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5章 傀儡大会
開催
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本日は晴天なり。集う人々の頭上には、雲一つない青空が広がっている。
気候も良好で、暑くも無ければ寒くも無い程よい温かさだ。
大陸のほぼ中央に位置する王国『バルドリンガ』には、今年から開催される新たな大会を一目見ようと、各地から多くの人々が集まっていた。
彼らは口々に、気持ちの高鳴りを吐き出していく。
「凄い数の人だな。足の踏み場もないぞ」
「仕方ないよ。今年初めて催される大会だからな。しかも国の将来を担う技術を競おうというんだ。各地から人が集まるのも無理はないさ」
会場へと続く大通りは、両側に多くの出店が立ち並び、観客は思い思いの物を口に入れながら、人形劇の会場を目指す。
バルドリンガ国の現国王ハルクエルは、特設された闘技場の王族観覧席にて、会場を見下ろしていた。
開催時刻も迫りつつあり、円形を作る外壁の上段に設置された観覧席には、多くの人が犇めいている。
豪華な椅子にふんぞり返るハルクエルは、近くに控える家臣に語り掛けた。
「どうだ?なかなかに盛況ではないか」
「はい。今も続々と、王国には人がなだれ込んできております」
国王の声に恭しく礼をしたのは、かつてローゼリエッタに接触を図って来た礼儀正しき老人だ。
ジェイクの言葉に気分を良くしたハルクエルは、饒舌に語る。
「傀儡師の技術欲しさに開いた大会だ。毎年恒例とするかは置いておいて……名前くらい付けねばならんな。……そうだな……『マリオネット・バトル・ワルツ』とでも呼んでみようか。どうだ、よい名であろう?」
「流石は国王様。素晴らしいお名前です」
老人は否定することをしない。ただ笑って、若き王の言葉に同調するのみ。
それが更に、王の態度を増長させていく。
「厳密にいえば、出場者の殆どが人形ではなく魔法人形であり、二人で舞う円舞ではなく大勢で舞う輪舞の方が適切なのだろうが……私の中でこの大会の主役はあの一組だけなのだから、これで間違いあるまい」
なかなか洒落が効いている、と王は満足げに笑いを漏らした。
ハルクエルが思い出すのは、国外れの町で見た一人の少女と一つの人形。
あの時の舞と、同じ感動がもう一度味わえることに、彼は胸を高鳴らせる。
告知された時刻が来た。
ハルクエルが徐に立ち上がると、騒然としていた観客は口を閉ざし、王の言葉を待つ。
静まり返った会場に、声が響いた。
「善良なる国民諸君。遠路遥々よく来られた!よもやここで何が行われるか、説明を必要とする者はおるまい。本日は日頃の些事等忘れ、存分に楽しんでいくと良い。ではこれより、マリオネット・バトル・ワルツを開催する!」
拡散された声が残響を伴って、会場を吹き抜ける。
若干の静寂の後、会場には割れんばかりの拍手と喝采が上がった。
それに満足した国王は腰を下ろし、席に着くと自らも手を叩く。
控室に押し込められた演者の内、二つの組が呼び出され、会場に姿を現す。
どうやら大会はトーナメント方式で進むようだ。
しかし対戦表のようなものは開示されておらず、演者は出番が来た時、その都度大会運営側から呼び出される形になっていた。
また、控室は全ての演者に対し個別に与えられていて、演者は相手と対峙するその瞬間まで、対戦相手の情報を得ることは出来ないよう工夫がなされている。
様々な状況に対応できる能力があるか確認する為、と演者には伝えられていたが、真相はもっと単純で、面白そうだからと国王が独断で決めたことだった。
控室にて、ローゼリエッタとセリア、ウルカテの三人は、出番が来る瞬間を今か今かと待っていた。
彼女らの傍らには、分身ともいえる傀儡が二つ佇んでいる。
少女は緊張を拭い去ろうと、銀に輝く傀儡の体を手で撫で、不安を吹き飛ばそうと友人に声をかける。
「私……大丈夫ですよね」
弱弱しい声を聞いて、セリアは震える少女の肩に手を置いた。
「自信を持ちなさい。ロゼは十分、傀儡を操れるようになったわ」
こういった状況で、背中を押してくれる友人の存在は大きい。
ローゼリエッタは心がふっと軽くなったように感じ、ぎこちなくも微笑んで見せた。
暫くして、控室の戸がたたかれる。
次いで聞こえたのは女性の声。
「ローゼリエッタ様。順番が回ってきました。会場に向かってもらってもよろしいでしょうか」
「は、はい!」
いよいよ出番が回って来た。
ローゼリエッタは立ち上がると、十の指輪をはめ、白の騎士と共に歩き出す。
