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9章 堕落した神童
試合の結末
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激しい攻防の余韻が過ぎ去り、観覧客は遂に試合の結果が出たことに気付く。
地面に座った選手の間に立つリエントは、リュミエルをみると宣言を促した。
困惑を孕んだ彼女の声が会場に木霊する。
「えっと……ついに決着がつきました!激戦の末勝利を掴んだのは……四年生です!」
会場から上がった声は歓声が半分、疑惑が半分。
ルインの古代魔法は確かにクロスネシアを圧倒し、講師の防御魔法ならず、学校長が出張ってまで防がざるを得ない程に、強力な物であった。
彼らの戦いを見れば明らかに一年生代表の勝利となるはずだ。
当の本人たちも納得いかないらしく、ルイン、クロスネシア双方はリエントを見つめる。
観覧客の中で疑惑の声を上げた者達も同様だ。
彼らの疑問を解消したのはリュミエルの解説だった。
「ルイン選手の上級魔法が、クロスネシア選手に襲い掛かる直前、ユメスティナ選手の攻撃魔法から、アネシアルテ選手を守るための防御魔法が発動しました!なので勝敗規定によりまして、四年生代表の勝利となります!」
身振り手振りで口を動かす。
リュミエルの言葉を聞いたルインは、彼女が戦っていたであろう場所を注視した。
そこには地面に横たわったアネシアルテの姿が見える。
「「アネシア!」」
声は二つ聞こえた。
だが行動に移せたのは片方だけだ。
ルインは言うことを聞かない体で無理矢理立ち上がると、そちらへ向かってふらふらと歩き出す。
何度も転びそうになりながらも、アネシアルテへと近づいていく。
その様子を見て、立ち上がることが出来ないクロスネシアは歯ぎしりをした。
魔力消失の苦しさは彼も知っている。
体から力が抜け意識は混濁し、言葉を発するのも億劫になる。高熱を伴った重度の風邪、というのが一番近いだろうか。
行き過ぎてしまえば命を落とす程危険な状態だ。
あの状態で歩くことは相当な苦痛を伴うだろう。
ここに来てクロスネシアは漸く、アネシアルテが彼を相方に選んだ理由を理解した。
そして自らが犯していた過ちも……
麻痺を言い訳に動くふりばかりする惰弱した精神。
物事の表面ばかりに気を取られ本質を見誤る濁った慧眼。
その結果がこの有り様だ。
同一人物の安否を気遣いながらも、一方は地面に座り込んだままで、一方は自らを省みずに手を差し伸べようとしている。
試合の結果は兎も角、この二人に限って言えば勝者は明らかだった。
ルインとクロスネシアの攻防の最中。
アネシアルテは朦朧とする意識の中で、必死にユメスティナの魔法を捌いていた。
当初は互角だった攻防も次第に偏り、一方的な戦いとなっていく。
理由としてはやはり、巨木の魔法人形に放った上級魔法での魔力消耗が挙げられるだろう。
その消費量は尋常ではなく、昼食、食休みを挟んでも全快とはいかなかったのだ。
また、ユメスティナの放つ闇属性魔法の効果も拍車をかけた。
闇属性魔法の特性とは『浸食』である。
魔法の端々で飛散していた黒霧が他者の魔力を蝕むのだ。
霧に触れれば触れる程に、その者の魔力は失われていくことになる。
故に、彼女と対峙していたアネシアルテは、その影響をもろに受けてしまった。
この戦闘に置いて影響を受けなかったのは、対となる光属性魔法を扱えたクロスネシアのみ。
離れて戦闘をしていたルインにも影響が無かったわけでは無く、そのせいで禁断の宝物庫を発動した彼は魔力消失に陥ってしまった。
これらを鑑みれば、四年生代表らは最初から、時間をかけた消耗戦を仕掛けていた、とも考えられる。
全てが作戦通りであれば何と強かなことか。
ルインは倒れたアネシアルテに駆け寄ると必死に呼びかける。
「アネシア!大丈夫か!?」
彼女は赤みの抜けた顔色で、何とか笑顔を作り頷いた。
そしてそのまま気を失ってしまう。
慌てるルインの背後からリエントが声をかけた。
「大丈夫じゃ。少し眠ればすぐ回復するだろう」
その言葉を聞いたルインも気が抜けたのか、激しい眠気に襲われ意識が落ちていった。
後に上がるのは歓声。
それは勝者敗者分け隔てなく降り注ぐ。
ところが、勝者はそれを素直に喜ぶことが出来ず、敗者はそもそも聞くことが出来ない。
