反魂の傀儡使い

菅原

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7章 魔法の力

魔法都市

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 東にある魔法都市、オージェス。
円形の町は巨大な防壁で囲ってあり、備え付けられた数々の兵器を用いることで、城塞都市といっても問題ない程の堅牢さを持つ。
その中心部には、大陸で一つしかない魔法学校があり、偉大なる魔法使いを志す者達が、大陸中から集まる。
 その内政は少々特殊で、数ある国家の中でも珍しく法治国家であった。
更には他国のように王を構えはするが、国の取る方向性の決定はあくまでも国民にゆだねるという、民主主義を導入している。
 民は皆、魔法使いを目指すだけあって学があり、物事を冷静に判断することができた。
その国民が、今回のバルドリンガ国からの宣戦布告に対し抗うことを決めたのだ。

 国民も馬鹿ではない。
仮に蹂躙されるだけと予想すれば、大きく票は傾くだろう。
だが実際は、大多数が抗うことを望んだ。彼らが抵抗を選んだ理由。それは、オージェスに最高の兵器が存在したからだ。
 『巨鎧兵』が、バルドリンガだけが持つ唯一無二の兵器であるように、オージェスにも他国に無い唯一無二の兵器があった。
防壁の上にある大砲と、混ざって備え付けられた砲門がそれだ。
見た目は大砲と然程変わらない。
ただこの砲門は、膨大な魔力を圧縮した魔力砲弾を放つのだ。
その威力は最大で、山をも吹き飛ばすと言われ、オージェスが誇る最高の兵器であった。
各国はその兵器を『魔導砲』と呼び、それを恐れるあまり外交を全てとした関係が続いている。


 北の連合国パラミシアが崩壊した報せは、魔法都市にも届いた。
大陸を三分する大勢力の消滅に、オージェスの民は驚き、すぐさま戦争の準備を始める。
 例え軍事に明るくない者にも、バルドリンガが次に責める国は明白だった。
パラミシアが亡き今、バルドリンガと同等の戦力を持つ国家。それがここ、オージェスなのだ。

 パラミシアが崩壊してから僅か三日で、巨鎧兵団がオージェス向けて王都を発ったという報せが届いた。
巨体ゆえにその速度は凄まじく、猶予は幾ばくもあるまい。
オージェスの兵士らは、寝る間も惜しんで慌ただしく町を駆け巡る。


 若き傀儡師、セリア・フォルオーゼを長とした『傀儡革命軍』は、巨鎧兵団よりも早く、魔法都市オージェスへと辿り着いていた。
此処でもセリアの予想が的中したのだ。
民の様子から、戦争が間近なことを察すると、彼女らは取り急ぎ、魔法都市を収める者の下へ向かう。

 魔法都市を収める者は、魔法学校の長を兼任する決まりがある。
現魔法学校の長の名は“ムーガン・パルカス”。世界に名を轟かす大魔導士であった。
彼の魔法は軍隊一つにも匹敵するとされ、魔導砲共々各国では畏怖の対象とされている。
 魔法学校の一室にて、セリアとウルカテは、ムーガンと相対した。
あまり寝ていないのだろう。しわがれた顔には大きなくまが出来ている。
更に、身だしなみにも気を使う余裕がないのか、灰色の髪と髭はぼさぼさで、清潔感を欠いていた。

 セリアは、自分たちが仲間であることを告げ、協力を持ちかけた。
「ムーガン様。私たちは傀儡革命軍と申します。バルドリンガの暴走を止めるべく、是非とも助勢させて下さい」
「おお、それは何とも心強い!傀儡……ということはあの巨大な化け物とも関係が……?いや、そんなことはどうでもいい。今は少しでも戦力が欲しい状況。是非とも力を貸していただきたい!」
一国の主だというのに、惜しげも無く首を垂れるムーガン。
手を組むことを決めた両者は、諜報員からの情報を持ち寄り、戦争に向けてすり合わせを行う。


 巨鎧兵団が魔法都市周辺で確認されたのは、それから十日後の事であった。防壁の上で見張っていた兵士が、遥か遠方を行軍する軍隊に気がついたのだ。
圧倒的な戦力を生み出すその巨体が、利点でもあり欠点でもあったらしい。
その足取りは意外にも遅く、とてもこのまま乗り込んで来るとは思えないものだった。
とはいえ残された時間は余りにも少ない。
 オージェスの上層部と革命軍は、最終会議を開き作戦を決めて行く。
「して、あの巨大な人形はどうしたら無力化できるのだ?大きさにあれだけ差があれば、碌に抗うことも出来んだろうが……」
ムーガンの言葉に、セリアは答えた。
「巨大といっても傀儡は傀儡です。人形と操る者を繋ぐ糸を断ち切れば、あの巨人も動かなくなります」
その情報は確かに正しい。実行できれば、相手の戦力を大きく削ぐことが出来るだろう。だがそれは……実行が可能であればの話だ。

 傀儡師が話す打開策を聞いて、オージェスの兵は声を荒げる。
「そんなこと、一体どうやってやれというのだ!?全身を鎧で埋め尽くされ、矢など碌に通らんのだぞ!……!……ま、まさか……あれによじ登れというのではあるまいな!?」
そんなことは不可能だと、多くの兵が叫んだ。
 白熱する会場。
その中で、セリアは目の前の机を思い切り叩き、一同を黙らせる。
それから立ち上がると、一つの案を呈した。
「私たちが前に出ます。傀儡の動きならぎりぎり対応できるでしょうから。ですから皆さんは、遠方から弓や魔法での援護をお願いできますか?」
傀儡は傀儡で蹴りを点ける。それがセリアの主張だった。
 ところが、傀儡を良く知らないオージェスの兵には、その言葉が信じられない。
一人の男が立ち上がると、椅子に座った老婆を指さし叫ぶ。
「“私たち”だと?婆に何ができるというのだ!無駄死にするだけであろうが!」
会場に響いたその声に、老獪な傀儡師たちの魂が震えた。


 突如、会場のど真ん中で風が舞った。
自然の物では無い。ここは建物の中だから。
風をおこした犯人は、一つの傀儡人形だった。
革命軍が座る席から飛び出したそれは、華麗に旋回しながら着地し、一同の注目を集める。
静かに佇む傀儡は、唐突に剣を抜き放ち、老婆を指さす兵士目掛けて掛けだした。

 電光石火。
その動きに、反応出来る兵士は一人もいなかった。
意表を突かれたこともある。
だが純粋に、その傀儡の動きは捉えられないくらい速かったのだ。
 本来人間とは、年を追えば追う程に戦闘に向かなくなる生き物だ。
反応速度は鈍くなり、筋力は衰え、戦闘可能時間も減少していく。
しかし、戦う者達の中には、年を追う程に力を増す者達もいた。
 有名なものを挙げれば『魔法使い』がこれに当たるだろう。
長年培った魔力操作技術に膨大な魔力。それらを使って放たれる強力な魔法は、老若において、歴然とした差が出る。
そしてそれは、傀儡師にも言えることだった。

 熟練された操作技術で動く傀儡人形は、人間の動きを容易く超越する。
その動きをもってすれば、巨鎧兵を翻弄し、無力化することも不可能ではない。
剣を喉元に突きつけられるまで反応出来なかった兵士は、その力に可能性を見出した。
黙って息をのむ兵士らに、傀儡人形の主がはっきりと告げる。
「婆を舐めるでないぞ?そなたらが剣を振るより何倍も早く、あたしらの人形は動くことが出来るんじゃよ」
それが実際に可能であると体験して、ムーガンは先のセリアの提案を受け入れた。
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