剣が過ぎ去り、後から迫る風圧が髪を靡かせる。
ハイフォンの背を守っていたユイエンは、嫌な気配を感じると、足の力を抜き崩れ落ちることで、彼の剣を辛うじて躱した。
地面にへたり込んだ彼は、足元から抗議の声を上げる。
「……っ!あっぶないなぁ!先生ってば!」
「何を言うか。この程度躱せないようでは、剣士として大成できんぞ」
剣を地面に突き刺し、彼は豪快に笑い飛ばした。

 ハイフォンはユイエンを生徒の輪に戻し、視線をルインに向ける。
「詠唱を破棄する危険性が、今見て貰ったところにある。俺たち戦士はよく技名を高々と叫ぶが、それは何も格好つける為ではない。自らを鼓舞し、一時的に身体能力を向上させる意味がある。更にそれに加えて、味方に対してこの攻撃をするぞ、と知らせる意味もあるのだ」
彼の言葉通り、先ほどの回転切りを放つ前に技名のようなものを叫べば、ユイエンはここまで慌てることも無く、ある程度余裕をもって回避も出来ただろう。
「魔法の詠唱がこの行為と同じ意味を持つ。ましてや雷属性魔法は、発動から着弾までの時間が極端に短いからな。仲間に発動を伝えるのとそうでないのとでは、安全性が天と地ほど差がつく」
 仮にルインが無詠唱で『雷の矢』を放てば、前衛で戦う戦士としては堪った物では無い。
不意に、放電音を鳴らしながら高速で飛ぶ矢が、背後から飛来するのだ。
運が悪ければ斜線上に自ら飛び出てしまい、射抜かれる可能性だって十分にある。
そうならないためにも、声で現状を通達することを忘れてはならない。
「敵が強くて敗れるのならまだしも、味方を誤射して負けましたでは話にならない。これが無詠唱を禁止する理由だ。分かったか?」
ある程度納得のいく理由を得られ、ルインは素直に頷いた。
それから一つ二つ更なる注意事項を受けて、授業はお開きとなる。


 実技の授業が終わり、生徒たちはコルトナの魔法学校にある寮へと案内される。
外観はスフィロニアと同じ造りで、階層が一つ少ないだけだ。
内装もほぼ同じで、迷うことは無さそうだった。
唯一の違いといえば、魔法学校に直接つながる通路が設けられていて、外に出ることなく学び舎に通うことができる点だ。
その距離もスフィロニアより近く、朝は少しだけ余裕が生まれることになるだろう。

 現在、スフィロニアは夕暮れ前。
コルトナはもう少しすれば朝日が顔を出す時間帯だ。
翌々日から始まる授業は、コルトナの時間に合わせて執り行われる為、昼夜逆転の生活時間のずれを、一日かけて直さなければならない。
ルインは同室のユイエンと共に、眠くもないのに寝台に入って仮眠を計る。
これから非常に過酷で、忙しない生活が待っているとも知らずに。
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