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6章 時代の変動
北中戦争 1
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北にある小国は、大国と対等に渡り合う為に同盟を連ね、一つの連合国として活動していた。
その連合国はパラミシアと呼ばれ、バルドリンガにも匹敵する広大な領土を持ち、多国色が混ざった独特な兵術を用いる強国である。
暴君ダイガニスの強力な軍をも退けたその力は、賢王ガノッサも恐れる程だ。
連合国を束ねる立場にある国の王“ガンフ”は、自らの居城にて、諜報員から報せを受け取った。
「王よ!バルドリンガの軍が、進軍を開始いたしました!」
「ぬぅ……ついに攻めて気おったか!!真っ先に我らを敵に回したこと、後悔させてくれるわ!全軍進撃!」
パラミシアの民は、王も含め血の気が多い。
王の号令を受け、パラミシア軍はバルドリンガ目掛けて進軍する。
両軍は、バルドリンガとパラミシアの国境で相まみえることになった。
そこは大群同士の戦にはもってこいの大草原。
一早く戦場についたパラミシア軍は、迫るバルドリンガ軍を打ち破らんと隊列を成す。
張り詰めた声が敵軍の訪れを報せた。
「敵影発見!敵影発見!!直ちに戦闘体勢を取られたし!繰り返す!……」
その報せを受けた兵士たちは、剣を抜き放ち、王の号令を待つ。
軍が現れたという報せは、伝令兵によりガンフの下まで届けられる。
「王よ!敵影です!」
「あい分かった!して、戦力はいかほどだ?」
現在のパラミシア軍は、約二万の兵を従えていた。
兵自体の地力はパラミシアに軍配が上がり、その兵が二万もいれば、滅多なことでは負けることがない。
しかし、彼の国は技術改心により、新兵器を手に入れたとの噂があった。
(いかにバルドリンガが高性能な兵器を持ち出してこようとも、一万までは抗える)
パラミシアにも大砲や爆弾のような兵器はいくつかある。
それらを駆使すればもう少しは戦えるはずと、ガンフは予想した。
更にガンフには、バルドリンガの兵力に際し幾つかの予想があった。
まず、侵略を明言しているからには、万を超える兵を連れてくるはずである。
それ以下で落とせる国など、この時世に幾らも無い。
ましてやパラミシアは、暴君でも落としきれなかった強国だ。
バルドリンガとしては、出来るだけ多くの兵を動員したいことだろう。
しかし、万は超えるであろうと予想建てしながらも、耳を疑う程膨大な量を引き連れてくることは無いとガンフは確信していた。
それは彼の国を取り巻く各国の位置状況が関係する。
大陸の中心にあるバルドリンガは、貿易を行う際に必ず足を運ぶ重要な国であった。
どの国を訪れるにしても、全ての目ぼしい国と隣接するバルドリンガは、旅人にとってなくてはならない存在なのだ。
所が一度、戦となればその利点が大きな欠陥となる。
今回のように、全ての国に対し喧嘩を売ってしまえば、四方全てが敵国となってしまうのだ。
故に、パラミシアに限らず、一つの国に対し膨大な量の兵を派遣してしまえば、自国の防衛が儘ならなくなり、そこをついて攻めて来た国から、領地と民を守ることが出来ない。
ガンフ王の予想はずばり、一万五千であった。
それ以上の兵力差は、兵器を持って埋めようという考えなのだろうと。
だが、伝令兵の次の言葉で、彼は驚嘆の声を上げる。
「そ……それが……数にして三百程で……」
「三百だと!?貴様ぁ!このような状況で嘘を申すな!」
思いもよらぬ返答に、ガンフは困惑した。
平和な時代が続き、人口が増加傾向にある諸国において、一万の兵を揃えるのは大して苦ではない。
それこそ頭数だけを揃えるのであれば、大きな町一つから徴兵するだけで、容易に満たせてしまうだろう。
だというのに、彼の大国バルドリンガが揃えた兵力は僅か三百。
(三百など、そこらにある農村ですら超えられる数だろうに)
詰問された伝令兵は、更に言葉を連ねる。
「本当でございます!どうぞこれを」
そう言って、彼は王に望遠筒を差し出した。
望遠筒を覗き込んだガンフは、草原に立つ人影を見る。
確かにその数は、万には程遠く、三百くらいであると見て取れた。
「舐めおって……!皆の者、遠慮はいらん!敵兵を恐怖のどん底に……」
皆を発奮しようと声を張り上げた瞬間。
ドォォオオオン!!
地面を揺るがす程の振動。
自国の兵が人形のように吹き飛ぶ様子が、視界の端にうつった。
首を向けてみれば、兵士が並んでいた筈の場所に、大きな穴が開いている。
ガンフは直ぐに望遠筒を覗き込み、敵兵の観察をする。
確かに頭数は三百余り。
だがガンフは気づいた。
その大きさが、人間のそれではないことに。
(もしや……人ではないのか?距離があるとしても、人間の大きさではない!)
