31 / 134
6章 授業
実技2
しおりを挟む
ルインはシャローゼに向けて杖を突き出した。
魔法学校の中で、セイムセイン家の令嬢であるアネシアルテの力が、どれだけ大きく理解されているのかはわからない。
ならば事は全力でかからねばなるまい。
もし自身の力が、彼らの想像に至らなければ、彼女は口だけの魔法使いとされるかもしれないのだ。
そう感じたルインは今、無詠唱で放てる最大の魔法を発動することに決めた。
練り上げる魔力の量から彼の意思を感じ取り、サンディオが心配そうに言葉をかける。
『大丈夫かい?その魔法は……』
黙って頷くルインに、サンディオはその後の言葉を飲み込んだ。
突き出した黒い杖から青白い雷が迸り、杖の先から離れると幾つも絡み合って長く長く形を作っていく。
それは忌々しき雷魔法。
強力が故に両親を怖がらせてしまった雷の鞭だ。
威力もさることながら、この魔法の強みは、これまでルインが使った魔法とは違うところにある。
雷の矢や雷の剣は、放ったが最後。内包する魔力が尽きるか、何かに衝撃を与えることで消滅する魔法である。
一方で今放った雷の鞭は、魔力を放出し続ける限りその形を保ち、ある程度の操作が出来た。
例えば振り下ろし、例えば振り上げ、薙ぎ払ったり波打たせたりと、発動主の操作に応え、多種多様な連続攻撃が可能となるのだ。
魔法自体の等級としては中級に位置する。
だが部屋の中の全員が驚いたのは、その魔法の難度だけではなかった。
大部分を占めるのはやはり、無詠唱による魔法発動だろう。
ルインは眼を見開くシャローゼに向かって、鞭を強く薙ぎ払った。
「なっ!?」
対峙する彼女は驚愕の声を上げ、咄嗟に防御魔法を唱える。
だが、雷魔法の性質上その速度は高速であり、また詠唱という事前動作も無い魔法発動に、どうしても反応が遅れてしまった。
対抗策を繰り出せぬまま、避けようと体を動かした彼女の、真っ赤な髪が鞭に触れるかと思われた時。
「彼の者を守り給へ!高速魔法障壁!」
カロッセの魔法が発動される。
シャローゼと雷の鞭の間に局地的な障壁が現れ、一瞬だが鞭を受けとめた。
範囲と強度を代償に、発動速度だけを高めた魔法障壁だ。
威力差にあっけなく破られはするものの、その遅延は、シャローゼが防御魔法を発動するには十分な時間だった。
半端だった詠唱を唱え切り、彼女が十分な威力を載せた防御魔法を発動する。
「火炎防壁!」
地面から湧き上がる炎の壁が、雷の鞭を受けとめた。
鞭はそのまま壁に巻き付き、操作が効かなくなってしまう。
何度か杖を振ったルインだが、どうしようもなくなったことを察し、大人しく魔力の供給を止め雷の鞭をしまった。
けたたましい放電音と、火が爆ぜる音が止むと、部屋の中は静寂に包まれる。
静まり返った空気を破ったのは、魔法を受けたシャローゼだ。
「いやはや……まいったね。無詠唱ってやつかい?初めて見たよ。しかも発動したのは中級魔法の『雷の鞭』と来た。これだけの物を見せられたら文句を言う輩などないだろう」
彼女の言葉に異論を発する者は無く、辺りからは疎らに拍手が上がる。
無詠唱魔法。
魔法使いの中で、その域を目指す者は後を絶たない。
初級呪文に四苦八苦する見習いも、大賢者と称された魔法使いも、子供から大人、老人に至るまで、魔法を扱う者は皆がそれを夢見た。
だがしかし、多くの者は厳しい現実に阻まれ、諦める事を余儀なくされる。
何故誰もがそれを求めるのか。
名声、力、知的欲求。
様々な理由が挙げらえるが、その有用さは先の通りだ。
新入生であるルインより、明らかに上位の魔法使いであるシャローゼは、同じく上位の魔法使いであるカロッセの支援無くして、雷の魔法を防ぐことは出来なかった。
そしてそれは、不意打ちによる攻撃魔法ではない。攻撃魔法が発動されることを知っていて、この結果なのである。
これ程のやり取りを見せられて、新入生達が歓声を上げない訳が無かった。
鳴り響く拍手喝采の中、アネシアルテは誇らしげに胸を張り、ガーニードは歯ぎしりをしてアネシアルテの傍から遠ざかる。
そうして漸く、ルインはアネシアルテの相方として、皆から認められることが出来た。
魔法学校の中で、セイムセイン家の令嬢であるアネシアルテの力が、どれだけ大きく理解されているのかはわからない。
ならば事は全力でかからねばなるまい。
