反魂の傀儡使い

菅原

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13章 世界の管理者

山の主 1

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 三つの種族で構築された連合軍は、四つ目の種族であるドワーフの町に辿り着いた。
そこはこれまでの集落とは一味違い、人間の形成する集落に近く、至る所に技術の影が見え隠れしている。
立ち上る黒煙。金属のかち合う音。蒸気を吹き出し稼働する何らかの装置たち。金属の熱された独特の臭いも感じられる。
人間界で見たことがある物も多いが、一度も見たことがない物も多く、革命軍、特に物を作る傀儡師の食指を存分に動かした。

 セリオンらの案内により町に辿り着いた革命軍は、やはり主要な人物を募っては二手に分かれて行動することに決めた。
ドワーフの長老に会いに行く顔ぶれは三つ。
ヒトよりローゼリエッタ。エルフよりカーシン。セリオンよりグォンが選出される。
残す人員は巨鎧兵と共に、防壁の外にて待機することとなった。
代表となった三人は、一路、ドワーフが住まう霊峰を目指す。


 エルフは長らく接触していなかったようだが、セリオンは比較的頻繁にドワーフと会っていたようで、グォンは町の中をどんどん進んでいく。
慌てて後を追うローゼリエッタ。その途中で、彼女は思わず目を疑った。
 ドワーフの見た目は、エルフ、セリオン共々異彩を放っていた。
小さな背丈は人間の子供の様だが、成人男性よりも毛むくじゃらで、屈強な体を持つ。
鶴嘴つるはしや金槌のような採掘道具を持ち歩き、洞窟内の行動に耐え得る厚手の衣を身にまとっている。
この特徴は、男女で大差があるわけではなく、性別の差を見分けるには慣れが必要となるだろう。
(エルフといい、セリオンといい、ドワーフといい……私たちの知らない世界がまだまだ一杯あったのね)
時間にすればたった数日の事なのだが、多様な民族と出会ってきたことに、まだ若い少女は感慨に浸る。

 一同を見つけたドワーフの一人が、気さくに声をかけてくる。
「やぁ、グォンさんじゃないかい。よく来たね。また酒が要り様かい?」
また、という言葉から、セリオンが頻繁に訪れていることが分かる。
グォンは薄っすら苦笑いを浮かべ、ドワーフの質問に答えた。
「いや、今回は“マシリオン”さんに会いに来たんだ」
「ああ長老のところかい。長老は山の中さ。ここをまっすぐ行ったら会えると思うよ」
ドワーフが通りの先を指さす。そちらの方を向けば、山の麓にある巨大な穴が見えた。

 それから数度声を掛けられながらも、三人は巨大な山へと辿り着く。
多くのドワーフが出入りするそこへ入ると、中は繁忙はんぼうとしたドワーフと、膨大な鉱石でごった返していた。
広大な半円形の空間。単純な螺旋構造だったエルフの集落とは違い、通路は立体的に交差し、入り組んで上階へと伸びている。
 グォンは、慌ただしく行き交うドワーフの一人呼び止めると、長老がいる場所への案内を頼んだ。
「すまない。マシリオンさんは何処にいるだろうか?出来たら案内も頼みたいのだが……」
「は、はい!少々お待ちいただけますか?今鉱石を置いてきますので」
声の感じから若者のように感じるドワーフは、暫し姿を隠し、手に持っていた鉱石を置いた後、空手の姿で三人の前に姿を現した。
「お待たせしました。長老様はこちらになります。通路は入り組んでますので、迷わないよう付いて来てください」
彼の案内を受け、三人はマシリオンの居る長老の間へと向かう。


 トントントン。
部屋に響く戸を叩く音。
小気味の良いその音を聞いて、ドワーフの長マシリオンは、漸くの来客に腰を上げた。
「どうぞ。鍵は開いてますよ」
齢三百を超える彼の声は、酷くしわがれている。その声を聞いた来訪者は、静かに戸を開け部屋に入った。
 部屋に入るローゼリエッタとカーシン、そしてグォンの三人は、こちらを見て佇む一人のドワーフを見つけた。
発掘作業に特化した衣服を身に着ける下層のドワーフに比べ、長老である彼は、ひらひらとしたローブを羽織っている。いかにも長老といった姿見だ。
 人物の次に目に入ったのは、壮大な眺望だった。
そこは山の中でドワーフが住む最上階。戸の対面にある大きな吹き抜けの向こうには、バルコニーのようなものが備え付けてあり、セリオンが統治する草原が一望できる。
彼はそこから革命軍の姿を確認し、来訪者を予見していたのだ。
だから彼は、頻繁に酒を強請るセリオンや、旧知の中であるエルフ。果ては何百年とあっていないヒトの来訪にも、取り乱すことなく対応できた。
「良く来なさった、お客人。何か重要な話があるのでしょう?こちらで伺いましょう」
マシリオンは手を広げ、部屋に備え付けられたテーブルに一同を誘う。
案内役のドワーフは早々に退室し、部屋に残った四人はそれぞれ椅子に座った。


 まずは穏便に、自己紹介から始まる。
良く顔を合わせるセリオンの長老グォン。
稀に顔を合わせるエルフの長老カーシン。
そして、初めて顔を合わせるヒトのローゼリエッタ。
最後にドワーフの長老であるマシリオンが名を名乗り、話は始まった。
 最初に尋ねたのはマシリオンだ。
「それで、用件は何でしょう?あの巨大な鎧……とても穏やかな話とは思えませんが」
彼は吹き抜けの向こうに見える巨鎧兵へと視線を移す。
その眼には、驚きと恐れ、そしてあふれ出る好奇心が見て取れた。
 マシリオンの問いに答えたのは、一番顔を見せあう仲のグォンだ。
「実は、ヒトの作る王国が、エルフの森に攻め込んできたそうなのです」
「ヒトが?……確かに私らは、ヒトに鉄を加工する技術を与えました。そのせいで彼らは驕り、我々の領地を奪い取ろうとしたのは事実です。ですが、あのような物を作る技術は授けていませんよ。……それに、そこにいるお嬢さんもヒトだとお見受けするのですが、ヒトとは同種族で争う物なのですか?」
この問いかけにはローゼリエッタが答える。
「あれは、私たち傀儡師の技術を使って、王国が作り上げた兵器です。王国はあれを使って、多くの国を滅ぼしました。その王国の暴挙を止めるべく、私たちは革命軍を立ち上げ、攻め込まれた国を救おうとしていたのです。ですが、私たちが隠れ潜んでいた場所が王国に見つかってしまって……」
順を追えば長い話。だがマシリオンは、文句の一つも挟むことなく、黙って少女の説明を聞いていた。
 
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