当人らに歓迎されぬ声ではあったが、極上の試合に対する声を禁じることは出来ず、選手らが退場した後もいつまでも声は鳴りやまなかった。
地面に座った選手の間に立つリエントは、リュミエルをみると宣言を促した。
困惑を孕んだ彼女の声が会場に木霊する。
「えっと……ついに決着がつきました!激戦の末勝利を掴んだのは……四年生です!」
会場から上がった声は歓声が半分、疑惑が半分。
ルインの古代魔法は確かにクロスネシアを圧倒し、講師の防御魔法ならず、学校長が出張ってまで防がざるを得ない程に、強力な物であった。
彼らの戦いを見れば明らかに一年生代表の勝利となるはずだ。
当の本人たちも納得いかないらしく、ルイン、クロスネシア双方はリエントを見つめる。
観覧客の中で疑惑の声を上げた者達も同様だ。
彼らの疑問を解消したのはリュミエルの解説だった。
「ルイン選手の上級魔法が、クロスネシア選手に襲い掛かる直前、ユメスティナ選手の攻撃魔法から、アネシアルテ選手を守るための防御魔法が発動しました!なので勝敗規定によりまして、四年生代表の勝利となります!」
身振り手振りで口を動かす。
リュミエルの言葉を聞いたルインは、彼女が戦っていたであろう場所を注視した。
そこには地面に横たわったアネシアルテの姿が見える。
「「アネシア!」」
声は二つ聞こえた。
だが行動に移せたのは片方だけだ。
ルインは言うことを聞かない体で無理矢理立ち上がると、そちらへ向かってふらふらと歩き出す。
何度も転びそうになりながらも、アネシアルテへと近づいていく。
その様子を見て、立ち上がることが出来ないクロスネシアは歯ぎしりをした。
魔力消失の苦しさは彼も知っている。
体から力が抜け意識は混濁し、言葉を発するのも億劫になる。高熱を伴った重度の風邪、というのが一番近いだろうか。
行き過ぎてしまえば命を落とす程危険な状態だ。
あの状態で歩くことは相当な苦痛を伴うだろう。
ここに来てクロスネシアは漸く、アネシアルテが彼を相方に選んだ理由を理解した。
そして自らが犯していた過ちも……
麻痺を言い訳に動くふりばかりする惰弱した精神。
物事の表面ばかりに気を取られ本質を見誤る濁った慧眼。
その結果がこの有り様だ。
同一人物の安否を気遣いながらも、一方は地面に座り込んだままで、一方は自らを省みずに手を差し伸べようとしている。
試合の結果は兎も角、この二人に限って言えば勝者は明らかだった。
ルインとクロスネシアの攻防の最中。
アネシアルテは朦朧とする意識の中で、必死にユメスティナの魔法を捌いていた。
当初は互角だった攻防も次第に偏り、一方的な戦いとなっていく。
理由としてはやはり、巨木の魔法人形に放った上級魔法での魔力消耗が挙げられるだろう。
その消費量は尋常ではなく、昼食、食休みを挟んでも全快とはいかなかったのだ。
また、ユメスティナの放つ闇属性魔法の効果も拍車をかけた。
闇属性魔法の特性とは『浸食』である。
魔法の端々で飛散していた黒霧が他者の魔力を蝕むのだ。
霧に触れれば触れる程に、その者の魔力は失われていくことになる。
故に、彼女と対峙していたアネシアルテは、その影響をもろに受けてしまった。
この戦闘に置いて影響を受けなかったのは、対となる光属性魔法を扱えたクロスネシアのみ。
離れて戦闘をしていたルインにも影響が無かったわけでは無く、そのせいで禁断の宝物庫を発動した彼は魔力消失に陥ってしまった。
これらを鑑みれば、四年生代表らは最初から、時間をかけた消耗戦を仕掛けていた、とも考えられる。
全てが作戦通りであれば何と強かなことか。
ルインは倒れたアネシアルテに駆け寄ると必死に呼びかける。
「アネシア!大丈夫か!?」
彼女は赤みの抜けた顔色で、何とか笑顔を作り頷いた。
そしてそのまま気を失ってしまう。
慌てるルインの背後からリエントが声をかけた。
「大丈夫じゃ。少し眠ればすぐ回復するだろう」
その言葉を聞いたルインも気が抜けたのか、激しい眠気に襲われ意識が落ちていった。
後に上がるのは歓声。
それは勝者敗者分け隔てなく降り注ぐ。
ところが、勝者はそれを素直に喜ぶことが出来ず、敗者はそもそも聞くことが出来ない。
当人らに歓迎されぬ声ではあったが、極上の試合に対する声を禁じることは出来ず、選手らが退場した後もいつまでも声は鳴りやまなかった。
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