もし自身の力が、彼らの想像に至らなければ、彼女は口だけの魔法使いとされるかもしれないのだ。
そう感じたルインは今、無詠唱で放てる最大の魔法を発動することに決めた。
練り上げる魔力の量から彼の意思を感じ取り、サンディオが心配そうに言葉をかける。
『大丈夫かい?その魔法は……』
黙って頷くルインに、サンディオはその後の言葉を飲み込んだ。
突き出した黒い杖から青白い雷が迸り、杖の先から離れると幾つも絡み合って長く長く形を作っていく。
それは忌々しき雷魔法。
強力が故に両親を怖がらせてしまった雷の鞭だ。
威力もさることながら、この魔法の強みは、これまでルインが使った魔法とは違うところにある。
雷の矢や雷の剣は、放ったが最後。内包する魔力が尽きるか、何かに衝撃を与えることで消滅する魔法である。
一方で今放った雷の鞭は、魔力を放出し続ける限りその形を保ち、ある程度の操作が出来た。
例えば振り下ろし、例えば振り上げ、薙ぎ払ったり波打たせたりと、発動主の操作に応え、多種多様な連続攻撃が可能となるのだ。
魔法自体の等級としては中級に位置する。
だが部屋の中の全員が驚いたのは、その魔法の難度だけではなかった。
大部分を占めるのはやはり、無詠唱による魔法発動だろう。
ルインは眼を見開くシャローゼに向かって、鞭を強く薙ぎ払った。
「なっ!?」
対峙する彼女は驚愕の声を上げ、咄嗟に防御魔法を唱える。
だが、雷魔法の性質上その速度は高速であり、また詠唱という事前動作も無い魔法発動に、どうしても反応が遅れてしまった。
対抗策を繰り出せぬまま、避けようと体を動かした彼女の、真っ赤な髪が鞭に触れるかと思われた時。
「彼の者を守り給へ!高速魔法障壁!」
カロッセの魔法が発動される。
シャローゼと雷の鞭の間に局地的な障壁が現れ、一瞬だが鞭を受けとめた。
範囲と強度を代償に、発動速度だけを高めた魔法障壁だ。
威力差にあっけなく破られはするものの、その遅延は、シャローゼが防御魔法を発動するには十分な時間だった。
半端だった詠唱を唱え切り、彼女が十分な威力を載せた防御魔法を発動する。
「火炎防壁!」
地面から湧き上がる炎の壁が、雷の鞭を受けとめた。
鞭はそのまま壁に巻き付き、操作が効かなくなってしまう。
何度か杖を振ったルインだが、どうしようもなくなったことを察し、大人しく魔力の供給を止め雷の鞭をしまった。
けたたましい放電音と、火が爆ぜる音が止むと、部屋の中は静寂に包まれる。
静まり返った空気を破ったのは、魔法を受けたシャローゼだ。
「いやはや……まいったね。無詠唱ってやつかい?初めて見たよ。しかも発動したのは中級魔法の『雷の鞭』と来た。これだけの物を見せられたら文句を言う輩などないだろう」
彼女の言葉に異論を発する者は無く、辺りからは疎らに拍手が上がる。
無詠唱魔法。
魔法使いの中で、その域を目指す者は後を絶たない。
初級呪文に四苦八苦する見習いも、大賢者と称された魔法使いも、子供から大人、老人に至るまで、魔法を扱う者は皆がそれを夢見た。
だがしかし、多くの者は厳しい現実に阻まれ、諦める事を余儀なくされる。
何故誰もがそれを求めるのか。
名声、力、知的欲求。
様々な理由が挙げらえるが、その有用さは先の通りだ。
新入生であるルインより、明らかに上位の魔法使いであるシャローゼは、同じく上位の魔法使いであるカロッセの支援無くして、雷の魔法を防ぐことは出来なかった。
そしてそれは、不意打ちによる攻撃魔法ではない。攻撃魔法が発動されることを知っていて、この結果なのである。
これ程のやり取りを見せられて、新入生達が歓声を上げない訳が無かった。
鳴り響く拍手喝采の中、アネシアルテは誇らしげに胸を張り、ガーニードは歯ぎしりをしてアネシアルテの傍から遠ざかる。
そうして漸く、ルインはアネシアルテの相方として、皆から認められることが出来た。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
私の婚約者には、それはそれは大切な幼馴染がいる
下菊みこと
恋愛
絶対に浮気と言えるかは微妙だけど、他者から見てもこれはないわと断言できる婚約者の態度にいい加減決断をしたお話。もちろんざまぁ有り。
ロザリアの婚約者には大切な大切な幼馴染がいる。その幼馴染ばかりを優先する婚約者に、ロザリアはある決心をして証拠を固めていた。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね?~魔道具師として自立を目指します!~
