反魂の傀儡使い

菅原

文字の大きさ
上 下
19 / 153
4章 融合

傀儡製作 2

しおりを挟む
 一日を消費して、ローゼリエッタは人形の部品を作成した。
出来上がったそれらは、荒が目立つが、組み立てればそれなりの格好は付くだろう。
後は糸を繋げるだけで傀儡人形が出来上がる……などとそう簡単にはいかない。
傀儡製作はまだまだ始まったばかり。
二人は直ぐに次の作業に取り掛かる。

 ローゼリエッタは、出来上がった鉄の部品を研磨し始めた。
余計についた凸凹をならし滑らかにしていく。
これを怠れば、見栄えだけでなく戦いにまで支障をきたす要因となってしまう。
敵の振った剣が凹凸に引っ掛かり、要らぬ傷を作りかねないのだ。
少しの凹みも逃さぬよう、少女は只管研磨機と睨めっこを続けた。


 研磨と細かな調整によって、三日が過ぎ去った。
今ローゼリエッタが手にしている部品が終えたら、無事、全ての部品の研磨が終わる。
出来上がった部品は一つの傷も無く、まるで鏡のように光を反射し綺麗に輝く。
その部品を見下ろして、セリアは研磨機に向かう少女に語り掛けた。
「……何よ、いい出来じゃない。木製しか作って無かったっていうのは嘘だったのかしら?」
「数か月に一度程度ですけど、自立する鎧人形の依頼も来ますから」
雑談も交えながら、最後の研磨が終了する。
 ここまでは一般的な鉄の傀儡の作り方だ。
完成度に違いはあれど、他家も然程変わらぬ工程を踏む。
だがここからは、傀儡師銘家のトレット家だからこそ、成しうることが出来る人形に変わっていく。

 ローゼリエッタは、一つの鉄の箱を取り出した。
それは以前セリアに見せていた、人形の心臓部。
彼女らは、糸を用いて異常な傀儡技術を体現するトレット家の技を、鉄の傀儡人形にも用いようと考えたのだ。
 糸だけでは足りない力を、魔力の力を併用することで使用に耐えうる領域まで引き上げる。
これによりローゼリエッタの操る傀儡は、鉄であろうともアリスのような動きが可能となるだろう。

 二人の工夫はこれだけにとどまらない。
セリアは部品を掴み、組み立てた時内側に当たる面を指さして口を開く。
「ここに『魔法石』を組み込んでみない?」
「魔法石?組み込むことは出来ますけど……」
それをした結果どういった成果が得られるのか、ローゼリエッタにはまるで想像ができなかった。


 魔法石とは、特定の魔法が封じ込められた宝石を指す言葉だ。
これは、魔力を流すことで封じ込められた魔法が解放される仕組みで、魔法使いでなくても魔力さえ持っていれば、特定の魔法が扱えるようになる魔法道具マジックアイテムの一種である。


 これまでも何人かの傀儡師が、この考えに行きついたことがある。
しかしそのどれもが、理想の形を成すに至らなかった。
 セリアにも身に覚えがあるようで、少々歯切れ悪く語り出す。
「私もやろうと思ったことがあるんだけど……魔法石まで気が回らなくてね。止まっている時ならいざ知らず、戦っている中で魔法を放つなんて芸当、私には出来なかったわ」
乾いた笑いと共に頭に浮かんだ苦い思い出を、頭を振ることで追い出す。
それから彼女は、ローゼリエッタに機構の施し方を説明し始めた。


 魔法石を組み込み、それを運用する機構の製作、そして細々とした調整に役三日の時間がかかった。
それから更に心臓部の作成で六日が過ぎ、漸くローゼリエッタの傀儡人形が汲み上がるという頃には、二人が人形の館を訪れてから、十五日の時間が経とうとしていた。
 ローゼリエッタは、出来上がった部品を一つずつ、丁寧に組み上げていく。
足、腰、胴、腕、頭……。
汲みあがった傀儡は、窓から差す日差しを浴び、綺麗に研磨された体を嬉しそうに輝やかせた。

 少女の中に溢れるのは、言葉に言い表せない程の達成感と幸福感。この瞬間こそが、傀儡師であることに喜びを感じる至福の時。
叫び声を上げたくなるのを必死に我慢し、少女は鉄の箱を持ち上げる。
胸部の装甲を外し、人でいう正に心臓部に当たる位置に、箱を設置する。
最後に胸部を戻して、全ての作業が終了した。

 セリアの目の前にある傀儡は、実に素晴らしい出来だった。
日の光を浴びて銀に輝く胴体。
細くとも、力強さを感じさせる重厚な手足。
ローゼリエッタの作った鉄の傀儡は、セリアの操る黒の騎士とは一味違う、『武』を感じさせる美しさがあった。
「……いい。……凄くいいわ」
言葉はローゼリエッタに投げかけながらも、彼女の視線は傀儡に釘付けだ。
 思わずセリアは、自身の黒の騎士を隣に立たせる。
黒と白の騎士が並ぶその姿は圧巻の一言で、二人の少女は胸を高鳴らせた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚してるのに、屋敷を出たら幸せでした。

恋愛系
恋愛
屋敷が大っ嫌いだったミア。 そして、屋敷から出ると決め 計画を実行したら 皮肉にも失敗しそうになっていた。 そんな時彼に出会い。 王国の陛下を捨てて、村で元気に暮らす! と、そんな時に聖騎士が来た

ヒトガタの命

天乃 彗
ファンタジー
記憶をなくした代わりに、命なきはずの「人形」たちの声が届くようになった少女・サラ。 彼女は唯一覚えていた自分の名前だけを持って、記憶を取り戻すべく放浪する。 一風変わった人形たちとの、優しくて少し悲しい、出会いと別れの物語。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうやら主人公は付喪人のようです。 ~付喪神の力で闘う異世界カフェ生活?~【完結済み】

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸
ファンタジー
鍵を手に入れる…………それは獲得候補者の使命である。 これは、自身の未来と世界の未来を知り、信じる道を進んでいく男の物語。 そして、これはあらゆる時の中で行われた、付喪人と呼ばれる“付喪神の能力を操り戦う者”達の戦いの記録の1つである……。 ★女神によって異世界?へ送られた主人公。 着いた先は異世界要素と現実世界要素の入り交じり、ついでに付喪神もいる世界であった!! この物語は彼が憑依することになった明山平死郎(あきやまへいしろう)がお贈りする。 個性豊かなバイト仲間や市民と共に送る、異世界?付喪人ライフ。 そして、さらに個性のある魔王軍との闘い。 今、付喪人のシリーズの第1弾が幕を開ける!!! なろうノベプラ

【完結】ループ5回目にして、登場人物に第3皇子殿下が増えてしまいました

えくれあ
恋愛
伯爵家の長女、シェリル・アトリーは何度も同じ時間を繰り返している。 何度繰り返しても、婚約者であるフランツ・エルドレッドに振り向いてもらえることなく、学園の卒業の日に死を迎え、振り出しに戻ってしまう。 そして、ループを終わらせる方法が見つからず、絶望の中で5回目を迎えた時、それまでの法則を覆して、第3皇子であるカミユ殿下が登場してきた。 どんな形でもいいから、このループを終わらせたい。 そんなシェリルの願いは、今度こそ叶うのだろうか。

処理中です...