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4章 融合
傀儡製作 2
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一日を消費して、ローゼリエッタは人形の部品を作成した。
出来上がったそれらは、荒が目立つが、組み立てればそれなりの格好は付くだろう。
後は糸を繋げるだけで傀儡人形が出来上がる……などとそう簡単にはいかない。
傀儡製作はまだまだ始まったばかり。
二人は直ぐに次の作業に取り掛かる。
ローゼリエッタは、出来上がった鉄の部品を研磨し始めた。
余計についた凸凹を均し滑らかにしていく。
これを怠れば、見栄えだけでなく戦いにまで支障をきたす要因となってしまう。
敵の振った剣が凹凸に引っ掛かり、要らぬ傷を作りかねないのだ。
少しの凹みも逃さぬよう、少女は只管研磨機と睨めっこを続けた。
研磨と細かな調整によって、三日が過ぎ去った。
今ローゼリエッタが手にしている部品が終えたら、無事、全ての部品の研磨が終わる。
出来上がった部品は一つの傷も無く、まるで鏡のように光を反射し綺麗に輝く。
その部品を見下ろして、セリアは研磨機に向かう少女に語り掛けた。
「……何よ、いい出来じゃない。木製しか作って無かったっていうのは嘘だったのかしら?」
「数か月に一度程度ですけど、自立する鎧人形の依頼も来ますから」
雑談も交えながら、最後の研磨が終了する。
ここまでは一般的な鉄の傀儡の作り方だ。
完成度に違いはあれど、他家も然程変わらぬ工程を踏む。
だがここからは、傀儡師銘家のトレット家だからこそ、成しうることが出来る人形に変わっていく。
ローゼリエッタは、一つの鉄の箱を取り出した。
それは以前セリアに見せていた、人形の心臓部。
彼女らは、糸を用いて異常な傀儡技術を体現するトレット家の技を、鉄の傀儡人形にも用いようと考えたのだ。
糸だけでは足りない力を、魔力の力を併用することで使用に耐えうる領域まで引き上げる。
これによりローゼリエッタの操る傀儡は、鉄であろうともアリスのような動きが可能となるだろう。
二人の工夫はこれだけにとどまらない。
セリアは部品を掴み、組み立てた時内側に当たる面を指さして口を開く。
「ここに『魔法石』を組み込んでみない?」
「魔法石?組み込むことは出来ますけど……」
それをした結果どういった成果が得られるのか、ローゼリエッタにはまるで想像ができなかった。
魔法石とは、特定の魔法が封じ込められた宝石を指す言葉だ。
これは、魔力を流すことで封じ込められた魔法が解放される仕組みで、魔法使いでなくても魔力さえ持っていれば、特定の魔法が扱えるようになる魔法道具の一種である。
これまでも何人かの傀儡師が、この考えに行きついたことがある。
しかしそのどれもが、理想の形を成すに至らなかった。
セリアにも身に覚えがあるようで、少々歯切れ悪く語り出す。
「私もやろうと思ったことがあるんだけど……魔法石まで気が回らなくてね。止まっている時ならいざ知らず、戦っている中で魔法を放つなんて芸当、私には出来なかったわ」
乾いた笑いと共に頭に浮かんだ苦い思い出を、頭を振ることで追い出す。
それから彼女は、ローゼリエッタに機構の施し方を説明し始めた。
魔法石を組み込み、それを運用する機構の製作、そして細々とした調整に役三日の時間がかかった。
それから更に心臓部の作成で六日が過ぎ、漸くローゼリエッタの傀儡人形が汲み上がるという頃には、二人が人形の館を訪れてから、十五日の時間が経とうとしていた。
ローゼリエッタは、出来上がった部品を一つずつ、丁寧に組み上げていく。
足、腰、胴、腕、頭……。
汲みあがった傀儡は、窓から差す日差しを浴び、綺麗に研磨された体を嬉しそうに輝やかせた。
少女の中に溢れるのは、言葉に言い表せない程の達成感と幸福感。この瞬間こそが、傀儡師であることに喜びを感じる至福の時。
叫び声を上げたくなるのを必死に我慢し、少女は鉄の箱を持ち上げる。
胸部の装甲を外し、人でいう正に心臓部に当たる位置に、箱を設置する。
最後に胸部を戻して、全ての作業が終了した。
セリアの目の前にある傀儡は、実に素晴らしい出来だった。
日の光を浴びて銀に輝く胴体。
細くとも、力強さを感じさせる重厚な手足。
ローゼリエッタの作った鉄の傀儡は、セリアの操る黒の騎士とは一味違う、『武』を感じさせる美しさがあった。
「……いい。……凄くいいわ」
言葉はローゼリエッタに投げかけながらも、彼女の視線は傀儡に釘付けだ。
思わずセリアは、自身の黒の騎士を隣に立たせる。
黒と白の騎士が並ぶその姿は圧巻の一言で、二人の少女は胸を高鳴らせた。
出来上がったそれらは、荒が目立つが、組み立てればそれなりの格好は付くだろう。
後は糸を繋げるだけで傀儡人形が出来上がる……などとそう簡単にはいかない。
傀儡製作はまだまだ始まったばかり。
二人は直ぐに次の作業に取り掛かる。
ローゼリエッタは、出来上がった鉄の部品を研磨し始めた。
余計についた凸凹を均し滑らかにしていく。
これを怠れば、見栄えだけでなく戦いにまで支障をきたす要因となってしまう。
敵の振った剣が凹凸に引っ掛かり、要らぬ傷を作りかねないのだ。
少しの凹みも逃さぬよう、少女は只管研磨機と睨めっこを続けた。
研磨と細かな調整によって、三日が過ぎ去った。
今ローゼリエッタが手にしている部品が終えたら、無事、全ての部品の研磨が終わる。
出来上がった部品は一つの傷も無く、まるで鏡のように光を反射し綺麗に輝く。
その部品を見下ろして、セリアは研磨機に向かう少女に語り掛けた。
「……何よ、いい出来じゃない。木製しか作って無かったっていうのは嘘だったのかしら?」
「数か月に一度程度ですけど、自立する鎧人形の依頼も来ますから」
雑談も交えながら、最後の研磨が終了する。
ここまでは一般的な鉄の傀儡の作り方だ。
完成度に違いはあれど、他家も然程変わらぬ工程を踏む。
だがここからは、傀儡師銘家のトレット家だからこそ、成しうることが出来る人形に変わっていく。
ローゼリエッタは、一つの鉄の箱を取り出した。
それは以前セリアに見せていた、人形の心臓部。
彼女らは、糸を用いて異常な傀儡技術を体現するトレット家の技を、鉄の傀儡人形にも用いようと考えたのだ。
糸だけでは足りない力を、魔力の力を併用することで使用に耐えうる領域まで引き上げる。
これによりローゼリエッタの操る傀儡は、鉄であろうともアリスのような動きが可能となるだろう。
二人の工夫はこれだけにとどまらない。
セリアは部品を掴み、組み立てた時内側に当たる面を指さして口を開く。
「ここに『魔法石』を組み込んでみない?」
「魔法石?組み込むことは出来ますけど……」
それをした結果どういった成果が得られるのか、ローゼリエッタにはまるで想像ができなかった。
魔法石とは、特定の魔法が封じ込められた宝石を指す言葉だ。
これは、魔力を流すことで封じ込められた魔法が解放される仕組みで、魔法使いでなくても魔力さえ持っていれば、特定の魔法が扱えるようになる魔法道具の一種である。
これまでも何人かの傀儡師が、この考えに行きついたことがある。
しかしそのどれもが、理想の形を成すに至らなかった。
セリアにも身に覚えがあるようで、少々歯切れ悪く語り出す。
「私もやろうと思ったことがあるんだけど……魔法石まで気が回らなくてね。止まっている時ならいざ知らず、戦っている中で魔法を放つなんて芸当、私には出来なかったわ」
乾いた笑いと共に頭に浮かんだ苦い思い出を、頭を振ることで追い出す。
それから彼女は、ローゼリエッタに機構の施し方を説明し始めた。
魔法石を組み込み、それを運用する機構の製作、そして細々とした調整に役三日の時間がかかった。
それから更に心臓部の作成で六日が過ぎ、漸くローゼリエッタの傀儡人形が汲み上がるという頃には、二人が人形の館を訪れてから、十五日の時間が経とうとしていた。
ローゼリエッタは、出来上がった部品を一つずつ、丁寧に組み上げていく。
足、腰、胴、腕、頭……。
汲みあがった傀儡は、窓から差す日差しを浴び、綺麗に研磨された体を嬉しそうに輝やかせた。
少女の中に溢れるのは、言葉に言い表せない程の達成感と幸福感。この瞬間こそが、傀儡師であることに喜びを感じる至福の時。
叫び声を上げたくなるのを必死に我慢し、少女は鉄の箱を持ち上げる。
胸部の装甲を外し、人でいう正に心臓部に当たる位置に、箱を設置する。
最後に胸部を戻して、全ての作業が終了した。
セリアの目の前にある傀儡は、実に素晴らしい出来だった。
日の光を浴びて銀に輝く胴体。
細くとも、力強さを感じさせる重厚な手足。
ローゼリエッタの作った鉄の傀儡は、セリアの操る黒の騎士とは一味違う、『武』を感じさせる美しさがあった。
「……いい。……凄くいいわ」
言葉はローゼリエッタに投げかけながらも、彼女の視線は傀儡に釘付けだ。
思わずセリアは、自身の黒の騎士を隣に立たせる。
黒と白の騎士が並ぶその姿は圧巻の一言で、二人の少女は胸を高鳴らせた。
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