椿蛍
ファンタジー
【1章】
転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。
――そんなことってある?
私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。
彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。
時を止めて眠ること十年。
彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。
「どうやって生活していくつもりかな?」
「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」
「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」
――後悔するのは、旦那様たちですよ?
【2章】
「もう一度、君を妃に迎えたい」
今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。
再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?
――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね?
【3章】
『サーラちゃん、婚約おめでとう!』
私がリアムの婚約者!?
リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言!
ライバル認定された私。
妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの?
リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて――
【その他】
※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。
※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~
十本スイ
ファンタジー
高校生の時に異世界に召喚された主人公――四河日門。文化レベルが低過ぎる異世界に我慢ならず、元の世界へと戻ってきたのはいいのだが、地球は自分が知っている世界とはかけ離れた環境へと変貌していた。文明は崩壊し、人々はゾンビとなり世界は終末を迎えてしまっていたのだ。大きなショックを受ける日門だが、それでも持ち前のポジティブさを発揮し、せっかくだからと終末世界を異世界アイテムなどを使ってのんびり暮らすことにしたのである。
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!
BYOND A WORLD
四葉八朔
ファンタジー
第1章、87話(48万文字程度)5月5日まで毎日19:00連続更新です。
地球とは違う異世界。まったく見知らぬ異世界に飛ばされてしまったある男が宇宙船の人工頭脳や自動機械たちと協力し、新たな国を作って異世界人に対抗し始める。
最初は慎重に動いていた男だったが、徐々に世界の表舞台へ立たざるを得なくなっていき――。
※冒頭部分でSF的な描写があり、SF要素も随所に出てきますが、土台となる部分は王道系の異世界ファンタジーだと思って読んでください。
一部地球の文明や法則を参考にしていますが、主人公が元居た世界は地球という名前のパラレルワールドです。食文化が現時点のものであるにもかかわらず、宇宙船や機械の技術が異様に発展していたり物理法則がおかしかったりしますので、あくまでパラレルワールドの出来事としてお読みください。
「BEYOND A WORLD」という題名の冠詞が「A」なのも、パラレルワールド的考えで複数世界が存在するという設定からです。
ところどころ、うんちく臭い説明がありますがAIが味方だったり現代から何百年後の主人公という設定に説得力をもたせるためなので何卒ご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる