反魂の傀儡使い

菅原

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15章 神域戦線

歩兵戦 1

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 瞬く間に数を減らす巨鎧兵団を尻目に、パシウス率いる歩兵部隊は、革命軍のセリオン、パラミシアの兵士との戦いに身を投じていた。
 パシウスの直下部隊各兵士の力は存外強い。その力は、セリオンの手解きを受けたパラミシアの兵士とほぼ互角。更にはセリオンに若干劣る程度にまで迫る。他国でこれだけの戦士と張り合える者は少なく、まさに向かう所敵なしであった。だがそれ程の強さを有していようとも、数で圧倒する革命軍に勝てはしない。

 彼らがこれまで生き延びることが出来たのは、偏にその戦術にあった。
 王国軍の歩兵部隊は全部で三百人。彼らはこれを三つの塊に大別し、それぞれが一つの要塞を作りだした。
 ぐるりと円形に立ち並んだ兵士たちは、体の半分も覆い隠す巨大な盾を構え、一部の隙も無く戦場を徘徊する。その動きは鈍重なれど、どんな攻撃も跳ね返す鉄壁の移動要塞と化す。これには革命軍も攻めあぐね、顔を顰める兵士も多かった。
 また、それだけの堅牢な守りを手にしていながら、王国軍は専守防衛についたというわけではない。あくまでもその性質は攻撃的であり、黙ってやられるような消極的な戦い方はとらなかった。
 
 王国の移動要塞に対し、革命軍が取った戦略は、セリオンを主とした波状攻撃であった。
 絶え間ない攻撃を続け、敵兵の疲弊を誘う。やがて綻んだ隙を突き瓦解へと導こうとしたのだ。
 しかし、革命軍の戦士が要塞に近づくと、王国軍は慣れた手つきで反撃を開始する。
 盾を持つ兵士が周囲を固める中、その内側にいる兵士は、恐ろしく長い槍を構え、僅かに開けた盾の隙間から突き刺してきたのだ。遠くから見るそれはまるで針鼠の様で、時折その刺突攻撃は革命軍の戦士に手傷を負わせていた。
「報告! 南西より敵兵接近! 総員迎撃準備ぃい!」
 周囲で盾を構える戦士が敵の襲撃を伝えると、それに対応した方角へ内にいる兵士が槍を突き出す。
 すると攻めようとしていたセリオンは、迫る危険を回避しようと一時離れ、その隙に王国軍は少しだけドワーフの拠点へと迫っていく。

 王国軍の強かな所は、遠距離攻撃に対しても防衛策を張り巡らせていたことだ。
 歩兵の中には魔法を使う者や弓を使う者もいて、彼らの力を持ってして、飛来する矢、魔法を防ぎ、逆に魔法と矢での反撃を可能とする。
 これらの戦術により、革命軍の圧倒的な兵力に力負けすることなく、戦場での長期交戦を成し遂げた。
 尤も彼らの戦術は、巨鎧兵団の存在があってこそ有効に働くものだ。
 どれだけ密集し堅牢に守ろうとも、人間を超えるエルフの魔法や、頭数の何倍にも及ぶ矢を振らされては、あっという間に殲滅されてしまうだろう。だが巨鎧兵が暴れまわることで、革命軍の多くはそちらにも気を払わねばならない。そういった様々な状況が重なって、彼ら王国軍は生きながらえることが出来ていた。

 
 力無き者は、寄り添い合うことで存命を計る。
 だが一方で、絶大な力を持つ者は単身戦場を駆け抜けることが許される。
 王国の将パシウスは、従えていた三百の兵士とは別に行動し、迫りくるセリオンを切り捨てていった。
「フン!! まったく、獣人とやらも大したことがないな。もっと腕の立つ奴はおらんのか!?」
 彼の剣は人間の持つ領域をとうに超え、セリオンの身体能力をもってしてもやり合うのは難しい域に達していた。
 肉薄するセリオンに対し剣を横に薙ぐ。続く別兵の攻撃をいなし、両腕を切り捨てる。更に武器を振り上げる別兵に体当たりをし、倒れたところへ剣を突き立てた。
 パラミシアの兵士を手玉に取ったセリオン兵をもってしても、パシウスの前には赤子も同然。一瞬のうちに三人のセリオンを屠って見せた。
 この惨状に駆け付けたのが、新たな傀儡を操る傀儡師ローゼリエッタだ。巨鎧兵の対応から、歩兵の援軍として借り出されたのだった。
 少女は倒れる数多のセリオンに胸を痛めながら、剣を構えるパシウスを睨みつける。
 遂に、両雄相まみえる。
 互いに人外の技を持つ軍切っての使い手だ。まるで指示さししめしたように出会い、互いを敵だと認識した。

 パシウスは、戦場に立つローゼリエッタを見て驚く。
 一つは若い女であること。一つは白のドレスを着ていること。そして最後に、操る人形の異常なまでの完成度。
 少女の姿格好は、明らかに戦場に似つかわしくない物だ。これから貴族の舞踏会にでも挑もうかといういで立ち。もしそういった場に参加したのならば、幾人からも声を掛けられることだろう。
 だが間違えてはいけない。多くの命が失われるこの戦場にて、着ている白のドレスはまだ純白のままだ。つまり目の前にいる少女は今この瞬間まで、泥や血を付けることなく戦ってきたのだ。
 そして、驚愕の極めつけが引き連れる人形にあった。
 パシウスは当初、それを人形とは思わなかった。
 肌は少し日に焼けた白色。人間のように長い金髪をなびかせ、人間のように鎧を着こみ剣を握っている。その人形の四肢から輝く糸が伸びていなければ、決して人形とは思わなかっただろう。
 その精巧な作りの人形に、パシウスは見覚えがあった。
「その人形……もしや君はあの戦士の……」
「あの戦士? ……っ! 貴方、もしかして!」
 意味深長な物言いに、一つの可能性を見出したローゼリエッタ。
 彼女の予想通り、目の前にいる男こそが、愛しき兄を殺した憎き相手。
 ローゼリエッタは怒りのあまり、髪の毛が総毛だつ錯覚を覚えた。鋭い目つきは更に鋭くなり、顔には憎悪の感情がありありと浮かび上がる。
 少女の醜く変わった表情を見て、パシウスは僅かに悲しげな表情を浮かべたが、一瞬で元に戻り剣を構えると、戦意を露わにした。
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