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4章 融合
傀儡製作 1
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森にある人の出入りが殆どない人形の館に、二人の傀儡師が訪れていた。
彼女らの目的は、大陸一の人形技師を決める大会で使う、戦闘用傀儡人形の製作だ。
それに加えて、半端な形で終わってしまった、ローゼリエッタの魔力操作訓練も同時進行していかなければならない。
朝早く、ローゼリエッタとセリアは、人形の館にある工房で屯していた。
セリアの守護者であるウルカテは、先日の件で負った傷がまだ癒えていない為に、町の病院で養成中である。
町にある支店の作業部屋とは比べ物にならない程の、万全な作業部屋を見て、セリアは感嘆の声を漏らした。
「へぇ……流石はトレット家の工房ね。どれも一流の道具だし、見たことないものも幾つかあるわ」
始めてみる機材の内で、特に彼女が気にかけたのは、湾曲した刃がついている台であった。
その台は以前、セリアが疑問に思っていた技術を可能とする機材だった。
「それは綺麗な曲線を作る器具です。ここをこうすると……刃の高さが調節できるんです。使うにしても少し癖が強くて……私も時々失敗しちゃいます」
まざまざと、注意深く観察するセリア。
その子供の様に無邪気なセリアを見て、ローゼリエッタは思わず微笑んだ。
傀儡人形を作るうえで、最も大事なのは、人形全体を構築する素材の選定だ。
頑丈な物を選べば選ぶほど、敵の武器による攻撃を無視することが出来る。
鉱石ほどの硬さがあれば、殴るだけでも脅威となるだろう。
唯この点は、操作性との兼ね合いを考えなければならない。
実際に、強度を求めて全てを鉱石で作っておきながら、魔力操作の技術が追い付かず、指一つ動かせない、なんて失敗をする傀儡師は意外と多い。
これを考慮して、技術の未熟な傀儡師は、鉱石と木を使い分けたりと、様々な工夫を施した。
ローゼリエッタの案内で、セリアは工房から別の部屋へと通される。
そこは素材庫。人形の材料となる様々な素材が保管されている部屋だ。
中を覗けば、一見物がごった返していて、少々雑多に見える。
だが実は程よく手入れがされており、どの素材も傀儡一体作れる程度は確保されていた。
素材が詰まった木箱を覗き、セリアは鉄塊を一つ手に持ってローゼリエッタに尋ねる。
「それで、一体何の素材で作るつもり?あまり背伸びをすると、貴女の魔力操作技術じゃ無駄骨になっちゃうわよ?」
言葉と共に、何の気なしに辺りを見渡した彼女は、暫し言葉を無くしてしまった。
鉄が詰まった箱の隣には、金や水晶、果てには魔鉱石といった、希少鉱石が詰まった箱が幾つも並んでいるではないか。
まるで宝の山を見ているかのように、セリアの胸は高鳴る。
「……嘘でしょう?魔鉱石がこんなに……これで作れたら相当有利になるでしょうけど、操れなければ意味ないものね」
セリアはため息をついて、鉄塊を元に戻し、開いた手で魔鉱石を撫でた。
魔鉱石は、火山の奥深く、炎の精霊が住む個所で取れる非常に硬い鉱石だ。
そこに足を踏み入れることが出来る人間は極稀で、品自体が市場に出回ることなど殆どなく、傀儡一体が作れる量を集めるには、小さな屋敷一つでは済まない金額が必要となるだろう。
それだけの希少鉱石が、文字通り山積みになっている。
宝を目の前にして、セリアは悔しそうに歯噛みした。
ローゼリエッタは、幾つかの木箱を覗き込むと、最後に鉄の入った箱の前で呟く。
「鉄が丁度いいと思うんですけど……私にはまだ難しいですか?」
少女は不安げにセリアに尋ねた。
怒りに任せて、と言えば口が悪いが、少女は一応糸を操ることが出来た。
だがその糸は、魔力に良く反応する精霊石で出来たものであり、これも非常に高価な代物だ。