筒越しに見る軍団は動き始めた。
遂にバルドリンガが、パラミシアの蹂躙を始める。
その連合国はパラミシアと呼ばれ、バルドリンガにも匹敵する広大な領土を持ち、多国色が混ざった独特な兵術を用いる強国である。
暴君ダイガニスの強力な軍をも退けたその力は、賢王ガノッサも恐れる程だ。
連合国を束ねる立場にある国の王“ガンフ”は、自らの居城にて、諜報員から報せを受け取った。
「王よ!バルドリンガの軍が、進軍を開始いたしました!」
「ぬぅ……ついに攻めて気おったか!!真っ先に我らを敵に回したこと、後悔させてくれるわ!全軍進撃!」
パラミシアの民は、王も含め血の気が多い。
王の号令を受け、パラミシア軍はバルドリンガ目掛けて進軍する。
両軍は、バルドリンガとパラミシアの国境で相まみえることになった。
そこは大群同士の戦にはもってこいの大草原。
一早く戦場についたパラミシア軍は、迫るバルドリンガ軍を打ち破らんと隊列を成す。
張り詰めた声が敵軍の訪れを報せた。
「敵影発見!敵影発見!!直ちに戦闘体勢を取られたし!繰り返す!……」
その報せを受けた兵士たちは、剣を抜き放ち、王の号令を待つ。
軍が現れたという報せは、伝令兵によりガンフの下まで届けられる。
「王よ!敵影です!」
「あい分かった!して、戦力はいかほどだ?」
現在のパラミシア軍は、約二万の兵を従えていた。
兵自体の地力はパラミシアに軍配が上がり、その兵が二万もいれば、滅多なことでは負けることがない。
しかし、彼の国は技術改心により、新兵器を手に入れたとの噂があった。
(いかにバルドリンガが高性能な兵器を持ち出してこようとも、一万までは抗える)
パラミシアにも大砲や爆弾のような兵器はいくつかある。
それらを駆使すればもう少しは戦えるはずと、ガンフは予想した。
更にガンフには、バルドリンガの兵力に際し幾つかの予想があった。
まず、侵略を明言しているからには、万を超える兵を連れてくるはずである。
それ以下で落とせる国など、この時世に幾らも無い。
ましてやパラミシアは、暴君でも落としきれなかった強国だ。
バルドリンガとしては、出来るだけ多くの兵を動員したいことだろう。
しかし、万は超えるであろうと予想建てしながらも、耳を疑う程膨大な量を引き連れてくることは無いとガンフは確信していた。
それは彼の国を取り巻く各国の位置状況が関係する。
大陸の中心にあるバルドリンガは、貿易を行う際に必ず足を運ぶ重要な国であった。
どの国を訪れるにしても、全ての目ぼしい国と隣接するバルドリンガは、旅人にとってなくてはならない存在なのだ。
所が一度、戦となればその利点が大きな欠陥となる。
今回のように、全ての国に対し喧嘩を売ってしまえば、四方全てが敵国となってしまうのだ。
故に、パラミシアに限らず、一つの国に対し膨大な量の兵を派遣してしまえば、自国の防衛が儘ならなくなり、そこをついて攻めて来た国から、領地と民を守ることが出来ない。
ガンフ王の予想はずばり、一万五千であった。
それ以上の兵力差は、兵器を持って埋めようという考えなのだろうと。
だが、伝令兵の次の言葉で、彼は驚嘆の声を上げる。
「そ……それが……数にして三百程で……」
「三百だと!?貴様ぁ!このような状況で嘘を申すな!」
思いもよらぬ返答に、ガンフは困惑した。
平和な時代が続き、人口が増加傾向にある諸国において、一万の兵を揃えるのは大して苦ではない。
それこそ頭数だけを揃えるのであれば、大きな町一つから徴兵するだけで、容易に満たせてしまうだろう。
だというのに、彼の大国バルドリンガが揃えた兵力は僅か三百。
(三百など、そこらにある農村ですら超えられる数だろうに)
詰問された伝令兵は、更に言葉を連ねる。
「本当でございます!どうぞこれを」
そう言って、彼は王に望遠筒を差し出した。
望遠筒を覗き込んだガンフは、草原に立つ人影を見る。
確かにその数は、万には程遠く、三百くらいであると見て取れた。
「舐めおって……!皆の者、遠慮はいらん!敵兵を恐怖のどん底に……」
皆を発奮しようと声を張り上げた瞬間。
ドォォオオオン!!
地面を揺るがす程の振動。
自国の兵が人形のように吹き飛ぶ様子が、視界の端にうつった。
首を向けてみれば、兵士が並んでいた筈の場所に、大きな穴が開いている。
ガンフは直ぐに望遠筒を覗き込み、敵兵の観察をする。
確かに頭数は三百余り。
だがガンフは気づいた。
その大きさが、人間のそれではないことに。
(もしや……人ではないのか?距離があるとしても、人間の大きさではない!)
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