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7章 模擬試合
学年代表
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試合を終えたルインの周囲には、少しだが人垣ができる。
彼らが口々に言う言葉は、ルインが出した火の玉についてだ。
「君は火属性魔法すら無詠唱で発動できるのか!?」
「将来はきっと凄い魔法使いになれるね!」
その声の中に、具体的にどうやってその魔法を唱えたのか、聞いてくる者は一人もいない。
もともと雷魔法は無詠唱で使っていたのだが、比較的ルインに近しい人らも、ルインの無詠唱魔法に疑問を持つことが無かった為、生徒らは皆、『才能の違い』程度にしか思っていなかったのだ。
だが事実は多分に異なる。
ルインが試合の中で出現させた日の玉は、実は戦術魔法に属するものでは無く、生活魔法の一つであった。
そこにあるのは才能の有無などではない。
日々研鑽に明け暮れた、ルインの努力の賜物だ。
それを知らないルインは、人垣をはずれつつも、他人に聞かれぬよう小さくサンディオに語り掛ける。
「無理な魔法行使だったけど、答えてくれてありがとう」
本来生活魔法であっても、火を出す魔法は、雷の精霊の子供であるサンディオの領分ではない。
つまり、火属性の精霊に語り掛ける『詠唱』が欲しいはずなのだが、何らかの理由でサンディオが助けてくれたのだろう。
ルインが放った言葉は、そう考えた上での発言だったが、その言葉にサンディオは首を振る。
『あれは俺じゃない。君が自分で使った魔法さ』
理解に苦しむ発言を受け、気持ち悪く思ったルインは、サンディオを問い詰めようとするが、それを遮るように呼ぶ声がかかった。
「おめでとう!ルイン!」
元気な声がする方にはアネシアルテの姿。
心から喜んでくれているようで、満面の笑みを浮かべていた。
試合に負けたユイエンにも、優しい声がかけられる。
その中には、難しい顔をしたガーニードもいて、彼だけは質問を投げかけた。
「おい、ポーカス。あいつは『ファイアーボール』を出すとき、詠唱を唱えたか?」
ルインが杖を持たぬ手から出した火の玉は、大きさや形状が『火炎球』の魔法に酷似していた。
そう感じたガーニードは、ルインは火属性魔法をも扱える、とし、ユイエンに詠唱の有無を尋ねたのだ。
ユイエンはというと、その声に少し表情を硬くし、声音低く答えを返す。
「いいや、口が動く素振りなんてなかった。あの魔法も恐らく無詠唱だ」
その言葉に、ガーニードの頭は真っ白になった。
試合の終了と共に盛り上がりを見せた生徒らが、落ち着きを取り戻す頃、期を見計らってシャローゼが口を開く。
「さて、一試合目はルインの勝利となった。休憩を挟み、次はユイエンとガーニードの番なのだが……」
彼女が気にかけたのは、苦虫を噛み潰したような顔をするガーニードだ。
発言を求められていると気づいた彼は、その心内を吐き出した。
「……私は棄権する。雷魔法だけでも厄介だったのだ。加えて火属性まで無詠唱発動されたのでは、到底勝てるとは思えん」
ガーニードは、魔法使いとしての実力の差を見せつけられ、様々な感情を抱く。
羨望、嫉妬、憤慨。
内にこもるもやもやとした、言葉に出来ない感情を、歯を噛み締めることで我慢する。
シャローゼはそれを止めることもせずに一言、そうかと呟いた。
先の試合の結果により、ルインが一つ勝ち、ユイエンが一つ負けた。
そしてガーニードの棄権……戦績でいえばルインの一人勝ちとなる。
「……ということで、男子の代表はルイン・フォルトとなった。異論がある者はいるか?」
シャローゼの言葉に生徒達は皆首を振る。
雷魔法の無詠唱発動ですら他を圧倒する力だった。
だというのに、今の彼は火属性魔法まで無詠唱で扱うことが出来る。
事実を知らない生徒たちは皆そう解釈し、その力を否定する者はいない。
誰も反論しないことを確認すると、シャローゼは最終的な代表の氏名を読み上げた。
「では……魔法学校一年は、男子からルイン・フォルト。女子からアネシアルテ・セイムセイン。以上二名を代表とし、十五日後の学年対抗戦に挑むこととする。当日は近隣諸国から多くの人が訪れる。恥ずかしい思いをせぬよう、日々力を磨くように」
名を呼ばれた二人は元気良く返事をし、周囲にいる生徒らは拍手を持って祝福をする。
その拍手が鳴りやむのに、短くない時間がかかった。
部屋の中が落ち着くと、学年対抗戦までの授業の日程が組まれる。
講師であるシャローゼとカロッセの認識は共通していた。
代表の二人の力は、既に二年生を超え、三年生にも迫る勢いだ。
唯一の欠点は実践の少なさ。
講師の二人は、その欠点を補うように、授業の予定を組んでいった。
代表以外の者達が、様々な組み合わせで二人組を作り、代表との模擬試合が時間の限り行われる。