実際の傀儡糸にそこまで金をかけることは出来ない為、あの緑の糸を使うわけにはいかない。
流石に裁縫用とまでは言わないが、少なくとも精霊石の糸よりかは、反応も鈍い物となる。
それを踏まえた上で、セリアは唸った。
「そうねぇ……もう少し頑張ったら出来るとは思うけど……」
セリアの希望が含まれたその言葉で、少女は鉄で傀儡を作ることに決めた。
鉱石を使った人形の製作は、どちらかと言えば鍛冶師の仕事に近い。
鉄であれば鉄塊を溶かし、対応した型に流し込む。
各部位をそうして作り、最後に全てを繋ぎ合わせて傀儡とするのだ。
ようは全身鎧を作る要領で作っていけば良いわけだ。
しかし当然ながら、鍛冶師に頼むわけにはいかない。
製作するにあたって傀儡師は、操る者にしかわからない、細かな機構や拘りのようなものを、細部に渡って散りばめなければならないからだ。
足りない技術を補う為、また、製作者の我儘を実現する為に、傀儡師の工房には、鍛冶師の工房にある機材よりも、高価で手のかかった一品が置かれていた。
ローゼリエッタは、大きな一つの機材の前に立つ。
それは、横に大きな長方形の箱に、縦に円形の筒が付いたもの。
体全体を覆う、厳重な防護服を着こんだ少女は、自身の倍以上の高さがあるそれを登り、筒の先から鉄塊を放り込んでいく。
これは高速融解炉である。
鉄塊は、炎属性魔法の力によって超高温となった筒の中で、高速に溶かされ液状となる。
その後、下にある箱の中を通り、側面の小さな排出口から、真っ赤な液体となって排出される。
その先には傀儡の部品を象った型が置かれていて、どろどろに溶けた鉄は、流れ落ちる先から型の中へと注ぎ込まれていった。
十分な量が入ったことを確認すると、ローゼリエッタは型に蓋をする。
すると蓋に付与された氷属性魔法が発動し、高温の鉄を急速に冷やし固めていった。
その行程を何度も繰り返し、あっという間に体の部品が出来上がる。
破損した時の為に幾つかの予備まで作り、漸く一息つく頃には日も落ちてしまった。
残りの作業は後日に回して、魔力操作の訓練を少しだけ行い、夜も更ける頃二人は眠りについた。
彼女らの目的は、大陸一の人形技師を決める大会で使う、戦闘用傀儡人形の製作だ。
それに加えて、半端な形で終わってしまった、ローゼリエッタの魔力操作訓練も同時進行していかなければならない。
朝早く、ローゼリエッタとセリアは、人形の館にある工房で屯していた。
セリアの守護者であるウルカテは、先日の件で負った傷がまだ癒えていない為に、町の病院で養成中である。
町にある支店の作業部屋とは比べ物にならない程の、万全な作業部屋を見て、セリアは感嘆の声を漏らした。
「へぇ……流石はトレット家の工房ね。どれも一流の道具だし、見たことないものも幾つかあるわ」
始めてみる機材の内で、特に彼女が気にかけたのは、湾曲した刃がついている台であった。
その台は以前、セリアが疑問に思っていた技術を可能とする機材だった。
「それは綺麗な曲線を作る器具です。ここをこうすると……刃の高さが調節できるんです。使うにしても少し癖が強くて……私も時々失敗しちゃいます」
まざまざと、注意深く観察するセリア。
その子供の様に無邪気なセリアを見て、ローゼリエッタは思わず微笑んだ。
傀儡人形を作るうえで、最も大事なのは、人形全体を構築する素材の選定だ。
頑丈な物を選べば選ぶほど、敵の武器による攻撃を無視することが出来る。
鉱石ほどの硬さがあれば、殴るだけでも脅威となるだろう。
唯この点は、操作性との兼ね合いを考えなければならない。
実際に、強度を求めて全てを鉱石で作っておきながら、魔力操作の技術が追い付かず、指一つ動かせない、なんて失敗をする傀儡師は意外と多い。
これを考慮して、技術の未熟な傀儡師は、鉱石と木を使い分けたりと、様々な工夫を施した。
ローゼリエッタの案内で、セリアは工房から別の部屋へと通される。
そこは素材庫。人形の材料となる様々な素材が保管されている部屋だ。
