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19章 世界の審判
光の柱
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タウロスを降したローゼリエッタは、余韻に浸る間もなく次の標的へと走る。
彼女が狙うは変異を終えた化け物たち。中でも動物の姿に変化した物を中心として回る。
小柄な人型に変異した化け物は、姿形こそ凶悪ななりをしているが、脅威については元の姿とさほど変わらない。
つまり四つ足の獣型を倒せる兵士であれば、問題なく倒せる相手なのだ。
だから少女は、彼らでは太刀打ちできぬ動物の姿に変化した化け物を狙う。
何体目かのタウロスを屠った時、ローゼリエッタはあることに気が付いた。
それは既に革命軍のある層が気づいていたことで、必死に戦う者には気づけない物だ。
戦場の一角で、セリオンの長を務めるグォンが呟いた。
「何故だ……何故私たちを無視する!!」
その叫びと共に振るった剣は、眼前に迫る黒い化け物を容易く断ち切る。
だが……周囲にいる化け物たちは、明らかな敵意を見せるグォンを無視し、横を通り抜けていってしまった。
「うおおおお!!!」
左右を通る化け物を、必死に逃がすまいと剣を振るグォン。しかし全てを止めることなどできず、手からこぼれる砂のように次々と後続に逃してゆく。
今、必死に抗っている者達は、大きな勘違いをしていた。
赤き目を持つ黒き影。姿こそ仰々しい彼らだが、彼らはあくまでも世界が生み出した抗体のようなもの。抗体であるかれらが成すべきことは、体に巣食う病原菌の排除である。彼らは病魔を食らう物『魔物』としてこの世界に作られ、世界が定めた病魔、つまり『人間』を食らう為に生み出されたのだ。
要すれば、彼らが食らわんとする物は、人間と、人間の力が関与した物だけであり、それ以外は対象外なのだ。だからこそ彼ら魔物は、人間が食うために故意に作り出した牛までもを食らった。
魔物は、人間を食らおうと襲い掛かった。だが人間は存外しぶとく、手痛いしっぺ返しを食らうことになる。巨大な操り人形、鋭い刃物、多彩な魔法。人間が使う武器はどれも強力で、今のままでは到底食い殺すことは出来ない。
すると魔物は、病魔に合わせ自らも変異することを選択した。食らった物を取り込み、その力を我が物として運用し始めたのだ。その結果は見た目として如実に現れ、生み出す力は更に強大な物へと変わった。
しかし、その強力な力をもってしても食えない敵がいる。
この事実を受け、魔物は次の手を打って出た。
……彼らが食えるものは、何も生き物だけではない。
一体の巨人が、防壁に向かって手を伸ばした。
「うわああ!! 逃げろ! 逃げろおおお!!」
防壁の上から弓を撃っていた兵士は、突如迫る巨大な手に恐れをなし防壁から逃げていく。
すると巨人は逃げる人間を気にもせず、防壁の一角に設けられた黒い砲門をつかみ取った。
その様子に気付いたのは巨鎧兵に乗っていたリエントだ。
二人乗り故に周囲の様子をよく観察でき、中でも聡い魔法使いだった彼は、砲門を手にした巨人を見て叫びをあげる。
「シャルルさん! あの巨人を放っておいちゃ駄目だ!!」
切迫した声を聞き、シャルルは直ぐに巨鎧兵をそちらへと向かわせる。
だがここぞとばかりに何体もの巨人が立ち塞がった。
「くぅっ! どけえええ!!」
その強さは羅刹の如く。強力な魔法を操りながら一瞬で二体の巨人を屠って見せた。
人間であれば、その姿に慄き、後退りの一つもしているだろう。だが感情を持たぬ彼ら魔物は、少しも逃げる素振りを見せない。
慌てたリエントは鋭く標的の居る方を睨みつける。その時、立ち塞がる巨人のその影で、魔導砲を口に放り込む巨人の姿を見た。
胎動が始まる。
巨人の内部から漏れる、巨大な太鼓を幾つも叩くような音と空気の振動。それらは戦場にいる全ての生き物の下へ届き、誰もが無人の空を見上げた。
防壁より少し離れた戦場。
強敵のタウロスを辛うじて倒し、ガンフは肩で息をしながら空を仰いだ。重くなった腕はもう剣を振ることも難しい。剣こそ握っているものの、体は至る所傷だらけで出血も多い。
満身創痍と言ってもいい状態のガンフを守ろうと、周囲の兵士が即座に飛び出した。タウロスが死に、手出しのできない戦いはもう終わり。見える限りの敵勢には、良くて小柄な人型の魔物がいるだけだ。勿論そうでなくても、せめて治療が終わるまではと、駆け寄った兵士たちは王国が見せた円形布陣を真似して、残された魔物からガンフを守ろうとした。
ドクン……ドクン……
絶えず続く空気を震わせる鼓動。
そのあまりにも不気味な音に、ガンフは治療を受けながら空を見上げる。
「なんだこの音は……一体何が起きるんだ……?」
ぽつりと呟いたその声は、周囲で鳴り響く剣戟と悲鳴でかき消された。
その時。
「ギィィイアアアアア!!!」
耳を劈く奇声と共に、全てを埋め尽くす閃光が放たれた。
発生源は魔導砲を食らった巨人。苦し気に開けられた天を向く口から、眩い光が辺りを照らす。
直後、青空を突き抜け天を穿つ光の柱が現れた。何処までも続くその光の柱は、まごうことなき魔導砲。巨人は魔導砲を取り込み、その力を我が物としてしまったのだ。