控室を出る際、背後から激励の声がかけられた。
「ロゼ!会場を思いっきり驚かせてやりなさい!」
去り際にかけられた声に、少女は力強く頷いた。
気候も良好で、暑くも無ければ寒くも無い程よい温かさだ。
大陸のほぼ中央に位置する王国『バルドリンガ』には、今年から開催される新たな大会を一目見ようと、各地から多くの人々が集まっていた。
彼らは口々に、気持ちの高鳴りを吐き出していく。
「凄い数の人だな。足の踏み場もないぞ」
「仕方ないよ。今年初めて催される大会だからな。しかも国の将来を担う技術を競おうというんだ。各地から人が集まるのも無理はないさ」
会場へと続く大通りは、両側に多くの出店が立ち並び、観客は思い思いの物を口に入れながら、人形劇の会場を目指す。
バルドリンガ国の現国王ハルクエルは、特設された闘技場の王族観覧席にて、会場を見下ろしていた。
開催時刻も迫りつつあり、円形を作る外壁の上段に設置された観覧席には、多くの人が犇めいている。
豪華な椅子にふんぞり返るハルクエルは、近くに控える家臣に語り掛けた。
「どうだ?なかなかに盛況ではないか」
「はい。今も続々と、王国には人がなだれ込んできております」
国王の声に恭しく礼をしたのは、かつてローゼリエッタに接触を図って来た礼儀正しき老人だ。
ジェイクの言葉に気分を良くしたハルクエルは、饒舌に語る。
「傀儡師の技術欲しさに開いた大会だ。毎年恒例とするかは置いておいて……名前くらい付けねばならんな。……そうだな……『マリオネット・バトル・ワルツ』とでも呼んでみようか。どうだ、よい名であろう?」
「流石は国王様。素晴らしいお名前です」
老人は否定することをしない。ただ笑って、若き王の言葉に同調するのみ。
それが更に、王の態度を増長させていく。
「厳密にいえば、出場者の殆どが人形ではなく魔法人形であり、二人で舞う円舞ではなく大勢で舞う輪舞の方が適切なのだろうが……私の中でこの大会の主役はあの一組だけなのだから、これで間違いあるまい」
なかなか洒落が効いている、と王は満足げに笑いを漏らした。
ハルクエルが思い出すのは、国外れの町で見た一人の少女と一つの人形。
あの時の舞と、同じ感動がもう一度味わえることに、彼は胸を高鳴らせる。
告知された時刻が来た。
ハルクエルが徐に立ち上がると、騒然としていた観客は口を閉ざし、王の言葉を待つ。
静まり返った会場に、声が響いた。
「善良なる国民諸君。遠路遥々よく来られた!よもやここで何が行われるか、説明を必要とする者はおるまい。本日は日頃の些事等忘れ、存分に楽しんでいくと良い。ではこれより、マリオネット・バトル・ワルツを開催する!」
拡散された声が残響を伴って、会場を吹き抜ける。
若干の静寂の後、会場には割れんばかりの拍手と喝采が上がった。
それに満足した国王は腰を下ろし、席に着くと自らも手を叩く。
控室に押し込められた演者の内、二つの組が呼び出され、会場に姿を現す。
どうやら大会はトーナメント方式で進むようだ。
しかし対戦表のようなものは開示されておらず、演者は出番が来た時、その都度大会運営側から呼び出される形になっていた。
また、控室は全ての演者に対し個別に与えられていて、演者は相手と対峙するその瞬間まで、対戦相手の情報を得ることは出来ないよう工夫がなされている。
様々な状況に対応できる能力があるか確認する為、と演者には伝えられていたが、真相はもっと単純で、面白そうだからと国王が独断で決めたことだった。
控室にて、ローゼリエッタとセリア、ウルカテの三人は、出番が来る瞬間を今か今かと待っていた。
彼女らの傍らには、分身ともいえる傀儡が二つ佇んでいる。
少女は緊張を拭い去ろうと、銀に輝く傀儡の体を手で撫で、不安を吹き飛ばそうと友人に声をかける。
「私……大丈夫ですよね」
弱弱しい声を聞いて、セリアは震える少女の肩に手を置いた。
「自信を持ちなさい。ロゼは十分、傀儡を操れるようになったわ」
こういった状況で、背中を押してくれる友人の存在は大きい。
ローゼリエッタは心がふっと軽くなったように感じ、ぎこちなくも微笑んで見せた。
暫くして、控室の戸がたたかれる。
次いで聞こえたのは女性の声。
「ローゼリエッタ様。順番が回ってきました。会場に向かってもらってもよろしいでしょうか」
「は、はい!」
いよいよ出番が回って来た。
ローゼリエッタは立ち上がると、十の指輪をはめ、白の騎士と共に歩き出す。
控室を出る際、背後から激励の声がかけられた。
「ロゼ!会場を思いっきり驚かせてやりなさい!」
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