中を覗けば、一見物がごった返していて、少々雑多に見える。
だが実は程よく手入れがされており、どの素材も傀儡一体作れる程度は確保されていた。
素材が詰まった木箱を覗き、セリアは鉄塊を一つ手に持ってローゼリエッタに尋ねる。
「それで、一体何の素材で作るつもり?あまり背伸びをすると、貴女の魔力操作技術じゃ無駄骨になっちゃうわよ?」
言葉と共に、何の気なしに辺りを見渡した彼女は、暫し言葉を無くしてしまった。
鉄が詰まった箱の隣には、金や水晶、果てには魔鉱石といった、希少鉱石が詰まった箱が幾つも並んでいるではないか。
まるで宝の山を見ているかのように、セリアの胸は高鳴る。
「……嘘でしょう?魔鉱石がこんなに……これで作れたら相当有利になるでしょうけど、操れなければ意味ないものね」
セリアはため息をついて、鉄塊を元に戻し、開いた手で魔鉱石を撫でた。
魔鉱石は、火山の奥深く、炎の精霊が住む個所で取れる非常に硬い鉱石だ。
そこに足を踏み入れることが出来る人間は極稀で、品自体が市場に出回ることなど殆どなく、傀儡一体が作れる量を集めるには、小さな屋敷一つでは済まない金額が必要となるだろう。
それだけの希少鉱石が、文字通り山積みになっている。
宝を目の前にして、セリアは悔しそうに歯噛みした。
ローゼリエッタは、幾つかの木箱を覗き込むと、最後に鉄の入った箱の前で呟く。
「鉄が丁度いいと思うんですけど……私にはまだ難しいですか?」
少女は不安げにセリアに尋ねた。
怒りに任せて、と言えば口が悪いが、少女は一応糸を操ることが出来た。
だがその糸は、魔力に良く反応する精霊石で出来たものであり、これも非常に高価な代物だ。
実際の傀儡糸にそこまで金をかけることは出来ない為、あの緑の糸を使うわけにはいかない。
流石に裁縫用とまでは言わないが、少なくとも精霊石の糸よりかは、反応も鈍い物となる。
それを踏まえた上で、セリアは唸った。
「そうねぇ……もう少し頑張ったら出来るとは思うけど……」
セリアの希望が含まれたその言葉で、少女は鉄で傀儡を作ることに決めた。
鉱石を使った人形の製作は、どちらかと言えば鍛冶師の仕事に近い。
鉄であれば鉄塊を溶かし、対応した型に流し込む。
各部位をそうして作り、最後に全てを繋ぎ合わせて傀儡とするのだ。
ようは全身鎧を作る要領で作っていけば良いわけだ。
しかし当然ながら、鍛冶師に頼むわけにはいかない。
製作するにあたって傀儡師は、操る者にしかわからない、細かな機構や拘りのようなものを、細部に渡って散りばめなければならないからだ。
足りない技術を補う為、また、製作者の我儘を実現する為に、傀儡師の工房には、鍛冶師の工房にある機材よりも、高価で手のかかった一品が置かれていた。
ローゼリエッタは、大きな一つの機材の前に立つ。
それは、横に大きな長方形の箱に、縦に円形の筒が付いたもの。
体全体を覆う、厳重な防護服を着こんだ少女は、自身の倍以上の高さがあるそれを登り、筒の先から鉄塊を放り込んでいく。
これは高速融解炉である。
鉄塊は、炎属性魔法の力によって超高温となった筒の中で、高速に溶かされ液状となる。
その後、下にある箱の中を通り、側面の小さな排出口から、真っ赤な液体となって排出される。
その先には傀儡の部品を象った型が置かれていて、どろどろに溶けた鉄は、流れ落ちる先から型の中へと注ぎ込まれていった。
十分な量が入ったことを確認すると、ローゼリエッタは型に蓋をする。
すると蓋に付与された氷属性魔法が発動し、高温の鉄を急速に冷やし固めていった。
その行程を何度も繰り返し、あっという間に体の部品が出来上がる。
破損した時の為に幾つかの予備まで作り、漸く一息つく頃には日も落ちてしまった。
残りの作業は後日に回して、魔力操作の訓練を少しだけ行い、夜も更ける頃二人は眠りについた。
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