「いかん……いかんぞ! あんなものを受けては誰も生きていられん!!」
ガンフの焦りは周囲にも伝染し、革命軍は一時混乱状態に陥った。
彼女が狙うは変異を終えた化け物たち。中でも動物の姿に変化した物を中心として回る。
小柄な人型に変異した化け物は、姿形こそ凶悪ななりをしているが、脅威については元の姿とさほど変わらない。
つまり四つ足の獣型を倒せる兵士であれば、問題なく倒せる相手なのだ。
だから少女は、彼らでは太刀打ちできぬ動物の姿に変化した化け物を狙う。
何体目かのタウロスを屠った時、ローゼリエッタはあることに気が付いた。
それは既に革命軍のある層が気づいていたことで、必死に戦う者には気づけない物だ。
戦場の一角で、セリオンの長を務めるグォンが呟いた。
「何故だ……何故私たちを無視する!!」
その叫びと共に振るった剣は、眼前に迫る黒い化け物を容易く断ち切る。
だが……周囲にいる化け物たちは、明らかな敵意を見せるグォンを無視し、横を通り抜けていってしまった。
「うおおおお!!!」
左右を通る化け物を、必死に逃がすまいと剣を振るグォン。しかし全てを止めることなどできず、手からこぼれる砂のように次々と後続に逃してゆく。
今、必死に抗っている者達は、大きな勘違いをしていた。
赤き目を持つ黒き影。姿こそ仰々しい彼らだが、彼らはあくまでも世界が生み出した抗体のようなもの。抗体であるかれらが成すべきことは、体に巣食う病原菌の排除である。彼らは病魔を食らう物『魔物』としてこの世界に作られ、世界が定めた病魔、つまり『人間』を食らう為に生み出されたのだ。
要すれば、彼らが食らわんとする物は、人間と、人間の力が関与した物だけであり、それ以外は対象外なのだ。だからこそ彼ら魔物は、人間が食うために故意に作り出した牛までもを食らった。
魔物は、人間を食らおうと襲い掛かった。だが人間は存外しぶとく、手痛いしっぺ返しを食らうことになる。巨大な操り人形、鋭い刃物、多彩な魔法。人間が使う武器はどれも強力で、今のままでは到底食い殺すことは出来ない。
すると魔物は、病魔に合わせ自らも変異することを選択した。食らった物を取り込み、その力を我が物として運用し始めたのだ。その結果は見た目として如実に現れ、生み出す力は更に強大な物へと変わった。
しかし、その強力な力をもってしても食えない敵がいる。
この事実を受け、魔物は次の手を打って出た。
……彼らが食えるものは、何も生き物だけではない。
一体の巨人が、防壁に向かって手を伸ばした。
「うわああ!! 逃げろ! 逃げろおおお!!」
防壁の上から弓を撃っていた兵士は、突如迫る巨大な手に恐れをなし防壁から逃げていく。
すると巨人は逃げる人間を気にもせず、防壁の一角に設けられた黒い砲門をつかみ取った。
その様子に気付いたのは巨鎧兵に乗っていたリエントだ。
二人乗り故に周囲の様子をよく観察でき、中でも聡い魔法使いだった彼は、砲門を手にした巨人を見て叫びをあげる。
「シャルルさん! あの巨人を放っておいちゃ駄目だ!!」
切迫した声を聞き、シャルルは直ぐに巨鎧兵をそちらへと向かわせる。
だがここぞとばかりに何体もの巨人が立ち塞がった。
「くぅっ! どけえええ!!」
その強さは羅刹の如く。強力な魔法を操りながら一瞬で二体の巨人を屠って見せた。
人間であれば、その姿に慄き、後退りの一つもしているだろう。だが感情を持たぬ彼ら魔物は、少しも逃げる素振りを見せない。
慌てたリエントは鋭く標的の居る方を睨みつける。その時、立ち塞がる巨人のその影で、魔導砲を口に放り込む巨人の姿を見た。
胎動が始まる。
巨人の内部から漏れる、巨大な太鼓を幾つも叩くような音と空気の振動。それらは戦場にいる全ての生き物の下へ届き、誰もが無人の空を見上げた。
防壁より少し離れた戦場。
強敵のタウロスを辛うじて倒し、ガンフは肩で息をしながら空を仰いだ。重くなった腕はもう剣を振ることも難しい。剣こそ握っているものの、体は至る所傷だらけで出血も多い。
満身創痍と言ってもいい状態のガンフを守ろうと、周囲の兵士が即座に飛び出した。タウロスが死に、手出しのできない戦いはもう終わり。見える限りの敵勢には、良くて小柄な人型の魔物がいるだけだ。勿論そうでなくても、せめて治療が終わるまではと、駆け寄った兵士たちは王国が見せた円形布陣を真似して、残された魔物からガンフを守ろうとした。
ドクン……ドクン……
絶えず続く空気を震わせる鼓動。
そのあまりにも不気味な音に、ガンフは治療を受けながら空を見上げる。
「なんだこの音は……一体何が起きるんだ……?」
ぽつりと呟いたその声は、周囲で鳴り響く剣戟と悲鳴でかき消された。
その時。
「ギィィイアアアアア!!!」
耳を劈く奇声と共に、全てを埋め尽くす閃光が放たれた。
発生源は魔導砲を食らった巨人。苦し気に開けられた天を向く口から、眩い光が辺りを照らす。
直後、青空を突き抜け天を穿つ光の柱が現れた。何処までも続くその光の柱は、まごうことなき魔導砲。巨人は魔導砲を取り込み、その力を我が物としてしまったのだ。
「いかん……いかんぞ! あんなものを受けては誰も生きていられん!!」
ガンフの焦りは周囲にも伝染し、革命軍は一時混乱状態に陥った。
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