反魂の傀儡使い

菅原

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7章 魔法の力

東中戦争 2

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 激しく上下に揺れる鎧人形の中で、ローゼリエッタは敵影を発見した。
多数の人間。そして、地の底から這い出てくる泥の人形を。
「あれは……ゴーレム?」
魔法人形が現れるその光景は非常に気味が悪く、その数は膨大で三百を優に超す。
余りに唐突な敵の出現に、巨鎧兵の操者たちは狼狽えた。

 今でこそ、他国も当たり前のように持つ魔法人形だったが、本来は魔法都市が初めて開発した兵器であった。
オージェスという国はかつて、その兵器をもってして、強国の仲間入りを果たしたのだ。
 巨鎧兵を整備する工房を町の一区画に設けるバルドリンガに対し、オージェスの町に魔法人形を製造する施設はない。
しかし、町にはないが、彼らは町の地下に広大な工房を作成していた。
その大きさは町の全経を優に超え、今戦場となる場所にまで届いている。
今、姿を現した魔法人形は、その地下から転送された者らであった。


 三百の巨鎧兵と、それを超える数の魔法人形は衝突した。
拳を振り上げる魔法人形。剣を振り上げる巨鎧兵。
結果は判り切ったこと。巨鎧兵の持つ剣が、泥の魔法人形を切り崩していく。
何とも呆気なく、なんとも圧倒的な戦いだった。
オージェスの兵は改めて、その兵器の異常さを目の当たりにした。
だが、巨鎧兵のその一振りが、大きな隙となる。

 傀儡師たちの人形が艶やかに舞う。
風を切り、高速で動く人形達は、最前列にいる数体の巨鎧兵に群がった。
武器を振り終えた体勢で、それに抗う術はない。
鉄の身体を踏み台にし、人形達は鎧にある『ある個所』を目指す。

 そこは、鎧と鎧のつなぎ目だった。
そこだけが、唯一中の糸を傷つけられる場所なのだ。
到達した人形は、通常よりも刃渡りの長い長剣を構え、溝に突き刺す。

ギャリギャリギャリ!!

 鉄の鎧と剣がこすれる、けたたましい金属音が響いた。
その音は不気味な反響を伴い、鎧の中にいる操者へと届く。
剣を根元まで突き刺した人形は、それを上下に動かし、中の糸の一部を切断することに成功した。


 群がる傀儡たちを見て、巨鎧兵は蟲を振り払うように体を震わせる。
だがそれも少々遅く、体の数か所で糸が切断されてしまった。
 突如、操者らは、何本かの指に掛かっていた負荷が途絶得たことに気付く。
何の手ごたえも感じなくなり、腕が、足が、腰が、全く動かなくなっていた。
「なんだ!?一体何をしたんだ!!腕が……腕が動かない!!」
突然の不備に焦る操者たち。
そうしているうちに、新たな糸が切られ、更に身動きが取れなくなっていく。

 最初の攻防で、六体の巨鎧兵が役に立たなくなった。
先の魔導砲で消え去った二体と含め、計八体の無力化に成功する。
 六体が完全に身動きが取れなくなるころ、漸く武器を振った巨鎧兵が体勢を立て直した。
すぐさま群がる羽虫目掛けて剣を振るう。
しかしその羽虫は存外にすばしっこく、あっという間にその場を離れてしまった。
思わずその虫を目で追う最中、城壁の上で白く輝く光が見えた。


 放たれた魔導砲は二門。
二本の白い柱は、動かなくなった巨鎧兵の両側を駆け抜ける。
光の柱は、扇状に広がった巨鎧兵団の一部を喰い取っていった。
動けぬ仲間を避けて前線に出ようとしたところを狙われたのだ。
魔導砲による砲撃により、一瞬にして五十にもわたる兵の命が奪われた。

 その光景を見て、ローゼリエッタが絶叫する。
「あ……ああ……アアアアアア!!!」
彼女の脳裏には、兵舎で笑い合う仲間の笑顔が浮かんだ。
皆、優しかった。皆、気立てのいい奴等だった。皆……大事な家族だった。
そんな彼らの命が、いとも呆気なく奪い去られてしまったのだ。

 赤の巨鎧兵は駆け出す。これ以上仲間を殺させまいと。
その動きは他の巨鎧兵とは比べ物にならない程早い。
道中にある魔法人形を蹴散らし、城壁に向かって只管走る。
それでも、ローゼリエッタが肉薄する前に、城壁の上に備え付けられた大砲が火を噴いた。
 飛来するは破裂する火薬の塊。
目的地には赤の巨鎧兵と、無生物である数多の魔法人形。
これが直撃すれば、無傷では済まされまい。

 ローゼリエッタは咄嗟に、近くにいた魔法人形を持ち上げ、大砲の弾目掛けて放り投げた。
上空を舞う魔法人形は、ぎこちなくもがきながら飛来する大砲の弾と衝突し、大空に灼熱の大輪を咲かせる。
 空気を震わせる破裂音。それから、魔法人形が吹き飛ばされる程の爆風が吹き荒れた。
その爆風は、防壁の上にいる兵士たちの下にも届き、彼らは思わず目を閉じる。

 それは極僅かな時間の筈だった。
強い風が吹き、それが止むまでの短い時間。
だが次に兵士が目を開いた時、視界いっぱいに泥の魔法人形が迫った。
「うあああ!逃げろ!逃げろおお!!」
赤の巨鎧兵が、再び魔法人形を放り投げたのだ。
大空を舞った魔法人形は、大砲と衝突しこれを破壊する。
その被害は一門だけにとどまらず、まだ未使用の魔導砲を含めた、六門の大砲が使い物にならなくなってしまった。


 兵士らは恐怖した。
魔法人形の群れの中に、ぽっかりと空いた円形の空き地。
その中心でこちらを睨みつける、真っ赤な巨鎧兵を見て。
それは人形だというのに、怒りを孕んでいるように見える。
「う……撃て!魔導砲だ!!あの赤いのが隊長だ!放てええ!!」
切羽詰まった号令が鳴り響き、最後の魔導砲が放たれた。

 視界を埋め尽くす閃光。
超圧縮された魔法の弾が、自軍の魔法人形諸共、戦場のあらゆる存在を飲み込んでいく。
軌道の先には真っ赤な巨鎧兵。
避ける素振りはない。戦場にいる全ての者は、直撃を確信し戦争の終了を予想した。


 光の明滅が終わり、魔導砲の稼働音も収まる。
目をつぶっていた兵士らは、魔法弾が通り過ぎた傷跡を確認しようと、前方を見た。
 その時、彼らは見る。
右手を前に掲げ、直立する赤き騎士を。多少なりとも損傷が見られるが、しっかりと自身の足で立っているではないか。
信じがたいことにそれは、山を跡形も無く消し去る程の圧倒的な力を受け、耐えきって見せたのだ。
この光景を見たオージェスの兵士らは狂乱した。
唯一無二の兵器、絶対破壊の魔導砲を超えた、化け物に出会ってしまったのだ。

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