ありとあらゆる戦況に対応できるように、彼らは毎日毎日模擬試合に明け暮れた。
彼らが口々に言う言葉は、ルインが出した火の玉についてだ。
「君は火属性魔法すら無詠唱で発動できるのか!?」
「将来はきっと凄い魔法使いになれるね!」
その声の中に、具体的にどうやってその魔法を唱えたのか、聞いてくる者は一人もいない。
もともと雷魔法は無詠唱で使っていたのだが、比較的ルインに近しい人らも、ルインの無詠唱魔法に疑問を持つことが無かった為、生徒らは皆、『才能の違い』程度にしか思っていなかったのだ。
だが事実は多分に異なる。
ルインが試合の中で出現させた日の玉は、実は戦術魔法に属するものでは無く、生活魔法の一つであった。
そこにあるのは才能の有無などではない。
日々研鑽に明け暮れた、ルインの努力の賜物だ。
それを知らないルインは、人垣をはずれつつも、他人に聞かれぬよう小さくサンディオに語り掛ける。
「無理な魔法行使だったけど、答えてくれてありがとう」
本来生活魔法であっても、火を出す魔法は、雷の精霊の子供であるサンディオの領分ではない。
つまり、火属性の精霊に語り掛ける『詠唱』が欲しいはずなのだが、何らかの理由でサンディオが助けてくれたのだろう。
ルインが放った言葉は、そう考えた上での発言だったが、その言葉にサンディオは首を振る。
『あれは俺じゃない。君が自分で使った魔法さ』
理解に苦しむ発言を受け、気持ち悪く思ったルインは、サンディオを問い詰めようとするが、それを遮るように呼ぶ声がかかった。
「おめでとう!ルイン!」
元気な声がする方にはアネシアルテの姿。
心から喜んでくれているようで、満面の笑みを浮かべていた。
試合に負けたユイエンにも、優しい声がかけられる。
その中には、難しい顔をしたガーニードもいて、彼だけは質問を投げかけた。
「おい、ポーカス。あいつは『ファイアーボール』を出すとき、詠唱を唱えたか?」
ルインが杖を持たぬ手から出した火の玉は、大きさや形状が『火炎球』の魔法に酷似していた。
そう感じたガーニードは、ルインは火属性魔法をも扱える、とし、ユイエンに詠唱の有無を尋ねたのだ。
ユイエンはというと、その声に少し表情を硬くし、声音低く答えを返す。
「いいや、口が動く素振りなんてなかった。あの魔法も恐らく無詠唱だ」
その言葉に、ガーニードの頭は真っ白になった。
試合の終了と共に盛り上がりを見せた生徒らが、落ち着きを取り戻す頃、期を見計らってシャローゼが口を開く。
「さて、一試合目はルインの勝利となった。休憩を挟み、次はユイエンとガーニードの番なのだが……」
彼女が気にかけたのは、苦虫を噛み潰したような顔をするガーニードだ。
発言を求められていると気づいた彼は、その心内を吐き出した。
「……私は棄権する。雷魔法だけでも厄介だったのだ。加えて火属性まで無詠唱発動されたのでは、到底勝てるとは思えん」
ガーニードは、魔法使いとしての実力の差を見せつけられ、様々な感情を抱く。
羨望、嫉妬、憤慨。
内にこもるもやもやとした、言葉に出来ない感情を、歯を噛み締めることで我慢する。
シャローゼはそれを止めることもせずに一言、そうかと呟いた。
先の試合の結果により、ルインが一つ勝ち、ユイエンが一つ負けた。
そしてガーニードの棄権……戦績でいえばルインの一人勝ちとなる。
「……ということで、男子の代表はルイン・フォルトとなった。異論がある者はいるか?」
シャローゼの言葉に生徒達は皆首を振る。
雷魔法の無詠唱発動ですら他を圧倒する力だった。
だというのに、今の彼は火属性魔法まで無詠唱で扱うことが出来る。
事実を知らない生徒たちは皆そう解釈し、その力を否定する者はいない。
誰も反論しないことを確認すると、シャローゼは最終的な代表の氏名を読み上げた。
「では……魔法学校一年は、男子からルイン・フォルト。女子からアネシアルテ・セイムセイン。以上二名を代表とし、十五日後の学年対抗戦に挑むこととする。当日は近隣諸国から多くの人が訪れる。恥ずかしい思いをせぬよう、日々力を磨くように」
名を呼ばれた二人は元気良く返事をし、周囲にいる生徒らは拍手を持って祝福をする。
その拍手が鳴りやむのに、短くない時間がかかった。
部屋の中が落ち着くと、学年対抗戦までの授業の日程が組まれる。
講師であるシャローゼとカロッセの認識は共通していた。
代表の二人の力は、既に二年生を超え、三年生にも迫る勢いだ。
唯一の欠点は実践の少なさ。
講師の二人は、その欠点を補うように、授業の予定を組んでいった。
代表以外の者達が、様々な組み合わせで二人組を作り、代表との模擬試合が時間の限り行われる。
ありとあらゆる戦況に対応できるように、彼らは毎日毎日模擬試合に明け暮れた。
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